魔王と恐れられたS級探索者の教師、飛ばされた先が最底辺のダンジョン探索者養成学校だった

ラチム

第1話 解雇

「真野 マオ君。今月付けで君は解雇だ」


 校長室に呼び出された私、マオには心当たりがあった。

 高校教師になってから三年目、今日に至るまで私なりに信念を貫いて教鞭を振るってきたつもりだ。

 学校は勉強をするだけの場所じゃない以上、時には厳しく接しなきゃいけない。


 でもたぶん、その厳しくというのがいけなかった。

 それが学校にとってうまく作用しなかったと判断されたんだと思う。

 眉間に皺を寄せた校長が私に鋭く射抜くような視線を向ける。


「大して驚いた様子はないな。やはり心当たりがあるのだろう?」

「……先日、喫煙していた生徒に厳しく指導したことでしょうか?」

「その生徒に暴力を振るっただろう。保護者の方が怒り心頭でね」

「山上君が殴りかかってきたので腕を掴んで捻り上げただけです」


 私が毅然として答えると校長はわざとらしく大きくため息をつく。

 用具室のほうからタバコの匂いがしたから行ってみると、山上君がタバコを吸っているのを発見した。

 それを咎めると山上君は、逆上して胸倉を掴んで殴ろうとしてきたから自衛したまでだ。


「君ね、それでも十分暴力なのだよ。そのくらいわかるだろう」

「では山上君のそれは暴力ではないと?」

「確かに山上君も問題だ。でもね、君はこの一件だけじゃないだろう」

「……と、言いますと?」


 校長が苛立ちを隠さずに椅子の背もたれに体重をかけた。

 脂ぎった頭が窓から差し込む日差しによって反射して光っている。


「放課後、遅くまで残っていた生徒達に威圧的な態度をとったそうじゃないか」

「西川君、原君、栗山君でしょうか。教室で大声をあげて騒いでいたので注意をしました」

「その言い方が威圧的だと言っているのだよ。生徒に恐怖を与える必要がどこにある」

「恐怖を感じたのなら結構です。自分達がそれだけのことをしたという自覚を持てたと思います」


 その生徒達は他の先生達が何度注意しても居残って騒いでいたと聞いている。

 下手をすると逆切れまでするらしくて、最近じゃ誰も何も言わなくなっていた。

 そのことを他の先生から相談された私が注意をしにいった時、あの子達は確かに怯えていたように見える。


――何度注意されてもわからないようなら、力づくで追い出さなきゃダメ?


 私がそう告げると生徒達は真っ青な顔をして走り去った。

 事実、彼らは正当な理由もなく教室に残って大騒ぎをしている。

 挙句の果てにお菓子を食べ散らかしてひどい有様だった。


 何度注意をしてもやめようとしない。

 それはつまり人の言葉が理解できないか、もしくは言うことを聞くつもりがないということ。

 それなら力づくで追い出す以外に方法がある?


 こらこら、お前達。あまり遅くまで残るんじゃないぞ。

 はーい。


 こんな何の生産性もないやり取りが指導なの?

 なんて、校長にそう聞きたかった。


「それに生徒を職員室に呼び出して延々と説教をしたそうじゃないか」

「試験の点数が赤点だったので、このままだと留年だと警告しました。事実、岡村君は成績が悲惨です。勉強の姿勢を改めないと卒業できなくなると話をしました」

「そこまで脅す必要はあるのかね?」

「事実です。将来を交えて私なりに話をしたつもりですが、その様子だとまったく伝わっていなかったようですね」


 校長が無意味にペンを握って机をトントンと叩いている。

 明らかに苛立っているみたいだけど、私は間違ったことをしたつもりはない。

 この校長も含めて、最近の教育現場は甘すぎると感じていた。


 少し声を荒げれば威圧的、体に触れようものなら体罰。

 男性教師が女子生徒の肩に触れただけでセクハラ。

 かくいう私も赴任当初は手がつけられないヤンキーの生徒に手を上げたことがある。


 新任教師だと思って舐めてかかったんだろう。

 平手打ちをしたら一発で気絶してしまった。

 あれだけ威勢がよかったのに情けない、なんて思っていたら次の日には保護者が乗り込んできた。


 それ以来、私は校内で魔王なんて囁かれている。

 どうもあのヤンキーの生徒、屑島君はこの学校の番長だったみたい。

 それどころか近隣の高校を三つも支配しているという暴れっぷりだ。


 そのせいで教師すら注意ができなかったというから、口で言ってどうにかなる相手じゃない。

 だったら体でわからせるしかないじゃない。


 最近では怒ること自体が悪という風潮まである。

 子どもを萎縮させて自主性を奪うだとか、もっともらしいことを言う人もいるくらいだ。


「今まで目を瞑っていたが、とうとうPTAが黙っていなくてな。私としてもこれ以上はフォローできん」

「ではPTAの方々を交えてお話をさせてください。お互い誤解があると思います」

「そんなことをこちらから要求できるとでも? それにね、真野君。こう問題ばかりを起こされては敵わん。君だって何度も保護者の方々に頭を下げただろう」


 やっぱり無理な相談だった。

 校長はペンを机に転がしてから立ち上がる。


「先程は解雇と言ったがね。君には選択肢を二つ与えよう。一つはこのまま学校から去ること。もう一つは新たな教育現場にいくこと、だ」

「新たな教育現場……?」


 このまま解雇されるかと思っていたから意外だった。

 だけど校長の瞳が怪しく光った気がする。


「通称……奈落」


 奈落。過去に何度か聞いたことがある。

 奈落の他は最下層、底辺。

 ありとあらゆる蔑称で名高いその場所は――。


武来ぶらいダンジョン探索者養成学園……君にピッタリだろう?」


 私の表情を見て察した校長がニヤリと笑う。

 思わず校長を睨みそうになったけど寸前で堪えた。


「元S級探索者。難攻不落と呼ばれた日本屈指のダンジョンを踏破した少女……しかし突如として探索者界隈から姿を消した。そのためか、今では伝説的存在となっている通称……少女A。君がいるべき場所はここじゃない」


 ここ、と強調するように校長は机を指で叩いた。

 ダンジョン探索者。もう関わる気はないのに。


「……私は探索者をやめました。今では普通の暮らしを望んでいます」

「いや、君のような人間はこの社会において不適合だ。その点、武来は違う。わかるだろう?」


 言わなくてもな、と校長は無言で主張した。

 このまま黙って解雇されるか。はたまた古巣に戻るか。


――うちの子がウソをついていると!? 謝って!

――こんな暴力教師がいてはうちの子を預けられない!

――今時こんな教師がいるなんてな!


 今まで浴びせられた数々の言葉が私の中で反芻する。

 握り拳を作りながら目を閉じて、そして開く。


「……武来へ行きます」


 私がそう答えると校長はパッと笑顔を作った。

 これでいい。私の居場所は結局ここにはない。

 私は新天地で教師を続ける。

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