3章20話:無限に続く階段

「一気に殲滅させましょう」


「わかった」


 響くネオンの鋭い声に、アヤートは頷く。

 後ろから現れたツチノコ集団をアヤートが担当、ネオンが前にいるツチノコ集団を担当。自然とそんなフォーメーションになり、ネオンとアヤートは背中を向け合い、各々の相手を視線で射抜く。

 相手が攻撃するより先、二人は魔法を打ち込んだ。


 ネオンは炎魔法を発動し、炎の弾丸を形成した。それをひたすら乱射する。弾丸の風を吹かせるが如く。数打てば当たるのも当然のことで、魔物の悲鳴が響いた。同時に、焦げる匂いも湧き立つ。


 アヤートは氷魔法を発動した。煌めく氷は茨へと変化し、真っ直ぐ魔物へ飛びついては絡みつき、動きを封じる。そのまま締め上げられ、茨の棘が深くめり込んでいき、魔物は悲鳴を搾り取られる。


 飛び散るツチノコの血は紫色で、毒々しい。全身が猛毒な彼らは、もちろん血も猛毒。アヤートは念のため氷の盾を作り構えながら攻撃を続けた。


 魔物は魔法耐性を持つ者も多い。しかし、ツチノコ、しかも集団相手に魔法なしで近接戦を挑むのは望ましくない。

 故に、強引に攻撃を入れ続ける。魔法を発動し続ける体力、魔法耐性などちっぽけな抵抗でしかないほどの高火力を必要とする、強者の特権だ。


 ツチノコは大した抵抗する暇もなく命を散らしていき、死骸が積み重なり、血の水溜まりができる。

 3メートル近い大きいサイズのツチノコはその分耐久力もあり少し手間取ったものの、ツチノコを殲滅させることに成功した。


「はぁ……なんとか無事に終わってよかったですね」


「うん。少しヒヤヒヤしたよ」


 汗一つかいていなく余裕そうなアヤートのその返答には少々疑問だ。


 ツチノコの死骸を燃やし尽くし、血の水溜まりを蒸発させて処理してから、遺跡のさらなる奥へ二人は足を進める。


 すれば、開けた空間があり、その中心に佇む女の石像を発見した。大きな羽が生え、天使を連想せずにはいられない石像。身長が180センチを超えるアヤートの倍近い大きさだ。

 苔が薄く生え、部分部分にヒビが入っており、長年そこにいたことがみればわかる。だからか、石像は顔がのっぺらぼうで表情がないのに寂しそうに思える。

 異質な存在感に、ネオンとアヤートは思わず足を止め、じっと視線を向けた。


「また何か書いてありますね」


 石像の土台へ視線を移せば、統一感のない丸みを帯びたり角ばったりした文字がある。

 石壁に書いてあったものは内容が想像できなかったが、今回、石像の土台へ刻まれた文字は短い文であり、石像のタイトルだと予想はつく。もしくは、石像の人物の名前か。


「……この文字、僕は見覚えがあるかもしれない」


「えっ」


 アヤートがしゃがみ、その文字を撫でる。ネオンがその発言に驚いた声をあげた直後だった。


 石像が地響きと共に動き出した。重々しい石の擦れる音が響き、冷たい空気が震える。

 表情のないの石像の顔と視線を混じらせ緊張が走る。そして、石像は動くのをやめた。

 

 石像が横に動いたことにより、現れたのは地下へと続く階段だった。

 しかし、階段の先は暗闇ではなく、設置された青い炎が揺らめき、海の中かのようだった。

  

 二人は顔を見合わせ、導かれるように進むことを決める。



———



 青い炎は両壁に等間隔で存在していて、階段を降りていくネオンとアヤートと距離は近い。しかし熱をほとんど感じず、照らすことだけが目的かのようだ。

 反面、真っ直ぐ下へ下へと続く階段は先が見えず、どれだけ足を進めればいいのか不明瞭。

 

