5話:『岸和田魂炸裂!?配信中に乱入者!?』



夕焼けが街を赤く染める頃。

その日の優は、なんとなく気分がよかった。昨日の配信で、ほんのちょっとだけ素の自分を出せたこと。その反応があたたかかったこと。心の中で何かが変わり始めていた。


「よし、今日はゲーム配信やろかな…あのホラーゲーの続き、やってへんかったな」

自分の声に軽く笑って、優はヘッドセットをつけた。


――そして、20時。


「こんばんはー、優です!今日も来てくれてありがとーなぁ!」

コメント欄がざわざわと動き出す。


「今日も来たで!」

「優ちゃん!昨日の話、めっちゃよかったわ」

「今日ホラーゲーやるん!?」


「やるでぇ。こないだ途中でセーブしてたとこからや。……でも正直、ホンマ怖いからな?ほんま泣くぞ?」

笑いながらも、どこか優の言葉に余裕が出ていた。緊張に押し潰されていた頃とは違う。

心に少しずつ、芯が通り始めているのかもしれない。


配信が進む中――。

ゲームの中で突然“びっくり系ジャンプスケア”が飛び出して、優は思わず大きく叫んだ。


「ぎゃあぁあああああああっ!?!?うっそやろ!!!」


コメント欄は爆笑。


「うるせぇw」

「耳もってかれた」

「これが岸和田式ホラー耐性か」

「優ちゃん叫びかわいい(確信)」


その時――ガラッ。


リアルな生活音。

優の部屋の襖が豪快に開かれた。


「おい、優ー!風呂沸いたでー!って、なんや、またそのゲームやっとんか!」


「えっ、ちょっ、今配信中やて!!やめてって!!!」

慌てて振り返る優。画面外から現れたのは――優の姉、優佳(ゆうか)。金髪のギャルっぽいが根は面倒見のいいお姉さん。


「なーんや、また配信か。ほら、リスナーさんに挨拶しぃや」

「いらん!ほんまにええから!うちは真面目にやっとんねん!」

「お前の叫び声、外まで聞こえとるんやで?近所迷惑ちゃう?」


コメント欄、再び炎上。


「姉ちゃん乱入www」

「え、姉ギャルなん!?w」

「この家、岸和田魂あふれすぎやろ」

「もっと話させて!!!」


「……ほら、これがあるから嫌やねん!」

優は頬を真っ赤にしながら、慌ててマイクをミュートにした……が、時すでに遅し。


姉・優佳の関西弁(しかもギャル口調)と、優の慌てっぷりに、リスナーは大喜びだった。


――配信終了後。


「はあ……なんでうちの家って、こう……」

ため息をつきながらも、優はほんの少しだけ、笑っていた。


コメント欄に残された「家族の声、なんかええな」「親近感わくわ」「また出てほしい」

その言葉が、彼女の心に優しい光を灯していた。


「……まあ、たまにはええか」


その日、優のチャンネル登録者数は一気に500人ほど増えた。


思わぬ形で人気に火がつきはじめる、VTuber優ちゃん。

――でも、この騒がしい日常と地元愛が、きっと彼女の“武器”になるのだろう。



---


次回、第1章6話『コメント欄の海、優の選択』

ファンとの距離が近づく中で、優が気づく“本当に届けたいもの”とは?

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