第2話
春兎パパこと
国会に我らが太陽神、天照大御神が降臨なさったのである。
CG技術が発展している現代。中継先の生々しい混乱がなければ、「はて、映画の放送だったかしら」とも思えたのだが。野次も暴言も飛ぶ騒々しい国会において、誰も何も発言出来なくなっているのが良い証拠であった。
「こうして姿を見せるのは2000年ぶりくらいなので、緊張しますね。信仰もあまり必要としてなさそうだったから、そんな予定もなかったの。……人前に出るのも苦手だし。でもちょっと子供たちを困らせてしまったかと思って。説明が必要かなって」
曰く、八百万の神々は日本国民相手に『推し活』をしていると。
5年ほど前から子等の文化を逆輸入しており、年3回のコミケが開かれているのだそう。
そして事の発端は半年ほど前。去年の10月_ほぼ全国での神無月、出雲での神在月。八百万の神々が一同に集う出雲大社にて、初の全国規模のコミケが開催されたのである。その盛り上がりは然る事ながら、その興奮冷めやまぬままつい推しに貢いでしまった者がチラチラ現れ、そして露呈した。
だって推しカプが不慮の出費でデート出来なさそうだったから……妾も汝らの遊園地デート楽しみにしてたのに。
これまでただ見守り、慈しみ、手を出さぬよう務めることが暗黙の了解で決まっていたのだ。だのに貢いでしまった堪え性のない一部駄目ヲタ神の存在が露呈した結果、百八夜に渡る戦争ののち、一旦これまで堪えていた性を爆発させることにした次第である。だって本当は皆推しに貢ぎたいから。とのこと。ヤケクソになったとも言う。
1から100まで初耳学であった。
それから、天照大御神がふわふわ、官房長官のおじいちゃんの元に飛んで行かれたかと思うと
「貴方の頑張りを見ております。誰も気づかなくても、皆に認められることがなくても、心無い言葉をかけられても、自身を誇ってくださいね」
照れ照れ握手を求めていらっしゃった。なるほど大御神の推しであるそうだ。
「え、はぁ……。にわかに信じられん……有難いお言葉、頂戴致します。……半生を政界で生きた
白昼夢にうなされるような様子で、何とか神に応対を返す佐々木官房長官。こちらの世界における令和おじさんである。
対してファンサを受けた大御神はウルッと瞳を滲ませて、
「そうですか、そうでしょうとも、それでこそ佐々木廉太郎です……てぇてぇとはまさに……」
感極まったご様子である。
語彙が死に絶えた女神は満足して天に帰られた。
神は平等という異国の教えは、我が国では適応されていないのである。
【以下解説】
この現代日本、アイドルしかり、鉄道しかり、コミック、果てはカエルや枕など。国民の半数以上何かしらに魅了され、ヲタクというサブステータスを持っている。
カエルの子はカエルという言葉があるように。
カエルの親はやはりカエルなもので。
高天原ではコミケが開催されていた。
なんせ、オタク国家の国産み達である。
当然オタク気質は多大に持ち合わせており、その矛先が元来慈しみ見守る人の子らに向くのも自然の摂理であった。
下界でオタ活が浸透しているのを眺めて、面白いなぁと思っていた神々が「萌え」や「推し」、「
それは恋に落ちるような電撃とともに母性のような何かの芽生えであったと神々は語った。平等性と博愛が失われ始めた瞬間である。
そんな訳で推し活は最近始まった高天原での一大ブームである。
要は高天原で神が萌えの供給を受けると、堪えきれない衝動から下界の当人たちに振り込まれていたのである。その財源はコミケの売上や自身を祀る社の賽銭である。コミケの通貨もまた、元を辿れば賽銭だ。コミケの前日に軍資金を得るために賽銭箱から半分消し飛んだので、現世では日本全国で同時に賽銭泥棒がでたと御社が悲鳴を上げていた。それが数年前から定期的に起こっているので賽銭泥棒テロの特番も組まれた事がある。
閑話休題。
とかく、推しのATMになりたい強火担や、嬢の谷間にお札をねじ込んで遊ぶオジサン、神絵師に感動して軽率に財布を開きたがるヲタクと同じ構図だった。
今朝の珍事件の真相はこうである。
1、幼馴染3人を箱推ししている神が居た。
2、GOサインが出た結果、とりあえずこれまでの同人誌の売上を公式(本人達)へ還元することにした。
3、今朝の春兎による稔の起こし方に心臓が締め付けられ、思わず握りしめた樋口一葉を追加課金。
4、話し合って保護者に渡しに行く良い子達が可愛かったので、泣きながら野口英世を追加課金。
もはやユーチューバーがやる可愛い貯金のような気軽さであった。
金を湯水の如く使える情緒不安定オタクの仕業だったのである。
解説終了。
混沌のまま動き出した国会中継を狐に摘まれた様子で眺めていた晴臣は、「パパ」「はるおみさん」「はるパパ」という子供たちの声でハッとした。
「あぁ。おはよう、おチビさん達」
動揺が治まっていないらしい。昔の癖がぶり返した。こまい頃からこの3人はよくお泊まり会をしていたので、まとめて呼びかける時には、そう呼んでいたのである。
「あっ、すまない。もうおチビさんじゃなかったね」
しまったと思いながらも、否定しない子供たちに「おや?」と思う。いつもなら「もぉ、僕らチビちゃんじゃないよ」「実は、こんなに大きくなりました」「おチビさんは勘弁してくださいよ」とヤイヤイ言葉が返って来るというのに。
そして、「あのね」と差し出された萎れた樋口一葉と愉快な野口英世達に目眩がするのであった。
なるほど、これが噂の……と優秀な頭脳は少ない情報から推論を弾き出すと辻褄が合い納得したのである。満点の解答だった。
きっとこの珍妙な事件の真相を伝えたところで現実離れしすぎている。とりあえずお金は預かることにした。
それから、何も言わずに3人に美味しい朝ごはんと冷えた麦茶を出してお昼のニュースを待つことにした。きっとその方が説得力があるだろう。
もりもり元気に食べる姿に癒されてると、三者三様の眼がじっとこちらを見つめていることに気が付いた。
「どうしたんだい、なにかお
3人は作戦会議するようにじっと顔を見合わせる。
「頼んだぞ」「お寿司……」「やってみる」
コクリと頷いて、それから春兎は最大限に可愛い顔を作ってパパを見つめた。パパには効果抜群、親殺し特攻も入って春兎の顔面力は53万だった。宇宙最強である。
「あのねパパ、お寿司食べたいな」
「構わないよ」
即答だった。彼は根っからの子煩悩なので、余程の無理以外は通るのである。
顔面力がなくとも即答する事を子供たちは知らなかった。春臣は春兎のお強請りの仕方が可愛いと思っているので、それが無くても良い事は
お昼ご飯ガチャがSSRお寿司の確定演出だったので、子供たちはバンザイして、タッチして大喜びだった。かわいい。
そして、息子の良い子なお友達はまた、キラキラしたお目目で「ありがとうございます、お肩もみます!」「皿洗いします」と答えるので、可愛いのだ。
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