その17:健康が一番!(後編)

 引き続きダンジョン内を周回していたら、またオークがひょこッと出て来た。

「今度こそ、当てて見せます!」そう言いながら、またメイファーちゃんが剣を振り回してオークに駆け寄っていく。

「あー、慌てないで!!」むしろ僕の方が慌ててメイファーちゃんについて行く。

 

 メイファーちゃんがオークに向かって剣を振り下ろすが、それは空振りして脇の岩壁にガツンと当たった。すると、そのとたん壁が光った。

「トラップか!? メイファーちゃん下がって!!」僕がそう言い終わらないうちに、メイファーちゃんがその光に飲み込まれてしまい、僕もためらわずそこに飛び込んだ。

「お兄ちゃん!!」ヨリとノアナさん、リーマ姫が後を追って来たが、彼女達が飛び込む前にトラップの光は閉じてしまった様だ。

 くそっ、これは僕がメイファーちゃんを何とかしなきゃ……目のくらむ様な光の中を落下しながら、僕は懸命にメイファーちゃんを探した。


 ◇◇◇


 ドンッ。


 僕は、対ショック体制で受け身を取り、なんとかノーダメージで床に着地した。もちろん、メイファーちゃんも途中でちゃんと捕まえた。

「メイファーちゃん。大丈夫?」僕がそう言いながら彼女の顔を見ると、もうよほど怖かったのか、すっかり泣き顔だ。

「お、お兄ちゃん……怖かった……ちょっとチビった……」

「はは……多分、替えの下着もマジックバッグにあると思うから」

 そう言って僕はマジックバッグから下着を取り出し、メイファーちゃんに渡した。彼女はそれを手に、ちょっと離れた岩陰に隠れてしゃがみこんでいる。

 それにしてもここは……かなり下層まで落ちちゃったよな。こんなところでおしっこ騒ぎとか、いつぞやのノアナさんの時みたいだな。あの時は、お漏らししたノアナさんの身体拭いていたらヨリが助けに来て……いや、今回もヨリの助けを待つ方が安全だな。


 すると、トットットッっとメイファーちゃんが駆け寄ってきたが……あれ、メイファーちゃん。はいてた半ズボンどうしたの? ぱんつ丸出しだよ。

「あの……お兄さん。半ズボンも濡れちゃってて、ぱんつといっしょにあっちの変な形の岩の上に干してきました……」

 うわっ、そういう事か。でもマジックバッグには半ズボンは入ってないぞ。こんな幼女をぱんつ姿にしていて、またヨリに発見されたら……


 すると後ろで、ドガーーーンっという大きな爆発が起こった。

「うわっ! ヨリ、ごめんなさいっ!」僕は頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。

 しかし次の瞬間、「きゃあっーーーーーーーーーーー!!」とメイファちゃんの悲鳴が聞こえ、僕が後ろを振り向くと、大きな翼を持った異形の怪物が立っていた。そして、ものすごく禍々しい気配を放っている。

 そうだ! メイファーちゃんは!? 慌てて目でメイファーちゃんを探すが、足元を見て僕は心臓が飛び出そうなくらい驚いた。

 

 そこには、手足が引きちぎられたかの様にバラバラになったメイファーちゃんの身体が転がっていた。

「メイファーちゃん!?」頭がフリーズしかかっていた僕だったが、殺気を感じて反射的に後ろに飛びのいた。


「ほう。今のを避けるか……」ああ、こいつしゃべった……

「何だお前は。よくもメイファーちゃんを!」

「そのエルフは我が聖廟せいびょうに汚物を乗せ、排泄物をかけた。当然の報いだ。だが、こうして目覚めたのも数千年ぶりだ。お前には起こしてくれた礼を言おう」

「ふざけるな! お前は一体何者だ!?」

「冒険者風情に教えてやる義理はないが、まあよい。我は、悪魔貴族階級43番。ダンブルトンだ。さて大分腹も減っている様だし、久々に外に出て、エルフや獣人共を食らってやろう。だが、まずはこのダンジョンに足を踏み入れた女子供が先か……」

 そう言って、ダンブルトンと名乗った自称悪魔貴族は、ふっとその姿を消した。


「くそ、あいつヨリ達を食うつもりか!?」僕の緊張は最高潮に達した。

「ああ、まさかメイファーちゃんのおもらしぱんつで、あんな厄介そうな悪魔が目覚めるとは……しかもメイファーちゃんはバラバラだし…‥‥くそ、メイファーちゃんごめん。まずはヨリ達を助けなきゃ。メイファーちゃんは必ず後で迎えに来るから!」そして僕は、上に向かう通路を探しながら、懸命に走りだした。


 ◇◇◇

 

 二時間ほどダンジョン内を走り回って、何とか最初にメイファーちゃんとトラップにひっかかった場所にたどり着いた。もうチート能力全開で僕もヘロヘロだ。この状態でダンブルトンと戦えるのかは微妙だが、背に腹は代えられない。早くヨリに危険を知らせないと。

「ヨリ達はどこだ? おーい。ヨリー!!」大声で叫ぶと、ピーンとマナの波動を感じた。

「あっ、これノアナさんの魔導探査!」あわてて発信元と思われる方に駆けて行く。


「あー、お兄ちゃん。いたいたー! 大丈夫――」ヨリが呑気そうにそう言ったが、ダンブルトンはまだ来ていないのか?

「あーヨリ。無事だったか! 気を付けろ。変な悪魔が甦っちゃって、お前達を食うって……」

「あー。それならさっき、やっつけたよ」ヨリが事も無げに言う。

「確かに雰囲気だけはSSだったけど実力はCクラスだったよ。それでお兄ちゃん、メイファーちゃんは?」

「あー! そうだ、そうなんだ……ヨリ、実は……」下の階層での事をヨリ達に説明した。

「えー。何ですって!? メイファーちゃんがバラバラ……」みんなが激しく動揺した。

「ヒール出来るかしら? ともかくすぐに現場に行きましょう!」ヨリにせっつかれ、僕は自分の来た道を思い出しながら下層に向かった。


 ◇◇◇


「その岩の後ろ。ああ、リーマ姫はトラウマになりかねないから見ない方がいいかも」僕はそう言いながら、リーマ姫とノアナさんをその場に待たせ、ヨリと一緒に岩の後ろに回った。

「ヨリ……気をしっかり保てよ」

 そうは言ったが、僕はメイファーちゃんを直視出来ず、目をつぶったのだが……


「何よ、お兄ちゃん。バラバラでもなんでもないじゃん。メイファーちゃんピンピンしてるよ」

 何? 慌てて目を開けると、確かに下半身ぱんつ一丁のメイファーちゃんが床にしゃがみこんでいる。


「あー、お兄さん。ひどいー。なんでメイファー置いて一人で言っちゃうのよー」

 そう言いながらメイファーちゃんが僕に走り寄って来て、大泣きしながら可愛いグーで僕の身体をポカポカ殴った。

「でもメイファーちゃん。あの悪魔に手足を千切られて……」

「うん……でも、しばらくしたら直っちゃった!」

「なんですとーーーー!?」


「あー。もしかして『健康』スキル?」ノアナさんがそうつぶやいた。

「いや、それ『健康』って言う? それって『不死』とか『再生』じゃないの?」

 驚く僕にヨリが言った。


「はは。エルフのメイファーちゃんがこのスキル駆使したら、まさに不老不死だねぇ」


(終)

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