18 依頼(3)

 物語は、八人きょうだいとその家族のお話。


 あるところに王様とお妃様がいて、二人の間には七人の可愛い息子がいた。

 しかし、どうしても女の子が生まれず、長らく悩んでいた。そんなある日、ついに八人目の子供として女の子が生まれる。

 ところがその娘はとても身体が弱く、「清く聖なる水を汲み、それで沐浴させなければ生き延びられないだろう」と言われてしまう。

 王様は七人の兄たちに、井戸からその水を汲んでくるよう命じた。


 兄たちは無事に水を汲み、城へ戻ろうとするが、道中で水をこぼしてしまう。仕方なく、再び井戸へと引き返す。

 一方その頃、城で息子たちの帰りを待つ王様は、なかなか戻らない彼らに業を煮やし、


「どうせ道端で遊んでいるんだろう。カラスになってしまえ」


 と口にしてしまう。


 その瞬間、七人の兄たちは本当にカラスの姿になってしまった。


 それから幾年かが過ぎ、娘は健康に、すくすくと育っていった。

 だが、彼女はかつて兄たちがいたことを知らなかった。

 ある日、兄たちの存在を知った娘は、彼らを探すため、一人で旅に出ることを決意する。


 娘は、太陽に出会い、

 月に出会い、

 そして星に出会う。


 太陽も月も助けてはくれなかったが、星だけが協力してくれた。

 星は娘に兄たちがいる「カラス山」の場所を教え、山に入るための鍵を渡してくれた。

 しかし、山へ向かう途中で娘はその鍵を失くしてしまう。

 それでも山へ入るために、娘は自分の指を切り落とし、それを鍵穴に差し込んだ。


 カラス山に入った娘の前に、小人が現れ、「兄たちはまもなく戻ってくる」と教えてくれる。

 娘は、カラスたちの食べ物と飲み物にほんの少しだけ口をつけ、家から持ってきた指輪を最後のコップに沈めておいた。


 やがて兄たち――カラスたちが戻ってくる。

 彼らは誰かが自分たちの食べ物に口をつけたことに気づき、「誰がやったのか」と話し合い始めた。

 すると最後のカラスがコップの中に沈んでいた指輪を見つける。


「妹が救いに来てくれたなら、人間に戻れるのに」


 そうつぶやく。


 その言葉を聞いた娘は、隠れていた場所から姿を現す。

 すると兄たちはカラスの姿から人間の姿へと戻り、きょうだいは再会を喜び合って、みんなで家へ帰った――。


 というお話。



「……まぁ、ずいぶんと……残酷な話だな……」

「中を読んだら、もっと残酷だよ。お話に出てくる太陽も月も、人間を食べちゃうし。けっこうグロいっていうか、ダークなんだよね」

 うえぇ……。

「グリム童話って、そういう残酷な話ばっかだよなぁ……」


 ハルは本をぺらりと捲った。

「前回の妖怪もそうだったけどさァ、童話にまつわる妖怪が多いのかなって思ったわけ。この話って兄妹の話でしょ?でも靁封町の東地区で、女性ばかりが襲われてるってことは、あのカラスたちも娘を探してるんじゃないかなァって」

「東じゃなくて西な」

「あっ」


 ……まったく。

 鋭いところは鋭いのに、こういう基本的なとこは抜けてるんだよなぁ。


 天人は、ハルが開いたページを覗き込み、少しずつ読み進める。

 読めば読むほど、言いようのない不気味さがじわじわと迫ってくる。

 本当に、これが子ども向けの童話なのかと疑いたくなる。けれど、その中にはどこか筋の通った物語の意図や、伝えたいものも垣間見えてくる。


 一通り読み終えたところで、俺は本を閉じた。


「じゃあさ、そのカラスたちを退治するには……姫さんを見つけるのが一番手っ取り早いってことか」

「そうなんだけどさァ、そもそも姫さん、生きてるのかって話だよねェ。カラスたちは妖怪だから寿命なんて関係ないかもしれないけど、姫さんは人間でしょ? もう昔の話だったら、とっくに―――」

「死んでようが、生きてようが、関係ねーよ」


 俺たちは、半妖だぜ?

 人間も、妖怪も、霊だって―――


 俺なら、確実に視える。


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