きらきら学園VTuber部
春休み
Prologue 私の頭のキャンドルに火を点けて
1
「んー、どうしよっかなぁー……」
お気に入りの音楽アルバムを聴き終えて、私――
好きな娯楽はうんとあるが、それでも尚、私の脳みそは更なる愉しみを欲している。
何かが足りない……。
中学を楽しく
大人になって、一企業に務め働くことにも憂鬱を感じていない。
それが、私だからだ。
それなのに、
Cave inのBrain candleの歌詞の様だ。
私の頭のキャンドルに火を着ける何かを、熱烈に求めているのだ!
「んんー、どうしよっかなぁー……」
もう寝てしまうか? はたまた、
頭の
「新しい更新のある歴史解説でも見よっかな……」
厚い激励で以って
同接数は165人とそんなに多くは無いから、私へのお薦めなのだろう。私は、何とはなしにそれをクリックした。
カチッ!
配信タイトル【2周間心霊スポットの井戸の中に潜んで、肝試しに来る奴を脅しに脅してやるぞぉぉ!!! ――グランドフィナーレ――】
「で、井戸の中に2週間も居るとね、もうこの世に私は居ないっていうか……、でも、居なくても確かにこの世に存在してるっていうか……、エヘヘへ。あっ、来たよ!」
〝何言ってんのww??〟
〝おぉっ、来たか!?〟
〝うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!〟
〝次の獲物も骨の髄まで脅かしてやれ!!〟
〝頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ!!!!!!〟
どこかの山奥の荒れ果てた小屋。その
「……ここが、そうなの?」
「そう。あの小屋では2人の女学生が仲良く首吊したって噂があるんだ……。で、あっちが例の井戸だ! あの井戸からは、夜な夜な陰鬱なメンヘラ幽霊が『彼氏になって~、彼氏になって~』って恨めしそうに出てくるんだってさ……」
「え? そのメンヘラ幽霊、なんか陰キャすぎじゃない!? てか、女学生らはどこいったの!?」
「そのメンヘラ幽霊は、あまりにも彼氏ができなくて、世を怨んで自殺したみたいなんだ。一度見ると、10年は取り憑いてくるみたいだぜ」
「うわぁ、キモッ! 絶対陰キャじゃん、そのメンヘラ幽霊!!」
どうやら、肝試しにやって来たのはカップルみたいだ。その時、ふと、井戸の方から幽かな声が聞こえてきた。
「……すぞ」
「え、今、何か聞こえなかったか!?」
「私にも聞こえたよ! クラスに居た、
「心配すんな、かなみは俺が必ず守ってやるから! おい、メンヘラ幽霊! 彼氏が出来ない位で自殺とか、お前の先祖もさぞ呆れてるだろう! そのうじうじな魂じゃ、阿弥陀様にも『この魂、臭い』てゴミ箱にポイって捨てられたんだろ! その先が、その井戸ってわけだ! お前、極楽浄土から門前払いを食らってるじゃねーか! てか、お前に彼氏が出来なかったのってさ、お前の顔があまりにもぶさいくだったからじゃ……」
「お前等さぁ~……、脳天カチ割るぞ、ゴラァァァァァァ~~~~!!」
男女の背後より突如ドス声が雷鳴の如く轟く。振り向いた2人が見たものは、
「「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
カップルは泡を吹いて気絶し、仲良く地面にバターンと倒れた。
〝おぉ、やったぞーーーー!!!!!!〟
〝wwwwwwwwwwwwwwwwww〟
〝うおぉっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!〟
〝これで累計50人目だ!〟
〝今回滅茶苦茶恨みこもってたぜ!〟
〝いいぞ! さぁさぁ、もっとやろう!!〟
「いやいや、もう無理だし! 今日最終日だよ!?」
配信画面には、泡を吹いて倒れているカップルの顔が大きくアップされている。画面の右下には、申し訳程度に置かれているVTuberアバターがある。どうやら、実写系のVTuberみたいだ。
コメントが異様な熱気で盛り上がりを見せ、彼女はそれにピースサインで応えていた。
正直、私は驚いた。これ位の同接数だと、大抵は内輪向けのまったりした配信の方が多いからだ。私も今夜は、それを求めてこの配信を開いたのだ。それなのに、意に反して、めちゃくちゃ面白かった。
思っていたものと違ったものなのに、凄く面白い。それって、面白さが担保されている配信よりも心に残るのだ!
「これだ!」
私は部屋を飛び出し、階段を降りて、居間に居た両親に向かい、
「お父さん、お母さん、私、高校ではVTuberやるから!」
高らかにそう宣言して、またすぐに自室へと駆けていった。
「……VTuberって、何だ?」
「さぁ? それよりあの子、高校生になったらもう少し大人になってくれるといいんだけど……」
✫
部屋に戻った私は今までの私とは違っていた。私の頭のキャンドルには間違いなく火が点いている。未だ盛り上がっている心霊ドッキリ配信が映るモニタをじっと見つめながら、燃え盛っている。
私に足らなかったもの。私のキャンドルに着火してくれるもの。それは、ずっと外からの炎だと思っていたし、それは間違いではなかった。
でも、それだけじゃ足りなかったんだ。私のキャンドルを点火させるには、私自身の燃え盛る思いが必要だったのだ! 自らを燃やす事がこんなにも気持ち良かったなんて……。放火魔も自分自身に火を点けたら、そうしたら、きっと、自分が本当に燃やしたかったものが何だったのかに気付く事だろう。
春の夜空が瞬く中、燃え盛っている私は、休みが明けるのを既に待っている。そこには、何かを待ち望んでいた数分前の私はもういなかった。
「高校生活、楽しみだなぁー!」
そして私は、未来への期待にしづ心なくその夜を明かしたのだ。
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