第7話爆誕!カゲウス印『ぷるるん清水』~初めての行商と驚きの値札~
カゲウス村は、ケンジとスライムたちの活躍によって、衣食住の基本が驚くべき速度で改善されつつあった。畑には作物が芽吹き、井戸には清水が溢れ、家々は快適な「ふわもこハウス」へと生まれ変わった。
そこに住む村人たちの顔には、かつての諦観の色はなく、未来への希望と活力が満ちている。
そんなある日、村の広場で開かれた「カゲウス村・未来戦略会議(参加者:ケンジ、村長、ゲンゾウ爺さん、ハナちゃん、その他興味津々の村人数名と、足元でぷるぷるするスライムたち)」において、ハナちゃんが熱弁を振るっていた。
「――というわけで!我がカゲウス村の最初の特産品は、この『せせらぎちゃんの恵みの水』でいくべきです!この美味しさと清らかさは、絶対に他の町でも通用します!」
ゲンゾウ爺さんも、
「うむ、あの水を飲んでからというもの、儂の持病の腰痛が…いや、気のせいかもしれんが、とにかく体が軽いんじゃ!」
と力強く(?)後押しする。
ケンジも異論はなかった。せせらぎちゃんが生み出す水は、彼がこれまで飲んだどんな水よりも美味しく、体にスーッと染み渡るような特別な力があると感じていたからだ。
「いいですね!『せせらぎちゃんの水』を商品化しましょう!ただ、そのためには、この素晴らしい水を新鮮なまま運ぶための、素敵な『いれもの』が必要ですね…」
そこでケンジが白羽の矢を立てたのは、村の近くの木の洞や樹皮の間に、ひっそりと生息していた「ネバネバスライム(仮称)」だった。
なにせ彼らは普段、木の樹液を吸ってはネバネバとした粘液を出し、それを体にまとわりつかせているだけの、いささか地味で、子供たちからは「触るとベトベトするー」と避けられがちな存在だった。
「ネバネバくんたち、君たちのネバネバパワーは、きっと世界を変えるよ!」
ケンジは、いつものようにスライムたちに熱く語りかけながら、彼らを集めてグルーミングを開始した。
今回は、丈夫な植物の繊維を細かく刻んだものと、少量のヌマゴン印「超硬質スライム片(強度アップ用)」、そして「中身を優しく包み込み、いつまでも新鮮さを保ちたい!」というケンジの強い願いを込めた「愛情たっぷりマッサージ」を施す。
もちろんBGMは、ケンジ即興の「マイボトル・ドリーム ~届けこの想い、割れないボトルに乗せて~」だ。
「ネバネバを超えて、ぷるんと変身!君の名は、『スライムボトルメーカー・ぷるんとパック君』!愛称パッくん!」
ケンジの歌声がクライマックスに達すると、ネバネバスライムたちは、その粘性を保ちつつも驚くほど強靭で、かつ美しい透明感を持つ「スライムエコボトル」を、まるでシャボン玉を生み出すように、次々と「ぽこん、ぽこん」と生成し始めたではないか!
