第12話 霊感の強い同級生
世間には霊が見えると言う人がいます。
みなさんのまわりにも一人くらいはいるのでは無いでしょうか?
あるいは、あなたの隣の人も、本当は見えてるけど口には出さないだけなのかも知れません。
今日は私の高校時代の友人のお話をしたいと思います。
1
今は良く分かりませんが、私の頃は工業高校を選択する女子は、超が付くほどのレアケースでした。
私が工業高校へ進学すると知った中学の同級生からは、随分と心配されたものです。どうやら工業高校は無法地帯と思われていたみたいです。
当時は学園の荒廃が問題となっていたころでしたし、まあ真実と言える面もありましたが、誤解も随分と多かったように思います。
さすがに、
「女が工業高校に通うとふしだらになる」
と言われたのには閉口しましたけど。
そんな時代だったので、当然のように女子は少なく、同級生約二百人のうち八人しかしませんでした。
一人と言う学科もありましたし、機械科のように一人もいない学科もありました。もっとも多かったのはインテリア科で四人、私は情報技術科で、この年初めて女子が二人となったクラスでした。
この唯一のクラスメート女子が
彼女の第一印象は『落ち着きの無い子』でした。
実際には、むしろ落ち着きすぎな性格だったのですが、最初の印象は違いました。初対面の彼女は何故か視線が泳いでいたため、そういう印象が残ったのです。
そんな不思議さと落ち着きが同居する菜七子ちゃんとは、すぐに仲良くなりました。
しばらくの間、ある意味普通の学園生活を送っていたのですが、一年生の二学期の半ば頃だったでしょうか。こんなことがありました。
「最近、肩こりがひどいんだ」
ある日、彼女がそう訴えてきました。
肩こり、と言われても肩こりの経験がありません。何しろまだ高校生でしたから。(十年後には肩こりに苦しんでいましたけどね)
「どんどん酷くなっていくよ……しんどいわ」
私は菜七子ちゃんの肩を揉みほぐしてあげたりしましたが、一向に改善されませんでした。
「明日休むわ」
つらそうにそう言い残して、彼女はそれから三日間休みました。
今と違ってスマホも無いし、そもそもメールもありません。なので様子が判らず心配でしたが、次に登校してきた彼女は元気が回復していました。
「墓参りに行ってきたよ」と、満足げに微笑みました。「調子がよくなったわ」
(墓参りで回復する肩こりって何?)
そう思いましたが、敢えて口にはしませんでした。なんとなく聞いたら後悔しそうな気がします。
「病院には行ったの?」
「ん? 行ってないよ」
(いや、行けよ)
と、思いましたが、まあ本人が満足しているので、私もそれ以上は言いませんでした。
確かに普通なら、肩こりは病院で治療すべきでしょう。でも今にして思えば、彼女の場合、墓参りが正解だったのです。
それでも高校の頃の菜七子ちゃんは、ちょっと変わった子という程度の認識でした。
そもそもこの時代に、工業高校に進学している時点で、多かれ少なかれ変わった女子です。
菜七子ちゃんとの高校生活は、この後怖い体験に彩られていくのですが、それについては別の機会に譲りたいと思います。
今からお話しするのは卒業後の出来事です。
2
高校を卒業して最初のお盆休みに帰省した時のことです。
私は菜七子ちゃんの誘いで、菜七子ちゃんの弟の茂樹君と、その先輩の秋山さんとの4人で、地元で有名な、囲炉裏風の和食店に行きました。(後で知りましたが、秋山さんは菜七子の彼氏でした)
あえて人の多そうなタイミングをさけたので、時間は午後9時ごろだったと思います。
運転は秋山さんで助手席には茂樹君、私と菜七子ちゃんは後部座席でした。
お店に行く途中、おもむろに秋山さんが
「こっちが近道なんだ」
といって脇道に入りました。
申し訳程度に舗装された車通りの少ない寂れた道です。
そのせいか何となくみんな無口になりました。
沈滞したムードを払拭しようと考えのでしょう。秋山さんが
「方角はわかってるから大丈夫」
と言いましたが、効果はありません。
しばらく走ると、私の隣で菜七子ちゃんが急に騒ぎ始めました。
「ちょっと、止めて!」
「どうしたの?」
私の問いに
「気分が悪い・・・」
と顔を歪めます。
その時の彼女の表情に、違和感を感じたのですが、具体的にそれが何なのか自分にもわかりませんでした。
秋山さんはちょうど見えてきた、道幅が広くなったスペースを停車させました。車、二台くらいは余裕で止められそうなスペースでした。
