第5話 お手並み拝見

⸺⸺セキエイの村前の草原⸺⸺


『ガルルルル……』

『グルル……』


 村の塀の周りを大量のダークウルフがぐるぐると徘徊している。特に入り口周辺に集まっていて、その数ざっと100は超えていそうだ。

 これでは村の人々も安心して外に出ることが出来ない。孤立してしまっていたんだ。


「無理だ、こんな数……たった2人、しかも5歳の子どもとびしょぬれ刀の剣士だぞ……」

 お父様、言い方がちょっと……。

「ぐれちゃ団員! 僕に続きたまえー!」

「おうよ、大将!」

 ちょ、大将じゃなくて団長なんだけど……。


 僕がダークウルフの群れに飛び込むと、お母様がそのすぐ後ろでサッと魔法杖を構えた。大丈夫、お母様、その杖降ろしていいよ。


 僕は右手をかかげ、魔法を連射した。


⸺⸺初級光魔法⸺⸺


「ルクス!」


 パン、パン、パン! っとダークウルフを丸々飲み込むような大きさの光の魔弾が連続で放たれ、ダークウルフを次々と黒い霧に変えていった。


「なんて大きさの初級魔法! それを、一度の詠唱で何発も……!」

 解説ありがとうお母様。これでも魔力の出力を抑えた方なんだけど……やっぱり魔法杖はいるなぁ。

 しかし、僕の魔法を見たお母様は表情がパッと明るくなり、魔法杖をそっと背中に収めた。


 僕の魔法に引き寄せられるように、ダークウルフが次々に飛びかかってくる。

「ぐれちゃ!」

 グレンに指示を出すと、彼は刀を納刀したままダークウルフの群れの中へと飛び込んだ。ちょっと、刀抜かないと!

「おうよ、もう斬ってらぁ!」

「えっ!?」

 僕に飛びかかってくるダークウルフが次々に真っ二つに斬れて黒い霧となって消えてゆく。

 ハッとしてグレンを見ると、しっかりと刀を鞘から引き抜いており、むしろスーッと納刀をするところだった。いつ抜いた……!?

「ぐれちゃ、ちゃんと強いじゃーん!」

「“ちゃんと”は余計だっつーの! 行くぜ大将、相手は雑魚ばっかだ」

「うん!」


 僕たちは村周辺の魔物をものすごいスピードで一掃していく。その戦いの音は村の中にまで聞こえていたようで、村の塀のあちこちから村人が顔を覗かせていた。

「えっ、フィル様!? フィル様が戦っているぞ!」

「何言ってんのフィル様って確かまだ5歳くらいじゃ……ほ、本当だわ! なんか特大の魔法連打してる!」

「いいぞー、フィル様ー!」

「そっちの鬼の兄ちゃんもすげぇなぁ!」

 歓声が心地良い。そっか、僕、みんなに拒絶されずにみんなの役に立ててるんだ……!


 そして、ものの数分で入り口周辺のダークウルフの群れを一掃。入り口から離れた所を徘徊していた魔物は、僕たちの魔力と気迫に恐れをなして逃げ出していった。


「とーばつかんりょー! ぐれちゃ団員、おつかれさまでした!」

「おうよ、おつかれ大将!」

 パンッとハイタッチをしてニッと笑い合う。僕たち、良いコンビかもしれない。


 外の危険がなくなった事で村人たちが次から次に外へ出てきてあっという間に僕たちを取り囲む。

「フィル様! こんな小さな身体のどこにあんな魔力が!」

「鬼族のお兄さん! 助かったよ!」

「ありがとう、フィル様!」

 お父様とお母様とレベッカが割って入ってくれるまで、僕たちは村のみんなにもみくちゃにされていた。


⸺⸺セキエイの村⸺⸺


 僕たちは村の中へと歓迎され、村人たちが見守る中、両親による僕たちの講評が始まった。

「フィル、予想以上でした。素晴らしい魔道のスキルです。良いものを見せてくれてありがとう」

 と、お母様。お父様も続く。

「フィルももちろんだが、グレン殿のまるで見えない剣さばきには、いやはやおみそれした。うちの息子を任せるに申し分ない剣の達人だ」

「勿体なきお言葉です」

 と、グレン。またカッコつけて……。

「ところでグレン殿……少々気になったのだが、刀身は……その、このままで大丈夫だろうか」

「……はい?」

 引きつった顔のグレンが恐る恐る刀を鞘から引き抜いていく。

 すると、刀身にピシッとヒビが入り、みんなが「あっ」と声を上げた瞬間、刃がボロボロと崩れ落ちてしまう。残ったのは持ち手であるつかだけになってしまった。


「あ゙ーっ!」

 絶叫して四つん這いになり絶望するグレン。あちこちから「あーあ」「なんてこった」と声が上がる。

「あーあ、見たくないなんて言わずにすぐに中まで洗わなかったから……」

 僕がそう言ってグレンの肩をポンポンと叩くと、彼は「うるせぇやい……」としょげていた。


 一先ずグレンの刀は置いといて、僕たちは無事結果を残した。僕の両親も正面からそれを認めてくれて、お父様が騎士団設立の許可をしてくれた。

 お父様が本格的に騎士団を稼働させる説明をしてくれるとのことで、村人たちに盛大に見送られて、僕たちはガーネットの町へと凱旋がいせんした。

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