第4話 進め!スライムお助け隊! カゲウス村に笑顔を咲かせよう
翌朝。ケンジはゲンゾウ爺さんの案内で、カゲウス村へと向かう決意を固めていた。
「ポチ子、ヌマゴン、ピカリンちゃん、準備はいいかい? 僕たちの最初の『お仕事』だ!」
「ぷるるん!(やる気まんまん!)」
ポチ子がケンジの肩で元気よく跳ねる。 ヌマゴンは、ケンジの指示通り、頑丈で車輪までついた(もちろんヌマゴン製)「スライム万能リアカー・ヌマえもん一号」へと変形。
そこにケンジのささやかな荷物と、夜間や洞窟探検用にピカリンちゃんが収まる「スライムランタン掛け」まで備えている。ピカリンちゃんはそのランタン掛けで、まるで一行を導く希望の光のように、優しく周囲を照らしていた。
「ほ、本当に…スライムが台車に…」
ゲンゾウ爺さんは、目の前で繰り広げられるスライムたちの変幻自在な働きぶりに、もはや驚きの言葉も見つからない様子で、ただただ感心しきりだった。
だが、ヌメヌメ大湿原を抜ける道は、決して楽ではなかった。ぬかるみに足を取られそうになったり、奇妙な鳴き声の生物に肝を冷やしたり。
しかし、ヌマえもん一号はどんな悪路もものともせず、ピカリンちゃんの光は不気味な影を払い、ポチ子が時折「ぷるぷる!(こっち安全!)」と危険を察知してくれたおかげで、一行は思ったよりもスムーズにカゲウス村へとたどり着いた。
そのカゲウス村は、ゲンゾウ爺さんの話に違わず、寂しい空気に包まれていた。 家々は古びて傾きかけ、村の広場には雑草が生い茂り、畑らしき場所は石ころだらけで、作物が育っている気配はまるでない。
さらに村人たちの顔にも生気はなく、突然現れたケンジたち一行を、遠巻きに不安そうな、あるいは不審そうな目で見ている。
「皆の者、このお方はケンジ殿。わしが湿原で出会った、不思議な力をお持ちの方じゃ」
ゲンゾウ爺さんが大きな声で呼びかけると、村人たちの中から、ひときわ身なりのしっかりした、しかし顔色のすぐれない初老の男性――村長らしき人物――が進み出てきた。
「ゲンゾウさん、ご無事でしたか…そちらの方は?」
村長の目は、ケンジよりも、むしろヌマえもん一号やピカリンちゃんの方に釘付けになっている。無理もない。動く黒い台車や、ひとりでに浮いて光る謎の生き物など、彼らの常識では理解不能な存在だろう。
「このケンジ殿の『お友達』が、わしらを助けてくれるかもしれんのじゃ!」
ゲンゾウ爺さんの言葉に、村人たちの間にざわめきが走る。しかし、それは期待よりも戸惑いや疑念の色が濃いものだった。
とくに、村の若者代表といった風情の、気の強そうな娘(頭に巻いた手ぬぐいがチャームポイント)は、腕を組んでフンと鼻を鳴らした。
「スライムだろ?そんなプニプニしたのが、この村の何だってんだい」
ケンジはにっこり笑って言った。
「はじめまして、ケンジです。こちらは僕の大事な友達、スライムたちです。皆さんの畑、少し見せていただいてもよろしいですか?」
村長の許可を得て、ケンジは荒れ果てた畑へと案内された。
そこは、石ころと硬く乾いた土ばかりで、素人目にも作物が育つとは思えない有様だった。
「やはり…この土地のエネルギーが枯渇している。そして、土の中に潜む害虫の気配も…」
ケンジは畑の隅にしゃがみ込み、地面に転がっていたただの土くれにしか見えないスライムを数匹、優しく手のひらに乗せた。
「村長さん、この子たち、お借りしても?」 「ああ…ただの泥スライムだが…好きになされい」
ケンジは村の広場にその土くれスライムたちを集めると、宣言した。
「皆さん、今からこの子たちが、皆さんの畑を救う『畑の守り手』に変身します!」
村人たちはポカンとしている。例の気の強い娘は「馬鹿馬鹿しい」と呟いた。
だが、ケンジは気にしない。彼はスライムたちに語りかける。
「さあ、土くれボーイズ&ガールズ!君たちの出番だ!この村の大地と、お腹を空かせた人々のために、一肌脱ごうじゃないか!」
そして、おもむろに取り出したのは、特製「大地の恵み凝縮アロマオイル(ミミズも踊り出す魅惑の香り)」と、「スライム用ミニ鍬&ミニ鋤(ヌマゴンが即席で作った)」、そして、どこからともなく現れたカカシの頭部分(村の子供が面白がって持ってきた)。
ケンジは、土くれスライムたち一体一体にアロマオイルを丁寧に塗り込み、ミニ農具の使い方を(スライムに伝わる不思議な方法で)教え込み、最後にカカシヘッドをポンと乗せて、元気よく叫んだ。
「進化の時は来たれり!汝の名は、『畑の守り手スライム・モグモグ番長』なりぃぃぃ!」
その瞬間、土くれスライムたちの体が、もこもこと盛り上がり始めた!
そして、見る見るうちに、丸っこくて愛嬌のある、ずんぐりむっくりとしたフォルムへと変わっていく。体には泥で描かれたような(ケンジが描いた)ニコニコ顔、お腹には「食」というよりは「福」に近いような、ありがたい模様が浮かび上がっている。
さらに、頭には小さな麦わら帽子(これもケンジがツタで編んだ)をちょこんと乗せ、手にはミニ鍬を構えているではないか!