「ねえちゃん、車酔いか? 珍しいな」
と茂樹君が揶揄うと彼女は首を振りました。
実際五分もしないうちに、回復した様子で
「もう大丈夫だよ」
と菜七子ちゃんは顔を上げました。
それで私たちは気をとりなおして、再度出発したのですが、少し走ると、再び菜七子ちゃんが「気分が悪い!」と苦しみ始めました。
慌てて秋山さんが車を止めました。
「少し休憩しよう。店は二十四時間営業だし、急ぐ必要はないから」
「こんなところに止めて大丈夫かなぁ」
と茂樹君。
確かにさっきの場所とは違って、車の離合に苦労しそうな道幅です。
「まあほとんど車は来ないから大丈夫だろう」
ほとんどというより、この道に入ってから後続車も対向車も全く見ていませんでした。
外の空気を吸った方が良い、と言うことで、みんなで車から降りることにしました。
「周辺を散策してくる」
と言って、どこか楽しそうに先の方へ歩いていく男子二人を見送りながら、車のそばに残った私は、隣で深呼吸をする菜七子ちゃんに尋ねました。
「気分が悪いんなら、今日はやめる?」
「そういう気分の悪さじゃないのよ」
どういう気分悪さなのか測りかねていると、道の先の方から秋山
さんが呼び声がきこえました。
「おいちょっとこっちへ来てみろよ」
私たちが、呼ばれた方へ行ってみると、秋山さんと茂樹君が、後ろ姿でもわかるくらい、呆然として立っていまそいた。
理由はすぐにわかりました。
車を止めた位置からでは少しカーブしていてわかりにくいのと、暗いのもあってよく見えなかったのですが、その先は崖になっていたのです。
私たち全員、血の気が引く思いでした。
もしあのまま、車を走らせていたら、間違いなく転落していたに違いありませんでした。
3
「引きかえそう」
秋山さんの言葉を待つまでもなく、全員逃げるように、車へ向かって駆け出していました。
車で来た道を引き返しながら、秋山さんが誰にいうともなく毒づきました。
「なんで、こんな危険な道を通行止めにしてないんだ!」
だれもが同じ思いでした。一つ間違えていたら最悪、死んでいたのかもしれないのです。
「ちょっと止めて」菜七子ちゃんが後ろ席から身を乗り出して、左前方を指差しました。
「あれ、お地蔵さんだ」
そこは最初に、彼女の気分が悪くなった時に、車を停車させた場所でした。
車から降りてそこには祠があって、お地蔵さんが優しそうな表情で佇んでいました。
「最初に止めた時には気づかなかったわ」
と私がつぶやくと、秋山さんがみんなに言い聞かせるように応じました。
「あの時は車から降りなかったし、方角も反対だったからだろう」
菜七子ちゃんが大きく頷きました。
「さっきの気持ちの悪さは、きっとお地蔵様からの警告だったんだわ」
菜七子ちゃんの霊感の強さはみんな知っています。
だれもが菜七子ちゃんの言葉に納得して、自然とお地蔵様を拝んでお礼を言いました。
「お地蔵様ありがとうございました」
するとどこからともなく——
「死ねばよかったのに・・・」
同時にそれぞれが目を見合わせました。
つまり、そこにいた全員がその声を聞いたのです。
私たちが、あわててその場を立ち去ったことは言うまでもありません。
お盆が明けて、会社でこの話をしたところ、石和先輩が
「お地蔵さんのその手の話は時々聞くなぁ」
と、妙に納得した表情で頷きました。
そして礼為子さんは、
「お友達は大丈夫なの?」
と心配そうに尋ねます。
「大丈夫ですけど、何か気になることがありますか?」
「陽子ちゃんは守護霊が強いから安心していいけど、他の子たちが心配だわ」
「守護霊、ですか?」
「そう。だから、あなたはこの仕事をしてても祟られないの」
「多分、友達は大丈夫だと思います。何かあっても彼女は自分で対処できる子なので……」
その後の出来事を付け加えておきます。
菜七子ちゃんはすぐにお祓いに行ったのですが、男性二人は喉元過ぎて熱さを忘れたのか、彼女の強い勧めにも関わらず、行かなかったそうです。
そして、お盆明けすぐに秋山さんがバイクの事故で骨折、茂樹君はバイト先の工事現場の事故で入院したとの連絡がありました。
偶然だったのか、祟りだったのか?
それは今となっては判りません……
最後にもう一つ。
高校で私と初めて会話をした時、菜七子ちゃんの目が泳いでいたのは、教室の中にこの世ならざる者が数体彷徨っていたからだと、卒業式の日に教えてくれました。。
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