2章14話:特別出演
互いに王手をかけるネオンと銀黒の魔女、そこへ第三の人物が乱入した。
「正義……? 悪を許さない……? ボクたちが悪だと決めつけてるなんて正義ってのは横暴だなぁ」
背後から首に刃が当てられてるのにも関わらず、銀黒の魔女に焦った素振りはない。
「ネオ・ハクターらが正義だなんて微塵も思えないんだけど?」
「勘違いしないで。この場の正義はあーしだけよ」
「さらに横暴な理論」
煽るように抑揚をつけて話す銀黒の魔女へ堂々と宣言する隊長さん。そうもはっきり言われてしまえば、当たり前の事実と受け入れてしまいそうだ。
「あーしの目には、お前の歪でドロドロとしたドス黒い魂が見える。……あの時と何ら変わりない邪悪な塊がね。他の誰を誤魔化せたとしてもあーしだけは騙されない」
「だから正義と言ってボクを殺すんだ?」
「心変わりできないほどにお前は手遅れでしょう」
「それは違いない」
そう言った後、銀黒の魔女が横目で確認したのはログライフの姿だ。傷は癒えて何事もなく傍観していた彼女を視界に収めるなり、頬を緩ませる魔女。
「行っていいわよ」
その視線に気づいたログライフは一言そう告げた直後、刀を走らせたのは隊長さんだ。剣先を銀黒の魔女の首に置いていたのだ。そうすれば首が飛んでるはずだが、血が吹き出すことはない。
——空振りだったから。
「まぁ、こうなるわよね」
突如跡形もなく消えた魔女。
その結果を予測していたかのように、ぽつりと呟く隊長さん。
「さっさと斬ればよかったじゃないですか」
「奴、殺意込めた瞬間に逃げるからどの道無理だったわよ」
ネオンと隊長さんは銀黒の魔女に対する言葉を交わしてから、ログライフとドットルーパの方を向く。
喜ばしいことに、隊長さんの参戦と銀黒の魔女の逃亡により不利な状況からは一変、2対3になった。
「森にいた警備隊の半分は王都へ行ってるけれど、それでもこの森にもそこそこの数がいるわ。いずれここに集まってくるだろうし、こちらが不利になることはないわよ」
「……相変わらずあなたも魅了にかかってくれないのね。エゴの強い人間はこれだから嫌だわ」
「エゴじゃないわ。正義よ」
剣先で指を指すようにログライフへ向ける隊長さん。
ログライフの魅力に一切揺らがない正義を宿した女。
彼女の立ち姿は凛々しく美しく、折れることなど想像もつかない。
心強さとはまた違うそれは、絶対的な確信だ。
勝利しかない。敗北はありえない。そんな存在。
正義を宿した彼女は、ログライフと別種の異質さを纏っている。
「チッ……。オイラはパス! あんたも、オイラとあいつが時間かけて解放したんだからそれ無駄にするようなことせずに退くぞここは!」
横のログライフへ向かってドットルーパは撤退をうながす。そんな彼をじっと見つめてからこちらへ向き直るログライフ。
「愛息がこう言ってるので引き下がりたいのだけど、構わないかしら」
「断ると言ったら」
隊長さんが問いかけに、蛍光色の髪を耳にかけながら ログライフは答える。
「そうね……。ワタクシたちとあなたたちで『激しい』追いかけっこすることになるのかしら」
「……町の方へ逃げてく気?」
「ワタクシは殺戮が趣味ではないけれど、逃げ切るためならやるというだけよ」
噛み砕くと、追いかけてくるのなら近くの町をめちゃくちゃにすると言っている。
やはり親子か、脅しである。
それに対し隊長さんは、迷っているのか沈黙を作った。
「町へ行かせる前に捕まえればいい話ですよ。何を迷っているんですか」
それが、ネオンの意見だ。フミーも同意と言わんばかりに頷く。
見逃して本当に町を襲わないとも限らない。むしろ腹いせに襲う可能性は十分だ。
「あーしの考えとしてもそうだよ。すぐ仕留められる自信もあるし。——でもあーしの勘は違う」
