繁盛亭なかよし怪談夜話Ⅱ

稲富良次

第1話 「宝塚の山肌に沿ったマンション」

わたくしが派遣で電話会社に出向していた時のお話しでございます。

20年くらい前ですかねぇ・・・


社員さんの運転で

宝塚の大きな賃貸マンションに行った。二棟建てで80戸くらい・・・


社用車は中型のバンで一階の駐車場に停める。

地下一階にも駐車場がありスロープで繋がっている。

山肌に沿ってマンションが建っているので一階も外の出口

地下一階も外の出口があり開放的な造りだ。

マンションはコの字型をしていてコの中に一棟を増築するらしい。

その設計段階で会社が立ち入らせてもらえるのは「とてもいいこと」

らしい。

導管の太さとか何かで、とてもいいことらしいんでございます。


バナナマンの日村似の先輩から10階のペントハウスのオーナーと

会ってくるからお前は地下のMDF近くの自販機で待っていろと言われた。

僕の仕事は駐車違反のキップを切られないために車中に残っている事で

いわゆる「お地蔵さん」なので外で待てるのはかなり有難かったんですね。


社員さんはここのオーナーのヒラメ顔の不細工なお嬢さんと「ねんごろ」

なので"わちき(わたし)"がいるのが邪魔というのが本音というところ。

何故知っているかというと、ここら辺のビラ配りや現地調査で10階の

オーナーの部屋の横に業者用の外付けトイレがあるので、道中催したら

よく利用させてもらっているからなんでございます。

オーナーの部屋の前に前衛的な正方形の彫刻があったので見とれていた

ことがある。

後日その社員さんから「あんまりオーナーのいる階でうろうろするな」

とお叱りを受けたんですなぁ

なんで知ってるんですかと聞いたら・・・オーナーの娘とコレだからと

小指を立てられた。

「ぜひ顔がみたいです」と言ったら得意げに携帯の待ち受け画面を見せてくれた。


ははんそうですかという具合。破れ鍋に綴蓋ってやつです。


自販機の前に女性の着衣の彫刻が二つある。

オーナーが芸術に造詣が深いのは知っている。

ぼぉっと眺めている。

僕は気配を消すことが得意だ。

貧乏ゆすりや咳き込むこともまずしない。


しばらくすると彫像が世間話をしだした。

「あそこの奥さんが・・・」どうたらこうたら

「旦那さんの浮気がバレて・・・」どうたらこうたら

チラチラ石像から人間の姿にシフトチェンジしている。

僕が見上げているから位置的に見えないのかな?


「ゴホン、見えていますよ、聞こえていますよ」

とダミ声で注意した。

そうすると視線がこちらを向き

キッとねめつけられた。

「知ってるわよ! 存在感ないから同類と思ったじゃない!」

とキレられた。

そして世間話に戻る。わちきを無視してね・・・


正直、幽霊の上位交換と付き合いがあるので、僕も驚いたりしなかったが・・・

こうもぞんざいに扱われると

噴飯やる方ない。


憤っていると背中をコンコンされた…


小学校高学年くらいの幽霊の少年が立っている。


なんで幽霊だと分かったのかというと、姿が青白い白黒だったんですよ!!

一瞬でこの少年がこのマンションで死んだ経緯がフラッシュバックした。

悲しい気分かというと、そうでもない、鬱っとおしいのが先にたつ。

そいつから構ってほしい雰囲気がプンプンする。

「お兄さんぼくらが見えるの、話せるの」

「そうだよ」


それからそちらには見向きもしなかったんですよ・・・

しばらくすると先輩の社員さんがエレベーターから降りてきた。

「おいMDF室を見に行くぞ」

先輩が先導して廊下を歩いていく。

その後ろ姿を見ながら

「ねえあの人ぼくが見えないの?」

とさらに僕の後ろからついてきている。

「あまりしゃべりかけるな…」

僕は小声で小学生には聞こえるが先輩に聞こえない程度で返事をした。


MDF室(交換機室)を鍵であける。


このマンションの電話交換機がそこにある。

その横の備え付けの換気扇が動いていない。

先輩はスイッチをカチャカチャした。


動かない。

常時動いているものなのである。


「チェ!」先輩は舌打ちした。

携帯を取り出し工事班に連絡しようとする。

ここでは電波が届かないようだ。

「もしもし・・・もしもしぃ」

社員さんは出て行った。


その姿を追い視線を戻すと

小学生の幽霊が換気扇のファンをいじっていた。

指先でグルグル回す。

「おい勝手に触るな!」

とわちきが注意すると

換気扇が自力で回り出した。「ブゥゥウオオオン」

男の子はニッコリ満面の笑みを向ける。


しばらく茫然としていたが・・・

慌てて先輩の社員を追いかけた。

「先輩、工事修理班、呼ばなくていいです!」


先輩はブスっとして

社用車のバンのエンジンをかける。僕は後部座席に座っている。

「なんだってんだよ、おい・・・」

独り言をいっている。

車がノロノロ動きだした。

と、突然!

助手席の開いた窓から、さきほどの彫像の女が入ってこようとする!

「わっ!」

わちきがびっくりしたのに満足したのか、すっと消えたが・・・振り向くと

笑みを浮かる女の姿をバックミラー越しに見た。


こりゃ虚仮にされたか・・・とおもいました。

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