第2話 勧誘

「なんなん今から仕事行くんやけど」

怪訝そうな顔、ここで負けてはいけない。

「あの私達、神戸高校の方から来ました。お話聞いていただきたいんです!」

「神和大学?神大生かいな!」

間違ってるけど私、神大生なので間違いでもないか・・・

「その横にある天真教のものなんです。今日はその教義をお知らせしたくて・・・」


「わたし耶蘇教の信者やねん。間に合っとるわ」

「やっやそきょう?知りませんね・・・新興宗教ですか?」

「耶蘇教も知らんのかいな?まぁあんたら若いから知らんでも不思議やないけど」


おばさんは一瞬考えるようではあったが・・・

「あんた別嬪さんやな、女優の・・・なんか「たけしの番組」アンビリバボーやったかそこに出てた子に似てるわ・・・

よっしゃ、体調悪かったから半日休みとっとったけどな、一日休みに替えるわ・・・

上がり上がり・・・」

おばさんは門扉を開けて玄関の戸の鍵をガチャガチヤさせた。


「あのぅ軒先で結構ですんで、お話きいてもらうだけで・・・」

「なんや、わしにずっと立っとけいうんか?

調子悪いから休んどんやで、しんどいわ・・・立ち話もなんやから、上がり上がり」


どうする、ここでそんなに時間とられへんし一軒目やし・・・

そやけどなぁ折角話聞いてくれるというてはるんやから

あぶなくない?

中年のおじさんならそうだけど、おばさんやし・・・それはないんちゃう?


わたしは連れの子と暫し躊躇したが・・・


「はよ入り!入り!!」

手招きするおばさんに負けて中に入ることにした。


饐えた嫌な臭いがした。

親戚のおばさんの家に入った時に嗅ぐ「生活臭」だ。

いやだなぁと思いながらも上がりかまちで靴をぬぐ。


おばさんは玄関横の台所にいる。

正面は暗い二階に続く階段だ・・・


狭い台所だと思ったが四畳半か・・・玄関の横は浴室のようだ・・・

生活臭は酷くなった

奥は六畳だろうか・・・ダンボールでいっぱいだ。ボードゲーム?


「パインサイダージュースがあるねん」

おばさんは冷蔵庫から缶のままのサイダーを三缶取り出した。

「座り座り」

おばさんはキッチンにあるテーブルのガラクタを横にどかして空間を作った。

おばさんは六畳を背にして奥、わたしはその正面、連れは横の冷蔵庫側に座った。


かなり狭い、膝と膝がつきそうだ。

私はパンフレットを取り出して、教区庁司祭に教わったマニュアルどうりの勧誘を

五分ほど行った。


「なるほど、なるほど、その日を楽しく、その日暮らしの天真教か。

仕事に行く途中でハッピきたおじさんが拍子木打って説法しとったわ」

「そうですそうです、神戸駅ですか?それ教区長です!」


私達は手応えを感じた。今思えばここで引き返すべきだった・・・

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