天界預かり物保管課は今日も忙しい
黒い猫
第1章 真面目さと葛藤
第1話
「うっ……」
朝の明るい光に目が
遮光性のあるカーテンを付けていればもう少しマシなのかも知れないが、残念ながら日の光から逃れる様に布団を被る彼の部屋にそんな立派な物はない。
「うー」
いくら「死後の世界」と別名で呼ばれる『天界』であっても地上と同じように朝や夜というものは存在する。つまり、地上で亡くなってもほぼ同じような「一日」を送るという訳だ。
二度寝を決め込もうとしたが、残念ながら今日も仕事があるのでそうそう二度寝もしていられないし、それを咎めてくれる人もいない。
「はぁ、起きるか」
仕方がないと渋々起き上がり、洗面所へと向かう。
そして、いつもの様に歯磨きをしながら適当に朝食に使えそうなものを物色し、食パンをトースターにセットした。
「ふぅ」
洗面所から出ると、既に食パンは焼きあがっており、焼き立てでもないのでそのまま口でくわえて食べながら仕事に行く準備をする。
「……」
こうして仕事の準備をしながらふと『運命』というのは廻り続ける。たとえ死んだとしても――。
ただ、これは彼自身の言葉では安喰「そんな言葉が現世にはある」と仕事で関わった人から聞いたものである。
これに関する彼の答えは「それはそうだろう」だ。
なにせ、地上で亡くなった生き物は余程の例外。極悪人でない限り「生まれ変わる」のだから。
それに、彼らがいなければ彼を含めた自分たちの仕事の存在自体を否定する事になってしまう。
つまり、ここにいる彼は「地上で亡くなった人」ではなく「天界で生まれた人間」なのだ。
「はぁ、行くか」
食パンを食べ終わり準備したリュックに腕を通す。正直、仕事に行く時はいつも気乗りしない。
でも、彼が仕事をしなければ困る人は……果たしているのかは仕事の内容的には甚だ疑問ではあるが、仕事をしなければ生活が出来ない。
ちなみに、この『天界』において「地上で亡くなったの人」たちに対して自分たちの仕事が彼らと何も関係のないヤツはいないはずだ。
まぁ、それはそれとして……今日も彼の仕事は始まる。
「あらあら、坊ちゃんじゃない」
「……その言い方、止めてくれませんか」
自身のスぬ古びたマンションの部屋のドアを閉めながら真っ先に聞こえて来た大家さんの声にげんなりしつつ、彼『
「そうは言ってもねぇ。ほら、ここに住んでいる子で若い子ってあなただけだから」
大家さんはそう言って笑う。
「あら、もう行くの?」
「……ええ、早くしないと遅刻するので」
「あらそう? 行ってらっしゃい」
「はい、行ってきます」
大家である彼女自身。嫌味のつもりは全くないのだろう。ただ、思っている事をそのまま口にしてしまうだけで。
要するに良くも悪くも「素直」という訳なのだ。それならば下手に応じる必要もないし、そもそも時間が無い。
「後々良からぬ方向に行かなければいいけどな」
なんて人の心配をしている暇もないくせに、陸人は掃き掃除をしている大家の方をチラッと見つつ、小さく呟いて職場へと向かった。
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