第五話:書かれた夢
見たことのない本、知らない言語。
なのに“読める”感覚が、夢の中でだけ蘇る。
*
それは、深夜二時をまわった頃だった。
柊 静は“見知らぬ図書館”の中にいた。
巨大なドーム状の天井。黒い木材で作られた書架が、まるで迷路のように並んでいる。
誰もいない。音もない。ただ、空間が彼女を“読んでいる”ような気配だけがあった。
(ここはどこ……?)
静は気づいた──本に書かれている文字が読める。
意味のわからないはずの記号や図像が、彼女の中に“意味”として流れ込んでくる。
それは、思考ではなく本能で理解するような、異様な感覚だった。
ページをめくるたびに、そこには未来の出来事が記されていた。
> 「明朝五時、柊 静は“記録される”」
「午後三時二十八分、閲覧室にて“顔のない利用者”が出現」
その瞬間、書架の奥から何かがこちらに向かって“歩いて”くる気配がした。
「……夢よ、これはただの夢」
そう呟いた途端、空間が崩れ──静はベッドの上で目を覚ました。
だが、その日。出勤して自分のデスクに座った彼女は、夢の中で読んだ本と“同じもの”が、目の前に置かれていることに気づく。
「……どうして、これが」
背表紙には、見覚えのないタイトルが刻まれていた。
『睡読録(すいどくろく)』
その本の栞には、こう書かれていた。
> 「夢の中で読む者がいる限り、私は現実に現れる」
静は本を閉じた。
だがその瞬間、ガラス越しに見える閲覧室の椅子に、誰かが座っているのが見えた。
顔が、ない。
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