その19:人魚の卵(前編)
「どうして……こうなった………」
僕はヨリ達と海水浴に来ていて、人魚の伝説のある岬を訪れた。そこで僕にしか聞こえない人魚の歌? にわざと誘われて、人魚を捕獲すべく歌声のする方に歩いていたはずなのだが……途中、大きな岩穴がありそこに入って……霧が濃くなってきたのまでは覚えているのだが、気が付いたらいつの間にか周りが真っ暗で、ヨリやノアナさん達の気配も無くなっている。いやー、こりゃマジで罠にかかったかな?
取り合えず、愛用の剣は持って来ているので、大抵の事は何とか出来るとは思うのだが……ああ、また歌声が聞こえる。でも本当に澄んだ心に響く様な声だ。ゆっくり声を追うとその先がぼんやり明るくなっている。そしてその先には、上方に開いた複数の岩穴から陽の光が差し込み、それが下の海水に反射して幻想的な情景を作りだしている岩のホールになっていた。
そして、その真ん中がちょっと高い岩のステージになっていてそこに女の子が一人、座っていた。もしかして人魚? そう思ってよく見ると、いや……どう見ても人間だよな。足がある。それに……全裸だ。いや、これ。あんまりじろじろ見ちゃ失礼なやつかな?
「あっ、ごめんなさい。ついうっかり入って来ちゃいました!」
僕がそう間抜けな声をかけると、その女の子は歌う事をやめ、立ち上がって僕に話掛けてきた。
「ああ、王子様。よくぞ私の呼びかけに答えて下さいました。それにしてもこんなに早くいらして下さるとは……感激です!」
「王子様? いえ、僕は一介の冒険者兄妹のお兄ちゃんですけど……君は?」
「あの。お忘れですか? 昨晩、砂浜で貝を投げられて、それが私に当たって……」
「ああ、あの時の!? あの時はゴメンね。突然貝殻投げつけて。それで、君は今ここで何をしているの?」
「あのー。話すと長くなるのですが……私、ここの人魚に拉致られておりまして……海から陸に上がる事が出来ない呪いをかけられています。それで助けていただける王子様を求め、夜な夜な浜辺を徘徊していたと言いますか……そうしたら昨夜。偶然にも実力のありそうな殿方と巡り会って……ああ、この人に頼めば間違いないと、お兄さんに一目ぼれした次第なのです」
「一目ぼれって……はは、なんかうれしいな。でもそういう事なら任せてよ。これでもS級冒険者だからね。それで僕は何をすればいい? 君の名前は?」
「はい。私はセーレンと申します。お兄さんには、私を拘束している人魚たちを追い払っていただければと」
「そっか。実は僕達も人魚を探していたんで好都合だ。とりあえずはぐれちゃった仲間達と合流して、それから人魚退治に行きたいんだけど?」
「あの……お仲間は人魚たちに捕らわれていると思います。お兄さんだけは私の歌声が聞こえたのであの洞窟を迷わずここにたどり着かれたのかと。ですので、私がお兄さんをご案内いたしますね」
「うん。そうしてくれると助かる。それにしてもその恰好だと目のやり場に困るよな。それに君、人間だよね? やっぱり転移者なの?」そういながら、とりあえず僕は、マジックバッグから女性の衣類一式を出して、セーレンさんに渡した。
「あ、あの。私のプライベートはちょっと……すいません」
「ああ、まあいいよ。誰でも人に言いたくない事ってあるよね」
「有難うございます。それでお兄さん。こんな形で助けていただいても私には何もお礼が出来ません」
「いいよそんなの。人間同士助け合おうよ」
「それでは申し訳ございませんので、あの……私の身体でよければお兄さんに……」
「えっ? いや、別にそんな……」そう言う僕の左手を自分の右胸に押し当てながら、セーレンさんが「そうおっしゃらず、どうぞご自由に。私の王・子・様!!」
ふひゃー。これは……なんという張りと弾力。今までにない感触だ。
「ああ、判った。女性に全部言わせちゃいけないな。それじゃ、うまく人魚を追い払ったら成功報酬という事でどう?」
「はい。その時は、私の全てを王子様に捧げます」
ふはー……僕は鼻の下を伸ばしっぱなしにしながら、セーレンさんに手を引かれ洞窟のさらに奥に入っていった。
◇◇◇
「ちょっと。お兄ちゃんどこ行っちゃったのよ!」ヨリさんの声だ。でもすぐ近くにいるはずなのに姿は見えない。それくらい霧が濃いのだ。私、ノアナも防御魔法最大で警戒をしているけど、お兄さんの気配が消えてからもう三十分は経っただろうか。
「これは、ちょっとまずいな。一度撤退して装備を整え直した方が良くはないか? それにとりあえず近くにいる者同志で手をつなぐなりロープを結ぼうほうがよい」サラドラ先生がそう言い、とりあえず近場にいるメンバーと声を掛け合って、お互いをロープで繋いだ。ヨリさんが点呼を取り、お兄さん以外は全員いる事が確認出来たけど……お兄さん大丈夫かしら。
「魔導探査に引っかからないのよね。この霧、マナを吸収してる?」ヨリさんの声に、王妃様も少し緊張気味に話出した。
「こんな危険があるとは聞いておりませんでしたが、確かにこの状況はまずいです。一度脱出して援軍を……むっ? 曲者!!」いきなり王妃様が、持っていた短剣を気配がしたほうに投げつけた。
「きゃっ!?」おお、手ごたえありです。声がしたと同時にリーマ姫がそこへ向かってジャンプし、近くにいたメイファーちゃんがロープで引っ張られて怒っていた。でも、さすがはC級。ちゃんと曲者を制圧している様だ……ああ、私も一応C級なんだけど……
「動くな。下手な真似をしたら首が飛ぶわよ!!」リーマ姫の声のする方に慎重に近寄ると……あれ? 女性かしら。そして、ヨリさんがぐいーっと顔を近づけてその曲者の全身を舐めまわす様に確認した。
「あんた……人魚?」
えっ!? 私も慌ててそばで見てみると、確かにこれは人魚以外に言い様がない姿です。上半身はうら若き女性ですが、下半身はまんまお魚……でもおっぱいは私より大きそう。人魚って卵産むんじゃないの?
「あ、あの。お許しください。別に危害を加えるつもりでは……さっきから魔導探査が頻回に打たれていて、警戒体制のレベルを上げて霧を濃くしていましたが……あなた達は冒険者ですか?」
「ええ。私達は冒険者よ。それであんた。お兄ちゃんどこやったの?」ヨリさんが人魚の前髪を掴んで凄んでいます。
「はい? それって、もしかして男性がいらっしゃったのですか? だとすると……」
「??? ちょっと。私達もあんたに危害は加えないから、ちゃんとお話しない?」
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