第九話:そして、記憶は牙を剥く

【SE:カチカチ……と逆回転する秒針の音】


「思い出す――」


拓也の声は震えていない。

だが、彼の頭の中では、記憶が**“逆巻いて”いた。**


数秒前まで見ていた光景が、ぐしゃりと潰れ、

彼の“最初の夜”の記憶に――書き換わる。


レオがいない。

母ウニが初対面。

チクニーザウルスが、まだ彼の“敵”か“味方”かすらわからない。


だが、書き換えられたはずの記憶の奥底に、残っていた。


「忘れるな。お前は一人じゃない」


それを“覚えている”こと自体が、もう異常だった。


「記憶を操作するだけじゃ、俺の意志までは折れない」


そう、思えた――その瞬間だった。


ともだちの顔が変わった。


いや、顔はそのままだ。

表情だけが、まるで“操られたように”変わったのだ。


「拓也……あなた、“変わった”ね?」

ピクミンの声が冷たくなっていた。


「……最初から君、そんなふうにみんなを疑ってたっけ?」

マサヒコが言う。


「なあ、レオは最初からいなかったんだよ」

「チクニーザウルスなんて……そんなやつ、いたか?」


全員が“同じこと”を言い出していた。


「お前たち……」

拓也は一歩、後ずさった。


そのとき、謎の男が口元だけで笑った。


「“逆走”とは、“孤独”に辿り着く旅だよ、拓也」


【SE:低く、乾いた咆哮――どこかで、何かが吠えた】


部屋の明かりが、一斉に落ちた。

暗闇のなか、ただひとつ、月だけが天井に浮かんでいた。


そして、声が響く――

「最後の“人狼”は、すでに放たれている」


拓也は、そのとき、ようやく気づいた。

この檻にいる“誰か”ではない。

“記憶”そのものが、人狼だったのだ。

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