【R-15版】冒険者兄妹(仮)
SoftCareer
その1:蟲(前編)
「どうして……こうなった………」
山深い原生林のとある場所に、壊れかけた教会の様な建物があったので、僕と妹のヨリは、一目散にそこに逃げ込んた。古びてはいてもここの神像は、奴らを寄せ付けない位の結界を太古の昔から張り続けてくれている。だから冒険者達は万一の時の避難所として、過去の遺跡であるこうした建物を利用するのだ。
長時間走り回ってすっかり夜も暮れ、もうヘトヘトだが何とか一息つく事が出来たので、今後の方策をヨリと検討しなくては……って、あれ? ヨリもう寝てる?
ヨリは僕の目の前で、床に転がってクークーと可愛い寝息を立てているが、まあ仕方ないか。そんな愛すべき妹の寝顔を僕はしげしげと眺める。
「やっぱこいつ。めちゃくちゃ可愛いよな……」
二つ年下のヨリは、学校でもマドンナ的存在だった。容姿端麗・成績優秀・スポーツ万能の生徒会副会長で、それでいてちゃんとお兄ちゃんにも甘えてくれる、まあ僕の理想の妹をそのまま体現した様な、眼に入れても痛くない存在だ。
だからこそ……この窮地をなんとかして切り抜けなければ!
◇◇◇
そもそもなぜ僕達兄妹が、こんなところで冒険者稼業をやっているかという事なのだが、僕が高二、ヨリが中三の時、両親が事故で亡くなった。幸か不幸か、両親は莫大な資産や金品を残してくれていたため、二人が生活に困る事はなかったはずなのだが、親戚連中がしつこくまとわりついて来て、だんだんイラついてきたので、二人で田舎の山奥の廃診療所にでも引っ越そうかと思っていたところに、あの男が現れた。
「異世界転移斡旋?」
「はい。私どもは、この世での生活に不満をお持ちのお金持ちの方々に、異世界での暮らしを提供しております。一度、異世界に行ってしまえば、
最初は、どうせ財産目当ての霊感商法みたいなもだろうと相手にしなかったのだが、ヨリが親戚のいとこに拉致される事件が起こった。無理やり肉体関係を結んでしまえば、財産が手に入ると言う
「いいですねー。実の兄妹二人での逃避行。あのアニメ見たいですねー」スーツでサングラスの男がそんな事を言ったが、こいつ見た目よりオタクなのだろうか。
「いえいえ。僕とヨリは決してそのような関係では……ですが、せっかく転移するなら、チートありで波乱万丈で毎日飽きない生活がしたいのですが?」その僕の言葉に、隣で話を聞いていたヨリも、うんうんとうなずいている。
「かしこまりました。それではチートとTUEEEEと、おまけにざまぁもお付けして、剣と魔法のファンタジー世界にご案内いたします。二名様、ごあんなーい!!」
こうして全財産をその男に渡して異世界に転移した僕とヨリは、冒険者ギルドに加入し、僕は剣士、ヨリは賢者として日々、依頼をこなしていく生活に入った。
異世界の生活は……多少チートが効きすぎていて、Sクラスの魔物でさえワンパン出来てしまい、これはこれでゲームバランスどうなの? とは思うが、まあ、楽しいものだった。冒険者ランクも早々にSランクになり、僕ら兄妹は町の人々のあこがれと尊敬の的になった。少なくとも元の世界で、受験だの就職だのハラスメントだのガバナンスだのに翻弄される人生なんかより、数百倍楽しいに相違なかった。
そんなある日……
「えっー!?
「いやいや、蟲っていっても、そんなに大きくなくて、ファイヤ
「そんなのCランク冒険者で十分じゃない。お兄ちゃん、私達はSランクだよ!」
「それはそうなんだけど……場所が結構山奥で、格下冒険者だと行くだけで参っちゃうらしいんだよ。だから出張手当がおいしいんだけど……」
「そんな山奥の遠隔地なら、人に迷惑かからないだろうし、別にほっときゃいいじゃん!」
「いやいや。それが増えてから山を下りて人里を襲うんだとさ」
「んもーしょうがないなー」
そんな訳で、この山奥まで蟲の討伐に来たのだが……いや、僕の考えが甘かった。
確かに一匹一匹は大した事ないのだが、とにかく数が圧倒的だ。多分、ギルドの予測より早く増殖してしまっていたに違いない。それと致命的だったのが、蟲の形が、ヨリがこの世で一番嫌いと豪語してはばからないゲジゲジ型だったのだ! お陰でヨリの精神統一が乱れ、思いのほかMPを消費してしまった様だ。ああ、事前にもっとちゃんと蟲のタイプ確認しておくんだった……。
「もう、やだよーーーーー」泣きわめくヨリの手をしっかり握り、僕が眼の前に次々と現れるゲジゲジを斬り伏せながら、なんとか教会に逃げ込む事が出来たのだった。
◇◇◇
ヨリが寝てしまっていては仕方ない。僕もちょっと休まないと……そう思いながらヨリの方をうかがうと、うわっ! なんかすごい恰好で寝ているな。
デニムのショートパンツから、見事な太腿がむっちりとはみ出していて、股を開き気味にしているため、隙間からちょっと下着が見えている……ピンクだ。
「ううん……」そう言いながら、程なくヨリが寝返りを打ち、下着は見えなくなったので、僕は床をそっと這いながら位置を変え、また隙間から下着が見えないか試みる……ああ、こんな事してる場合じゃないんだが。
建物の外では、蟲たちの鳴き声なのか、ギイギイと
「うーん。それ、もう少し右向け! おっ、やった。見えたー」
つい声に出てしまい、そうしたらヨリがむくりと起き上がった。
うわっ、やばい!! 慌ててヨリの股間から眼をそらす。
「お兄ちゃん……いま私の事見てた?」低いドスのきいた声で、ヨリが問いかける。
「えっ、いや。何の事?」はみぱんを眺めていたと分かってしまったら兄の
「ふう……まあ、いいけど。それでお兄ちゃん。お腹すいた」
「ああ、ごめん。マジックバッグ無くした……途中で落としたんだと思う」
「なんですって? じゃ、水も?」
「うん……」
「そんな。それじゃMP回復出来ないよ……お兄ちゃん。外の
「ええっ!?」
仕方ないので恐る恐る、建物の扉を3cm位開けて外を眺めた。
「!!」だめだよこれ。もう周り一面、蟲でびっしりだ。魔法援護無しでは、一匹斬る間に十匹に飛び掛かられる。
「無理無理無理無理!」
「もう……それじゃどうするのよ……」
さすがに僕の命に関わると思ったのか、ヨリもそれ以上何も言わなかったのだが……
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