3-4
冬香は夏希をじっと見るが、その『何か』が一体何なのかは分からなかった。
――なぜ夏希は自殺願望を抱いたのか。
化け物部ではタブーの話だが、もう秋穂とはそういった話をしてしまったし、それに化け物部はもう半分機能していないようなものだ。
「ねぇ、夏希。言いたくなかったら言わなくていいんだけど……夏希は、どうして死にたいと思ったの?」
――聞いた。聞いてしまった。
今の冬香は、春や秋穂に同じ質問をするよりもよっぽど緊張しているだろう。
「ごめん、それは言えないな」
「やっぱり、言いたくないってこと……?」
冬香は夏希の顔を覗き込んだ。夏希の顔は相変わらず飄々としている。
「ううん、あたしは別に言ってもいいんだけど、それが化け物部のルールだから」
そう言って夏希はまた微笑んだ。
「でも、春がいない以上、化け物部が継続できてるとは思わないんだけど……」
化け物部は春が中心となっていた組織だ。春がいなくなった今のこれを化け物部と呼んでもいいのだろうか。
「それでも、それは春が決めたルールだから、守らなくちゃ」
夏希の吸ったストローからズズズ、と音がする。
「春はもういない。だから、春が遺したものは何であろうと大切にしたいんだー」
だからあたしは誰にも言わないよ。これからも、これまでも。と付け足す。
彼女にとっては、まだ化け物部は存在するものらしい。
「じゃあ本当に、誰にも言ったことないんだ……ストレス溜まらないの?」
夏希との会話が弾む、今のは純粋な疑問だった。
そして夏希は普通に言った「溜まらないよ。あたしのは大したものでもないし」と。
「春のこと、大切にしてるんだ」
「そりゃあ、もちろん友達だから。でも、それは秋穂と冬香も一緒だよ。みんな大切な友達だもん」
――そうか、友達だもんね。
昔と同じ関係性とは到底言えないが、友達であることには変わりない。きっと。
そこで秋穂が帰って来た。秋穂は足でドアを開け、両手に溢れんばかりのジュースを注いだコップを持っている。
「いや、そろそろ夏希も飲み終わってるかと思って」
と、分が悪そうに言う。よかった、さっきの言葉に怒っていたわけではなかったようだ。
秋穂はあまり素直なタイプとは言えない。一言で表すなら『ツンデレ』なのかもしれない。
冬香が秋穂をわからない、と思うのはそういったところだろう。どこまでが所謂ツンデレで、どこまでが本気なのか、冬香は理解できない時がある。
実際にさっきのように怒らせたのではないか、と感じることもよくある。
おー気が利くねえと上から目線な態度で夏希がコップを受け取った。
秋穂は借りてきた本を何冊かとる。
「さっき二人が言ってたことだけど……考えてみると、二人が言うように、『死』は人によるのかもしれない」
読んだことのないくらい太い本を秋穂はぺらぺらとめくりながら続ける。
「……本を借りてきたけど、この本は『正解を見出す』ためじゃなく、『意見として受け入れるため』にあるのかもね」
死に正解はない。
秋穂が手にしていた本は極めて直球なタイトルの本であ。
著者の名は――初めて聞いたが、きっと学者なのだろう。
「死は誰にもわからない。……じゃあ、どの意見を信じるかも自分次第だ」
そうして冬香らは三人しかいない化け物部として、他の人の死生観を知るために本をめくった。
そのあとも三人でいろいろな文献をあさって――とはいっても三時間しかなかったので少し話をするだけになってしまった。
ただ、一つ。
死を決定づける必要性はない。冬香たちが出した答えだ。
死の先は誰にも分からないのだから、必ず「こうだ」と決めつけず、自分の考えを尊重したらいい。
「おもっ……」
借りてきた本は冬香が持って帰ることになった。――じゃんけんで負けたのだ。
着替えもせずベッドへダイブし、なんとなく冬香はさっき秋穂が持っていた本を開いた。
何も考えず最初のほうのページを軽く読む。
本は軽く小説しか読んだことがない。こういった論文のような文章は読みなれてない。
「――自殺狂」
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