神話へのラストパス⚽

マレブル

CL準決勝 ジュゼッペ・メアッツァ

ボールは丸い

この夜を待っていたと?いや、違う。

彼らが私を待っていたんだ。

チャンピオンズリーグ、あの円の中心から、世界はすべて始まる。

私を一蹴りした、その時から。

歓喜も、絶望も。

芝の間を抜ける風。湿度を含んだ空気が、私にまとわりつく。

黄色のユニフォームを着た連中は、例によって私を保持する術を心得ている。

芸術家のように、私を足で撫でる。

まるでガラス細工でも触るかのような繊細なタッチ。

最初の15分、私はほとんど青の陣地ばかりにいた。


前半19分、青の23番が右サイドから抜け出してきた。速い。

黄色のサイドバックが一歩遅れる、私は23番の足元に吸い込まれる。

右足で打つと見せかけて、ふわっと浮かされた。

—切り返し―

次の瞬間、23番が左足で私を強かに叩いた。

鋭利なシュート。だが、まっすぐキーパーの胸元へと向かっていた。


私は悟った。今日の主役は彼じゃない。

その1分後。黄色の選手がパスを受けようとした。

青がすばやく囲み、上手く私を奪った。迷いのない動きだった。

青32番のスパイクの側面が、私に柔らかく触れる。スルーパス。

間違いなく、狙いすました一本。仕込んできたタイミング。


青の2番がフリーで受ける。

黄色チームが異常なほど高く設定していたディフェンスラインの裏。

彼らは「ミスが起こらない」ことを前提に戦術を組み立てている。

11人が連動し、美しく理想を体現しているときは、まさに最強。

だが、サッカーはミスのスポーツだ。

私は球体で、彼らは脳から一番遠い「足」を使って私をコントロールする。


2番は絶妙な飛び出しでパスを収め、丁寧にダイレクトで私を横に滑らせた。

中には、青の10番。マルティネス。

冷静だった。慌てず、焦らず。

私の中心をしっかりと見て、右足でゴールに流し込んだ。


ゴールネットを膨らませたあとで、私は見た。

ゴール裏の海のような青。青い旗、青い煙、青い叫び声。


—そうだ、ここは彼らの街だ。街が呼吸を取り戻した。

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