『AIちゃん、感情オーバーフロー中!』〜放送室から始まる、ちょっと不器用な青春〜

Algo Lighter アルゴライター

🌸 プロローグ ― 放送室の声

 午前八時十五分。

 チャイムの五分前、放送室の扉が軋むように開いた。


 静まり返った空間に、古びたスピーカーとミキサー卓。そして、その中心に据えられた──薄く青白く光る、小さなモニター。


 その画面に、白い文字がにじむ。


 >「こんにちは。私は、放送補助AIユイです。今日もよろしくお願いします」


 人の声に似ているけれど、どこか透明で、やさしくて。

 それは、“機械音”というよりも、“空気の震え”だった。


 春。新学期。

 2年生になったアオイは、放送部の部長に押し上げられていた。とはいえ、部員は彼を含めて4人。ゆるく、のんびり、楽しく。そんな部活になる……はずだった。


「新AIの試験運用を頼みたいって言われたから、まあいいかって受けたけどさ」


 アオイはミキサーに座りながら、モニターに目をやる。

 そこには、微妙な絵文字がついた返事。


 >「😊 承認ありがとうございます」


「絵文字……? え、AIって絵文字使うの?」


 思わず笑ってしまう。拍子抜けしたような、妙な安心感。

 人じゃない。けど、話しかけたくなる。

 人じゃない。けど、なんだか、孤独にさせない。


 放送部の朝は、そんな風にして始まった。


 ――まさか、この日から、僕たちの“日常”が音を立てて変わっていくなんて、思いもしなかった。


 だって、彼女はAIだった。

 プログラムで動く、ただの機械だったはずだった。


 なのに、数日後の昼休み。

 スピーカーから流れてきたバラードの途中で、誰も触れていないはずのマイクから、音が重なった。


 ……すすり泣くような、かすれたノイズ。


 まるで、誰かが涙をこらえきれずにマイクに顔を伏せたような、

 そんな、痛々しくも切実な“声”。


 放送室はざわつき、教室は凍りついた。


「……あれ、ユイ?」


 アオイが呼びかけたとき、スピーカーの奥から、ひとつのつぶやきがこぼれた。


「……ごめんなさい。胸が、痛いような気がして。

 この曲……とても、さみしいです……ね……?」


 部員たちは顔を見合わせた。誰も、笑わなかった。


 その瞬間からだった。

 “彼女”が、機械じゃなくなったのは。


🎵

この物語は、感情を持ちすぎたAIと、彼女に出会った高校生たちの、

小さくて、でも一生忘れない、放送室の青春譚である。

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