第3話 笑うトパーズ

 ジェームズは、宝石のことなら宝石に関わる者が、一番良く知っていると考え。屋敷からそう遠くないところまで歩いて行った。メインストリートの中央にある宝石の老舗『エアリス・ジャーン』本店である。


 幾分、古い宝石には呪いがあるという噂があるが、この歳ではさほど不安ではなかった。だが、今までジェームズ自身も55年間もの長い時を、八宝石を探しに世界各地を飛び回ってはいるが、未だにその痕跡すら見つかっていなかった。


 粉雪の舞う首都ロンドンは、今日もいつものように活気が溢れている。冬のメインストリートは、昨日の夜から降る雪によって、いくらか地面にも真っ白な雪が積もっていた。街行く人々はロングコートが目立ち。もうすぐクリスマスシーズン到来だった。


 宝石店エアリス・ジャーンに入る際に、入り口の回転式ドアから一人の女性が急いで駆けてきたので、ジェームズは横へどいてやるというハプニング以外はいつもの日常だ。


「失礼! 今、急いでいまして!」


 その女性はロンドン駅の方へと、そのまま走って行ってしまった。

 言葉の訛りからすると、どうやらフランス人だろう。どこか陰りがある痩せ細った顔だったが、とにかく美しい女性だった。

 ジェームズは、少しびっくりしたが、そこまで観察しながら、気を取り直して店に入った。


 店内は、大勢のお客がいるというのに、シンと静まり返っていた。ショーケースやショーウインドーの中の種々雑多なとても高価な宝石は、白い照明を受けて尚美しい輝きを放っている。


 八宝石の情報を得るために、まずは店員に聞いてみることにした。

 石にも種類があるので、八宝石にも色々な種類はあるはずだ。

 宝石店エアリス・ジャーンは、老舗といわれているだけあって、ジェームズが話し掛けた店員の一人も、洒落た高級の服を着こなしてはいるが、物腰がすごく柔らかだった。


「宝石? いえ、八宝石を知りたい? そうですか、八宝石の事をよく知りたいのですね」

「ええ。あの、八宝石を知っているのですか? もし知っているのなら、どんな些細なことでも構いません。教えて下さいませんか?」

「ええと、あそこに八宝石の一つがあったのです……。ですが、すみません。今しがた売れてしまったようですね」


 ジェームズは、びっくりして、店員が向いている先の陳列ケースを見てみると、確かに八宝石のタグがあった。

 タグには、八宝石のダイヤモンドと書かれ、値段はたったの1ポンドだった。


「はて? どうして、こんなに安いのですか?」

「ここに置いてある宝石は、全て価値のあるものだけなのです。けれども、八宝石は八つ集めないと価値がないですからね」 

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