出来上がったボトルは、ガラスのように透き通っているのに割れにくく、軽く、そしてなぜかほんのりと中身を冷たく保つ「天然保冷機能」まで備わっていた。キャップ部分もスライム製で、一度閉めれば一滴の水も漏らさない完璧な密封性を誇る。
「やったー!パッくん、君は天才だ!」 「ぽこん!(お任せあれ!)」
数十匹のパッくんたちが、誇らしげにボトルを生成し続ける。
こうして、カゲウス村の一角に、世界初の(おそらく)「スライム式オートメーション・ミニボトリングプラント」が誕生した。 せせらぎちゃんたちが、キラキラと輝く清らかな水を供給し、隣ではパッくんたちが次々と美しいエコボトルを生成し、その場で充填。
その仕上げに、ポチ子が器用に葉っぱで作ったラベル(ケンジが木炭で「カゲウスの雫」とデザインし、ハナちゃんが可愛らしい花の絵を添えた)を貼り付け、ヌマゴンがそれらを丁寧に木箱(もちろんヌマゴン製、仕切り付き)に詰めていく。
ピカリンちゃんは、ボトルの最終検品係として、光を当てて不純物が混入していないかを厳しくチェック(しているつもり)。 村の子供たちは、その見事な連携作業と、次々と生み出される美しい「ぷるるん清水」のボトルに、目を輝かせて見入っていた。
この商品名は、村の総意で「カゲウスの雫 ~せせらぎちゃんの恵み~」に決定。愛称は、子供たちの間で自然発生的に広まった「ぷるるん清水(きよみず)」が採用された。
数日後。
ケンジ、ハナちゃん、ゲンゾウ爺さん、そして護衛兼荷物運びとして村の若者タケオとサブロー(モグモグ番長の活躍を見てケンジに弟子入り志願中)を加えた一行は、初めての行商へと旅立った。
ヌマゴンは、大量の「ぷるるん清水」の木箱を何段も積載可能な、頑丈かつ悪路走破性に優れた「スライム多目的運搬車・ヌマゴンエクスプレス(湿原激走バージョン)」へと変形。
その姿は、もはや小さな装甲車だ。ピカリンちゃんは「ヌマゴンエクスプレス」のフロントに輝くエンブレム兼ヘッドライトとして鎮座し、一行の道のりを安全に照らす。モグモグ番長たち数匹も、なぜかヌマゴンの荷台の隅にちゃっかり乗り込み、「道中の食料(木の実とか)は任せろ!」とばかりにやる気満々だった。
ハナちゃんやタケオ、サブローにとっては、本格的な村の外への旅はこれが初めて。彼らの胸は、不安と期待で高鳴っていた。
「ケンジさん、本当にこんな水が売れるんでしょうか…?」
タケオの心配そうな問いに、ケンジはにっこり笑って答えた。
「大丈夫!この『ぷるるん清水』は、きっとたくさんの人を笑顔にできる、魔法の水ですから!」
一行が目指すは、数日かけて湿原を抜けた先にある、この地域では比較的大きな交易町「ドリアンコ町」。
そこは、様々な商人や冒険者が行き交い、活気はあるものの、少々荒っぽい雰囲気も漂う場所だった。
ドリアンコ町の広場に到着した一行は、早速「ぷるるん清水」の販売を開始した。
しかし、物珍しそうに遠巻きに見る者はいても、なかなか買い手がつかない。
「おい、なんだありゃ?湿原の村の奴らが、泥水でも売りに来たのか?」
「ボトルは綺麗だが、中身は怪しいもんだぜ」
町の商人や屈強な冒険者たちは、一様に懐疑的な視線を向けてくる。
「くっ…やはりそう簡単には…」
ハナちゃんが悔しそうに唇を噛む。
その時、ケンジが前に出た。
「皆様、どうぞご注目ください!この『ぷるるん清水』は、ただの水ではございません!百聞は一見に如かず、まずはこの水の生まれ故郷の神秘を、ほんの少しだけお目にかけましょう!」
そう言うと、ケンジは隠し持っていた(?)せせらぎちゃんとパッくんを数匹ずつ取り出し、その場で「ぷるるん清水」の生成とボトリングの実演を始めたのだ!