「……この階段、いつまで続くんだろうね」


 靴音だけが響く中に、アヤートの声が入る。

 早くも10分ほど二人は下り続けていた。その疑問を抱くのも仕方のないことだ。


「あんまり先が続くようなら一旦戻って後日来てもいいかもですね」


「うん。フミーの様子も気になるし、もう何分か経っても続くようなら戻ろうか」


 ネオンの提案にアヤートは頷く。

 里の人たちはこのような地下があるなど言ってなかった。故にここは里の人たちも知らない隠された場所であり、ネオンたちが来る必要性のなかった場所だろう。

 そこを急いで探索する必要性は薄い。


 そうして、10分経っても階段の先は見えず、ネオンとアヤートを降りてきた階段を上って戻ることにシフトする。階段を下りることよりも上がることの方がエネルギーを使うが、二人は体力に自信があるため、そんなのは誤差だった。


「アヤート」


「なんだい?」


 ネオンはアヤートを左腕に視線を向けながら呼びかけた。


「そういえば、左腕の調子どうですか?」


 ネオンは尋ねる。と言うのも、アヤートの左腕はネオンの作った義手であるからだ。そして、リーゼとリクが協力して接合した物。

 アヤートは組織からの度重なる人体実験の過程で左腕を消失していた。だが、その義手は違和感なく、アヤートの左腕にある。


「左腕を失ったのがまるで嘘のようだよ」


 アヤートは左腕を掲げて目を細める。


「そうですか。頑丈に作ってあるので簡単には壊れないですが何かあったら言ってくださいね」



———


「そういえば、お土産屋さんがあったから里から帰る時に何か買っていこう」


「いいですね。リクにたくさん買ってってあげることにします」



———



「ネオ・ハクターのお墓ってどこにあるんだい? 今度お墓参りに行きたいんだけど」


「ないです。彼女の死体は特別な管理をしてますし作ってません」


「そうか……」


「でも、作ってみるのもいいかもしれません。今さらですかね……」


「君は、彼女の家族みたいなものだろう。いいと思うよ」


「……フミーと同じことを言うんですね」



———



「リーゼは生きてるでしょうか」


「大丈夫、生きてるよ」


「でも、妙な能面もいたし、そいつに囲まれたり動きを封じられたりしたら……」


「心配なんだね」


「逆に、アヤートは違うんですか。私が心配しすぎなだけですかね。フミーもあんまりそんな素振りありませんし」


「僕も心配だよ。きっとフミーもそう。ただ、リーゼさんは何があっても生きてそうな生命力があると思うよ」


「そんなの、リーゼにありますかね……」



———



「最近読んでおもしろかった本とかあるかい?」


「うーん。ネオ・ハクターと違って私は本読むのがそれほど好きじゃないんですが、この前読んだフィクション小説はおもしろかったですね」


「へぇ。どんな話?」


「まず、悪魔が登場して——」



———



「アヤートはこの先に何があると思いますか」


「個人的には、偉人の残した手記とかあればワクワクする」


「ピンときませんね。私は金銀財宝がいいです。研究所の修理費に当てられる」


「逆に何もないただの隠し部屋、なんてこともあるかもね」


「これだけ時間かけてそれならガッカリ。でも現実って案外そんなもんな気がするんですよねー……」



———



 照らされ青く染められた階段を一定のリズムで二人は一段一段、踏みしめていく。


 話題が何回変わっただろうか。何段上がっただろうか。何分経っただろうか。


「私の感覚がおかしくなければ1時間半ぐらい経ちましたよね」


「僕もそれくらい経った気がするよ。……不思議だ。とっくに地下を出てもいいはずなのに」


 間違いなく、下った段数以上に上っている。

 これが、異常な状況であることに二人は気づいていた。


「生き埋めになるか出られるか一か八かですが、壁や天井に穴開けてみます?」


「それは最終手段にしよう」


 リスキーなネオンの提案は保留となる。

 

 ともあれ、無限に続く階段に二人は閉じ込められたことは確かなのだろう。

 終わらない階段を歩き続ける二人を、壁で光を灯す炎は嘲笑うように揺れていた。

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