第22話 新たな目標と完成したワゴン


 ライラは、今まで俺になんていっていた。よく思い出すんだ。

 メルルのお菓子をどこまで売りたいのか。手を貸す貴族がいたらどうするか。それに、お菓子の作り方を買いたい人を、紹介してくれると約束してくれた。もしかしなくても、それってライラ自身ってことだったのか!?


 ごくりと息を飲んだその時、メルルが「師匠!」と大きな声を上げた。


「なんだ、メルル」

「あ、あまり……ヘイゼルさんに、意地悪をするのは、い、いけない、かと」


 エプロンをぎゅっと握りしめ、プルプル震えながら訴えようとしてくれている。

 でも、これは意地悪なんかじゃないんだ。きっと、ライラの俺に対する試験みたいなもの。

 いくら「金持ちの道楽」といっていても、誰かれ構わず手を差し伸べてる訳じゃないだろう。もしそうなら、こんな回りくどいことをしない。

 きっと、ライラには隠している目的があるんだ。それがなにかは、わからないけど……貧乏な俺に、ライラの差し伸べた手を掴む以外、選択肢はないだろう!


「ライラさん!」

「なんだ、ヘイゼル」

「一か月後、新しい魔法のお菓子が作れたら……ノウハウを売る事業を手伝ってください!」

「ほう……では、両親は捨てるというのだな?」

「いいえ! それでは、俺の『願い』は叶いません」

「ふむ。強欲だな。しかし、まあ……子どもらしい」


 一歩たりとも引く気はない。

 俺の願いは、俺一人の幸せではないんだ。金持ちになれたとして、そこに家族がいなければ意味がない。

 ライラを真っ向から見つめると「そうだな」と呟きが聞こえた。


「約束のものができれば……両親の働き口くらいは世話しようではないか。お前の父は、なかなかよい家具を作るからな。私の紹介があれば、引く手あまたであろう。そうすれば、一家そろってヴァンノーラに移り住めるだろう?」

「住む家もですよね? 仕事があっても、澄む家がなければ凍え死にます」

「ははっ! 本当に強欲だ。この星屑の魔女ライラ様にそこまで願う子どもは初めてだ!」


 ライラの大笑いに、やりすぎたかと一瞬焦ったが、「まあいい」とあっさり受け入れられてしまった。


「しかし、魔法のお菓子ができなければ……メルルの試験も不合格となる。そのくらいの覚悟で挑むことだ」


 ライラはローブを翻すと「一か月後を楽しみにしているぞ」と言い残して、帰っていった。

 残され俺たちは、へなへなとそろって床に座り込んだ。唯一、グレースだけがきょとんとした顔をしている。


「ヘイゼル……魔女によく、あれほど強気に出られたな。父さんは、寿命が縮んだよ」


 顔を引きつらせる父さんと笑い合う。

 本当にそうだ。よく考えたら、貴族に対してとんだ失礼なことをいったもんだ。俺、子どもでよかったな……下手したら、首が飛んでたぞ。


「で、でもこれで、皆さんと、これからも一緒に、あの……ありがとうございますぅ」


 おろおろしながらメルルが床に頭を擦りつけた。


「頑張って、魔法のお菓子作ります……でも、ま、魔法のお菓子って……ヘイゼルさん、ど、どうするんですかぁ?」

「……大丈夫、なんとか考える!」


 きっと転生前の記憶にヒントがあるはずだ。今は、なにも思いつかないけど。


「とりあえず、まずは村でお菓子の販売だ!」


 気合を入れると、父さんが「そうだと」いって立ち上がった。


「ワゴンが出来上がったぞ」

「本当に!?」

「ああ、頼まれた通り、屋根付きの手押し車だ。引き出せる代も付けたが」

「見に行く! メルルさんも、行こう!!」


 まだ床でふらふらしているメルルの手を引っ張ると、グレースもかけてきて「メルルちゃんも一緒!」と笑った。


 父さんの工場に入ると、むわっと木の香りがした。

 木くずに埋もれるようにして、茶色の小さなワゴンがそこにあった。大きな木の車輪が四つついて、いる。屋根にはお願いした看板下げられ、お菓子を並べるワゴンの側面には引き出せる台がついていた。


「この台はなんですか?」

「ここで、ショーを見せるんだ」

「……ショー?」

「ああ。ジンジャーマンのパフォーマンスをね!」


 星の形をした看板に彫られた「Merlu’s Lucky Sweets」の文字を見て、深く息を吸い込んだ。


 メルルのお菓子は幸せを呼ぶ。

 必ず、成功させるんだ!

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