第16話



一人ずつ話を聞く為に僕と倫太郎は客間へ移動し、まず慎二に話を聞く。

「昨日の事って言っても特に話せる事なんかないぞ」

慎二はソファに座り足を組んだ。

僕達も机を挟んで反対側のソファに座る。

内容を忘れない様に、と僕はノートを開く。

「まず、昨日の一日の行動を覚えている限りで良いので聞かせてほしい」

「そうだな昼食後は部屋で休んでたよ。お前らもそうだろ。休むって言ってもここじゃ携帯も碌に使えないからやる事なくて暇だったよ。仕方がないから隣の荒井の部屋に遊びに行ったんだけど、何度ノックしても出てこないからまた部屋に戻った。それからは部屋で過ごしていたけれど、小腹が空いたからのり子さんに何か出してもらおうと食堂へ向かったよ。確か十六時頃だったはずだ」

「のり子さんからは、慎二と荒井の二人に軽食を出したって聞いたけど別々で来たのかい」

「あぁ、一回目部屋に行った時に反応が無かったから一人で行ったんだ。そしたら十分後くらいに荒井も腹減ったって食堂に来たんだ。そこからは荒井とのり子さんと食堂で夕食まで過ごしてたよ」


次に荒井に話を聞く。

荒井は先程の慎二とは違い、両足を揃え、背筋をピンと伸ばしソファへ腰を降ろす。

慎二と共に行動している事が多いので、勘違いされやすいが彼の本質は真面目な男だ。

「昨日ですか、お昼を食べた後は部屋にずっといましたよ。珈琲が飲みたくなったので食堂に行ったら慎二さんがいたので、その後は一緒に食堂にいました」

あれ、慎二の話だと何度ノックをしても部屋から反応がなかったから、居なかったのではって話だったけれど。

「ずっと部屋にいたのかい。誰か部屋に訪ねては来なかったか」

倫太郎も同様の事を思ったようだ。

「来なかったと思いますけど。でも俺イヤフォンで音楽を聴いていたから、もしかしたら聞こえなかっただけかもしれないです。最近あるバンドにハマっててずっと聴いているんですよ、ダウンロード済みだから電波関係なく聴けますしね。佐々木にも以前オススメの曲教えたよな」

確か人気急上昇中のロックバンドだった筈だ。

普段僕はあまり音楽を聞かないが、かっこいい曲だったのは覚えている。

「ここだけの話、俺真琴先生を殺害したの杏奈だと思ってるんですよ」

荒井の発言に僕はおもわず身を乗り出す。

「何かそう思う理由があるんですか」

「俺は杏奈と仲良いから、真琴先生と付き合ってた当初もよく話を聞かされてたんだよ。皆には隠しているけどあの二人別れる時相当揉めたみたいで。話聞く度殺してやりたいって言ってたよ。それに昨日俺が風呂から上がった時に、真琴先生の部屋の前で二人が口論になっているのを見たんだ。杏奈は別れた事に納得いってないみたいだったから、その勢いで殺してしまったのかなって」


自慢の黒髪を後ろで一つに纏め、目元を赤くした杏奈は伏目がちでソファへと座る。

こちらを見ようともしない。

「夕食までは部屋にいたわよ、何回かトイレには行ったけどね。これくらいしか私から話せる事ないわよ」

杏奈はぶっきらぼうにそう言った。

「何か気になる事はあった?」

「別にないけど」

「そうか、話は変わるけど杏奈は真琴先生と何かトラブルがあったのかい」

杏奈はその言葉に、眉をピクつかせ倫太郎の方を軽く睨みつけると、一つため息をついた。

「もしかして荒井から何か聞いたのかしら。正直言うと私真琴先生と別れたくなかったの。

上手くいってたのに突然に別れようと言われたのよ。理由を聞いても教えてくれないし。だから昨日の夜も問い詰めようと真琴先生の部屋に行ったの。多分その時をあいつに見られたんじゃないかしら。でも結局話は進まずだったけどね。これまで悲しみと怒りで何度殺してやりたいと思った事か。でもまさか本当に死んでしまうとは思わなかったわ」

数秒の沈黙が流れ倫太郎が口を開く。

「そうか、杏奈は頑張ったんだね。真琴先生への憎しみがあるのは本当だろうけど、君が抱いている気持ちはそれだけではないだろう」

その言葉を聞き杏奈が大きく息を吐き出した。

先程のため息とは違い、自分を落ち着かせようとしているのだと僕には分かった。

倫太郎の落ち着きをみて、杏奈も冷静になったようだ。

「真琴先生の事恨んでもいたけれど好きだった気持ちは本当よ。私別れた理由は、真琴先生と美波が付き合い始めたからだと思っているの。最近二人が学校で話しているところをよく見かけていたから。まあこれは女の勘だけど」


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