閑話1:ネットの噂と観測者たちの囁き
1.ざわめく探索者フォーラム
【スレッドタイトル】
【目撃情報】旧渋谷地下街ダンジョンに謎の凄腕ソロ出現?! Part.3
1:名無しの探索者
昨日、旧渋で銀光苔を異常な速さで集めてる奴いたんだけど、誰か知ってる?
フード深く被ってて顔は見えなかったけど、なんか手際が尋常じゃなかった。
こっちは数人がかりでチマチマやってんのに、そいつ一人でごっそり持ってった感じ。
2:名無しの探索者
あー、俺も見たかも。Part.2にも書き込みあったよな、その話。
地味な外套着た男だろ? なんか採取スキルがエグいとか。
俺が見た時は、モンスターにも遭遇してたけど、一瞬で片付けてたぞ。武器使ったのかもよく分からんくらい。
3:名無しの探索者
>>2
マジか! うちのパーティー、そいつが通りすがりに助けてくれたっぽいんだよな。
リーダーがネズミもどきに足掬われてピンチだったんだけど、気づいたらネズミが全部沈んでた。
礼を言う間もなく消えちまったけど。
4:名無しの探索者
ただのベテランじゃね? たまにいるだろ、ああいう変人。
5:名無しの探索者
>>4
いや、なんか雰囲気が違った。ベテランって感じじゃなくて、もっとこう……“格”が違う感じ。
言葉で説明しにくいんだけど、動きに一切無駄がないっつーか、そこにいるだけで空気がピリつくっつーか。
6:名無しの探索者
チートスキル持ちの転生者キタコレ?www
7:名無しの探索者
>>6
またそういう話かよw でも、あながち否定できないくらい異常だったのは確か。
あの苔の量、業者でもあんな短時間じゃ無理だろ。
8:名無しの探索者
動画とかないの?
9:名無しの探索者
>>8
あるわけねーだろ、そんな上手い話。
まあ、次に遭遇したら絶対声かけてみるわ。
◇ ◇ ◇
2.SNSでの拡散と憶測合戦
【人気探索者ニュース@フォロワー10万】
最近、旧渋谷地下街ダンジョンで「銀光苔マスター」なる謎の人物の目撃情報が多発してるらしいね!
フードを深く被ったソロの男性で、異常な速度で銀光苔を採取していくとか……。
モンスターも瞬殺するって噂だけど、正体は不明。
君の隣にも、実は凄腕探索者がいるかも?
#探索者 #ダンジョン #都市伝説
リプライ欄より:
「銀光苔マスターってマジ?w 受けるんだけどww」
「動画はよ!」
「なんかフード被ってたらしいよ。イケメンだったらいいな(願望)」
「チートスキル持ちの転生者かよw テンプレktkr」
「でも、最近低級ダンジョンでたまにヤバい奴の噂聞くよな」
「無口だけど、動きが人間離れしてるとか」
「都市伝説だろw」
「なんかキナ臭いよなー、この頃の日本。ダンジョン関連で何か隠されてる気がする。政府とか、大手企業とかがさ」
「考えすぎだってw ただのゲーム脳だよお前ら」
◇ ◇ ◇
3.情報屋リサの“仕入れ”と、ノアからの“囁き”
ホーリィ商会の薄暗い店内。カウンターの奥で、リサは情報端末の画面を眺めながら、面白そうに口の端を歪めていた。
画面には、探索者フォーラムのスレッドやSNSの書き込みがいくつも表示されている。
そのどれもが、「銀光苔マスター」と呼ばれ始めた謎の探索者についての噂で埋め尽くされていた。
(ふふん、思ったより早く目立ち始めたじゃないか、あのパートナーは……。銀光苔マスター、ねぇ。悪くない呼び名じゃないか。さて、この“噂”、どう料理してやろうかねぇ)
独りごちたリサは、気になった情報をいくつか抜き出し、自身のデータベースへと手際よく保存していく。
商会の裏業務として、“特異情報”の仕入れと分析は日課の一部だった。
その時、彼女専用の暗号化チャットツールに、新たなメッセージが届く。
差出人は、“N”。情報屋ノアからだった。
『観測対象A(アルファ)、旧渋谷地下街ダンジョンにて特異行動多数確認。
その採取技術、戦闘能力、共に既存探索者のデータを大幅に逸脱。
依然として能力の全容は不明。対象の“赤い水”及び“星の欠片”の解析は継続中。
引き続き、対象Aに関する詳細なデータ収集を要請する。
特に、彼の知識の源泉と、その目的について……』
淡々とした文面の中にも、ノアらしい執拗な探究心が滲み出ていた。
リサはメッセージを読み終え、ふう、と小さく息を吐く。
(……全く、あの情報屋も人が悪い。あたしの大事なパートナーを“観測対象A”呼ばわりとはね)
けれど、同時に彼女の瞳には、探るような、そしてどこか期待を含んだ光が宿っていた。
(だが、これは面白いことになってきたじゃないか……。あの男、一体何を隠してるんだい?)
リサの指先は静かに画面を閉じ、新たな情報を待つかのように、また闇の中に沈んでいった。
◇ ◇ ◇
4.ダンジョン行政の日常と、どこかからの“視線”
「おい、例の旧渋谷地下街ダンジョンの巡回報告、もう上がってるか?」
「ああ、さっき確認したよ。特に異常なし、だとさ。ただ、最近ネットで変な噂が多いらしいな。『銀光苔マスター』だとか……」
「またか。どうせ尾ひれのついた話だろう。探索者ってのは、そういうのが好きだからな。それより、明日の定例会議の資料はできているのかね? 上はピリピリしてるぞ」
「は、はい、ただいま最終確認を……」
慌ただしい会話が飛び交うオフィス。
その空間には、どこにでもあるような公務的な疲労と、変化を拒む鈍さが満ちていた。
だがその時、窓際でコーヒーを片手にしていた中堅職員が、ふと眉をひそめる。
彼は曇り空の向こう、都市の高層ビルが連なる風景を見つめながら、静かに呟いた。
「……最近、なんだか……誰かに見られているような気がするんですよ。特に、この庁舎の周辺で……。気のせい、でしょうかね……?」
一瞬だけ、周囲の職員たちが手を止めた。だがすぐに、苦笑や小さなため息と共に、また日常の作業へと戻っていく。
書類の山、データの照合、無機質な時間の流れ――その裏で、確かに“何か”が動いていることに、誰もまだ気づいていなかった。
その職員が見つめていた窓の外。
高層ビルの屋上に設置されたアンテナの影。
その一角に、ほんの一瞬、黒い外套を翻す人影のようなものが揺らめいた。
だが、それはすぐに霧散し、後に残ったのは、ただどんよりとした都会の空だけだった。
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