「もぐもぐー!(やる気!)」
「もぐもぐ!もぐー!(畑、任せろ!)」
数十匹の「モグモグ番長」たちが、一斉に声を上げ(たように聞こえ)、畑へと突撃していった!
彼らの働きっぷりは凄まじかった。 小さな体で器用にミニ鍬を操り、カチカチだった土をあっという間にふかふかに耕していく。
それから畑に潜んでいた害虫を見つけると、「もぐもぐ!」と効果音でも付きそうなくらい美味しそうに平らげ、満足そうにげっぷ(のような音)をする。
そして、彼らが耕し、進んだ跡の土は、なぜか黒々と栄養満点な色つやに変わり、明らかに肥沃になっているのだ!
極めつけは、時折集まっては踊り出す「豊年満作スライムダンス」。腰をフリフリ(体全体をプルプル?)、手をパタパタ(体の一部を器用に動かして)、見ているだけで楽しくなるその踊りには、本当に作物の生育を促す不思議なオーラが満ちているようだった。
村人たちは、最初は何が起こったのか理解できず呆然としていたが、みるみるうちに畑が蘇っていく奇跡のような光景を目の当たりにし、やがて誰からともなく歓声が上がった。
「す、すごい…!あの石ころ畑が…!」 「作物が…育つかもしれん…!」
例の気の強い娘も、あんぐりと口を開けたまま、モグモグ番長たちの一生懸命な働きっぷりから目が離せないでいた。子供たちは、畑の周りで「もぐもぐー!」と応援し、大はしゃぎだ。
数時間後。あれほど荒れ果てていた畑は、見違えるように生まれ変わっていた。
その夜、カゲウス村では、何年ぶりかという賑やかな宴が開かれた。乏しい食材の中から持ち寄った料理と、村秘蔵の(ちょっと酸っぱくなった)果実酒で、村人たちはケンジとスライムたちを心からもてなした。
「ケンジ殿…いや、ケンジ様!本当に、なんとお礼を申し上げてよいか…」
村長は感涙にむせびながら、何度もケンジの手を握った。
「いえいえ、僕じゃありません。モグモグ番長たちと、皆さんの畑を想う気持ちが起こした奇跡ですよ」
ケンジは照れくさそうに笑った。
その傍らでは、ポチ子とピカリンちゃんが村の子供たちに囲まれ、ヌマゴンは(お祭り用の即席やぐらに変形して)宴を盛り上げていた。
【一方その頃…勇者バーンナックル・ゴリマッチョ一行の、本当に残念な冒険日誌(魔法使いインテリオ代筆。もはや怨念がこもり始めている)】
×月★日 天気:腹痛(激痛)、時々勇者の奇声
終わった。何もかもが終わった。 勇者様が昨日、「これは伝説のパワーアップキノコに相違ない!」と豪語して口にした、紫と緑のまだら模様の巨大キノコ。あれは、ただの「食べると三日三晩腹痛でのたうち回り、ついでに眉毛が蛍光ピンクになる呪いのキノコ」だった。
なぜ私がそれを知っているか?
村の古文書で偶然読んだからだ。なぜ勇者様は読まないのか?読めないからだ!
現在、勇者様は「うおお…我が腹の中で古の竜が…目覚めるぅぅぅ!」などと意味不明な供述を繰り返しながら、地面を転げ回っておられる。眉毛は鮮やかな蛍光ピンクだ。夜でも目立つ。マッスルンダーは「ウス!ユウシャ!ハラ!ピンク!スゴイ!」と目を輝かせている。もうだめだこのパーティー。
食料は尽きた。薬草もない。私がこっそり隠し持っていた最後の非常食ビスケットも、勇者様が「腹の竜を鎮める供物にする!」と取り上げて、どこかの岩の隙間に捧げてしまった。
…あの岩、昨日アリの巣だって確認したんだけどな。
ああ、誰か助けて。できればまともな食事と、蛍光ピンクにならない安全なキノコの知識をください。あのスライム係…彼なら、こんなキノコを勇者様に食べさせる前に、きっとスライムバリアーか何かで防いでくれただろうに…。
いや、そもそも彼がいれば、こんなキノコしかない場所で野営などしていない!ああああああ!
追伸:マッスルンダーが、勇者様の蛍光ピンクの眉毛を真似て、自分の眉毛にそこらへんの赤い実を塗りたくっている。パーティーの平均知能指数がスライム以下になった記念日だ。
◆
カゲウス村の宴もたけなわの頃、村長が改めてケンジの前に座った。
「ケンジ様。このご恩は村を挙げてお返しいたします。つきましては…まことに厚かましいお願いとは存じますが、どうか、もう少しだけ我が村に滞在し、お力をお貸しいただけないでしょうか?畑の他にも、この村には問題が山積みなのです…」
村人たちの切実な眼差しがケンジに注がれる。 ケンジは、笑顔で頷いた。
「もちろんです。僕にできることがあるなら、喜んで。だって、ここも僕の『スライムパラダイス』の大事な一部になりそうですからね!」
ケンジの新たな目標は、カゲウス村の完全復興。そして、その先には、もっと多くの人々とスライムたちが笑顔で暮らせる世界の実現が待っているのかもしれない。
ケンジのスライム美容師としての、そして世界を(うっかり)救うかもしれない冒険は、まだまだ始まったばかりだ!
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