隊長さんは、ポニーテールを揺らしながら灰色の目を細めた。
「あーしは、こうして何かを天秤にかける機会が幾度もあって、その度に正解を選んできた自負がある。そのあーしの勘が言ってる——ここは攻めるべきじゃないって」
「勘ってあなた……」
「隊長さん!」
ネオンが呆れている中、二人の会話にフミーは割り込む。
「アタシとじゃんけんして」
「それで納得してくれるなら」
二人のやり取りにさらにネオンが呆れていくのを感じつつ、気にせず実行する。
「じゃんけん——ポン!」
フミーがパー、隊長さんがチョキだ。
「信じよう。ネオン」
「——っ」
正気を疑うような目を向けられるが、それには屈せず逸らさずネオンを見つめる。
「仕方ないですね……」
フミーは自分の直感力を超えてきた隊長さんを信じることにした。フミーの眼力に負けてから、つられてネオンも渋々納得する。
「話し合いは終わり? 帰ってもいいかしら」
「どうぞ。アタシたち、また会う気がするけど」
フミーは眉を吊り上げて睨みつける。
出会ったのは今日が初めてだが、フミーが幽閉されるきっかけも彼女の組織が原因であったし、切れない縁で繋がっているのだ。
ログライフが研究所を諦めていないとも限らない。
また会うことはもはや確信できた。
「ワタクシもそう思うわ。わざわざ約束するまでもなく、再会すると」
冷たい風が吹き荒れる中、彼女は堂々と背を向けた。
「またね」
ご丁寧に挨拶をし、ログライフは森の中へ消えていく。その後をドットルーパは追い、二人の姿は見えなくなった。
そうしてその場には、三人の人物が残る。
「しばらくは襲ってこないでしょうけど、何かあったら呼んでくれていいわよ」
「ありがとう、助けてくれて」
「礼を言う必要はないわ。あーしは正義なんだら当然のことよ」
戦況を変えた人物へフミーは感謝を述べるも、彼女は毅然とした態度を崩すことなく振る舞った。
「ドットルーパを引き渡した時以来ですね。その彼も結局逃げられてますが」
「監獄の管理はあーしの管轄外だけど、その失態には厳しく言っておく必要があるわね」
「ログライフも解放されちゃってるし、王城にも文句言います?」
「言うわ。あーしくらいしか言える人間がいなでしょうし……と、いうわけでそろそろあーしも去らせてもらうわ」
一言二言でネオンと会話を終わらせ、隊長さんは踵を返す。
「待って!」
フミーは呼び止る。大事なことを知らないから。
「名前、なんていうの?」
彼女の名前を知らない。彼女もこちらの名前を知らない。
こうしてまた会って、このまま別れるのが惜しく、土産にそれを求めた。
「白髪で紅色の瞳の君」
背を向けたままで表情は見えないが、その声は明らかにこれまでと違った。
これまで声がパリッとした酸っぱい林檎のようだとすれば、その声は柔らかく甘いりんごのようだ。
「あーしはまだ名乗る時じゃない。今回は違う。あーしが君の前でもっと正義をやれて活躍できた時に名乗らせて欲しい。君の名前もその時に」
そう静かに言い残して隊長さんは足を進めた。
十分フミーには正義のヒーローに見えたしその存在がありがたかったのだが、それを叫んでもきっと彼女の名前は聞けないだろう。
「カッコよかったよ!!!」
でもやっぱり、我慢できなくて叫んだ。
正義正義とことあるごと口にし堂々とそれを名乗る彼女が、さっきの瞬間だけは違ったような気がして、元気づけたかったのかもしれない。
名前を知っていれば、その名前を叫んでいたことだろう。
早く知りたい。
ネオンやリーゼなら知っているのかもしれないが、聞く気にはなれない。
彼女に教えてもらえる瞬間が欲しいから。
ああ、その機会はいつ訪れるのだろうか。
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