キラキラと輝くせせらぎちゃんが清らかな水を生み出し、パッくんがそれを美しいボトルへと変える…まるで魔法のような光景に、町の者たちは次第に足を止め、人だかりができ始めた。
「な、なんだありゃ…スライムが水を…ボトルを…!?」
そこへ、たまたま通りかかった恰幅の良い紳士――ドリアンコ町の町長であり、食通としても知られるオルコット氏――が、興味深そうに足を止めた。
「ほう…これは面白い。一口、試させてもらってもよいかな?」
ケンジは、出来立ての「ぷるるん清水」を恭しく差し出した。
オルコット町長は、疑念半分といった顔でボトルを受け取り、一口ごくりと飲んだ。 次の瞬間、彼の顔が見開かれ、その場で硬直した。
「こ、こ、これは………!!!」
町長は、生まれてこの方味わったことのない、清冽かつ芳醇、そして体に染み渡るような水の味わいに、言葉を失っていた。まるで、長年溜まっていた体の澱みが、一瞬にして洗い流されるかのような感覚。
「う、美味い!美味すぎるぞこの水は!まるで、天界の神々の霊泉の如しだ!残りのボトル、全て買い取ろう!いや、毎日でも買い取りたい!」
町長のこの一言が、起爆剤となった。
町の富豪や、体調を崩していた貴婦人、喉の渇きに苦しんでいた冒険者たちが、我先にと「ぷるるん清水」を買い求め、試飲しては驚愕し、その場で追加購入していく。
ケンジたちの売り場は、瞬く間に黒山の人だかりとなった。
◆
【一方その頃…ドリアンコ町の路地裏で、存在がもはや天然記念物レベルの勇者一行】
魔法使いインテリオの日記(ボロボロの羊皮紙の切れ端に、鳥の羽根ペンでかろうじて記述):
ドリアンコ町に潜入成功。しかし、衛兵の目が厳しく、まともな食料調達は不可能。勇者様が『我がカリスマと交渉術で、パン屋からパンを恵んでもらう!』と宣言し、パン屋の女将に『そこの筋肉ダルマ!邪魔だ、失せろ!』と塩を撒かれて退散。なぜだ。カリスマとは。 広場の方が何やら騒がしい。
…ん?あれは…湿原の方から来た、みすぼらしい村人たちではなかったか?何やら水を売って、大勢の客がついている…。まさか、あの水が、最近噂の『飲むと若返る奇跡の霊水』とやらではあるまいな?
…だとしたら、一滴でもいいから分けてほしい。喉が…喉がもう限界だ。いっそ、あの人だかりに紛れて、ボトルの一つや二つ…いや、私は誇り高き魔法使い…そんなことは…でも水…。
追伸:勇者様が、広場の騒ぎを見て「民衆が我を求めている!今こそ我が勇名を轟かせる時!」と叫びながら人混みに突撃しようとし、衛兵に羽交い締めにされていた。見なかったことにしよう。
◆
その日の夕方。「ぷるるん清水」は、持ち込んだ分が全て完売。ケンジたちは、生まれて初めて手にするような大金(カゲウス村にとっては)を手に、喜びを分かち合っていた。
あのオルコット町長からは、「ぷるるん清水」の専属取引契約と、カゲウス村への公式訪問の申し出まで取り付けた。ドリアンコ町の他の商人たちからも、様々な取引の誘いが舞い込んでいる。
「やったわ、ケンジさん!私たち、やったのよ!」
ハナちゃんは、目に涙を浮かべてケンジの手を握った。タケオもサブローも、そしてゲンゾウ爺さんも、興奮冷めやらぬ様子だ。
カゲウス村への帰路、ヌマゴンエクスプレスは、行きとは比べ物にならないほど多くの物資――鉄製の農具、薬、布地、そして村の子供たちへのお土産――で満載だった。
ケンジは、夕焼けに染まる空を見上げながら、胸いっぱいの達成感を味わっていた。
(『ぷるるるん清水』の次は、何を作ろうかな? もこたんのふわふわ繊維を使った『雲の上快眠まくら』とか、ヌマゴン印の『絶対壊れないカラクリおもちゃ』とか…ああ、スライムたちの可能性は無限大だ!)
カゲウス村ブランドの第一歩は、大成功。 この小さな村から始まるスライム印の奇跡は、やがて世界を驚かせることになるのかもしれない…。
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