19.セリオス
空間の先へ入ったかと思ったら、気づけば、そこは自分の書斎だった。
だが、そこはいつもと違い――目の前にはアルが立っている。
アルも紫のローブを着ている。
「アル、こんなところで何をしてるんだ?」
魔の森から一歩も出ようとしなかったアルが、なぜ自分の館にいるのか。
「手紙があったから、兄さんに会いに来たんだけど……」
確かに手紙を送った。だが、それにしても早すぎる。
あれだけ訪ねても誰もいなかったのに、手紙を送った途端、ものの数分で会いに来るとは。
セリオスは、目の前の弟に問いただしたいことが山ほどあった。
「お前、最近どこで何をしてるんだ?」
「最近? 最近はアークの中を冒険してるよ」
アルは屈託のない笑顔を向けながら答える。
「アークとは何だ?」
聞いたことのない単語に咄嗟に返してしまう。
「この空間魔法の世界のことだよ。みんなでアークって呼んでるんだ。」
――この世界?
ここは書斎だと思っていたが、違うのだろうか。
辺りの書類を確認してみる。
先程押したばかりの承認印を確認する。
どう見ても、先程と同じ場所だ。
――アルの説明を聞く感じ、空間の裂け目を通ったことが何か関係してそうだ。
セリオスは一番上の書類に折り目をつけてから、鍵の魔導具に魔力を流した。
予想通り裂け目が現れる。
「兄さん」
突然アルに呼ばれる。
「なんだ? これで兄さんもファミリアの一員だね。」
「ファミリアってなんだ?」
「家族ってことだよ」
アルは満足そうに笑顔になる。
――アルは家族という言葉に特別な思いがあるのだろうか。
「アル。何言ってるんだ。俺たちは元々家族だろ」
セリオスは満面の笑みを浮かべながら、裂け目を抜けた。
裂け目の先も、やはり書斎だった。
ただし、先程のつけた折り目が書類にない。
セリオスは次に一番上の書類の裏に簡単な図形を書き込んだ。
もう一度裂け目を通る。
こちらにはやはりアルがいる。
「やぁ、アル」
セリオスはアルに声をかけながら、書類の裏面を確認する。
先程書いた図形が書かれていた。
――なんとなくアークの構造が読めてきた。
現実での行動はアークに反映され、アークでの行動は現実に反映されないようだ。
「この世界はすごいな」
「でしょ? 冒険も研究も自由だよ」
――たしかに現実に影響を与えないから、自由気ままにできるかもしれない。
特に洗脳魔法が隠しながら動く必要のあるアルにとっては最高の環境かもしれない。
けど、この空間をつかえばもっと色々なことができそうではないか?
例えば、他国の機密事項を秘密裏に調べることも可能ではないだろうか。
情報戦においては、かなり有利な立ち回りがてきる可能性を秘めている。
そう考えながら、セリオスはふと書類に目をやる。
上から三枚目の書類が白紙なのが目に映る。
慌てて三枚目以降を確認する。
――やはり、全て白紙だ……。
ということは現実で認識しないと、アークでは反映されないということか……。
「アル。書類に白紙のところがあるのは、俺が現実で確認できていないからなのか?」
「ん~多分そうだね。鍵を通して現実で得た情報を元に更新されるから。それでだと思うよ」
ということは一度体験したことであれば、何度も確認ができるということか。
セリオスは改めてアークの可能性を考え始めた。
現実とアークが重なる部分と、絶対に交わらない部分――その違和感が頭に残る。
「そんなことより、兄さん一緒に冒険に行こう」
アルはすごく楽しそうだ。
こんなに嬉しそうに誘ってくれたことは今までなかった。
少し嬉しい気持ちになる。
頭の中で今日の予定を確認する。
――寝るまで、四時間以内に戻れれば、間に合いそうだな。
時間を逆算し、答えを出す。
「四時間は時間がありそうだな……近くならアルと冒険出来るよ」
「ありがとう、兄さん!」
――軽い気持ちで快諾したが、この後の冒険でセリオスは幾度となく衝撃をうけることになる。
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