第2章

夜、自宅。

ベッドに寝転び、スマホの画面をスクロールする。

無数の誰かの投稿。

笑顔、楽しそうな飲み会、推し活、家族の団欒。

「#幸せ」「#感謝」「#最高」

そんな文字が画面いっぱいに並んでいる。


(みんな…見てもらえてる。)


坂本は自分のアカウントに戻った。

最新のツイート。

「お疲れ様。誰か話そ?」

0リプライ。

0いいね。


(……。)


画面が静かに光っている。

誰も反応していない。

まるで、スマホの向こう側の世界に、坂本という存在が最初からいなかったみたいに。


ブルルルル――


また、ポケットの中が鳴った気がして手を伸ばす。

でもポケットにはスマホは入っていない。

机の上、充電ケーブルに繋がれて光っている。


(おかしいな…。)


“音”は確かに耳に届いた。

でも、現実では何も鳴っていない。


坂本はスマホを握りしめ、通知履歴を確認する。

何もない。

不意に、心の奥から波のように不安が押し寄せる。


(誰か…見てる?

 いや、見てない。

 でも見てる…?)


ブルルルル――

ブルルルル――

ブルルルル――


――耳の奥で、止まらない“音”が鳴り続けた。



翌日、職場。

田中美沙はいつものように自然体で同僚と笑いながら話している。

その輪の外で坂本は一人、デスクでスマホを見つめていた。


「坂本さん、昨日のツイート見ましたよ。元気なさそうでしたね。」

美沙がふと声をかけてくる。


坂本は一瞬、救われるような気持ちになった。

(…見てくれてたんだ。)


でも美沙は続けた。


「でも、SNSってあんまりネガティブなこと書かない方がいいですよ?見てる人も疲れちゃうし。」


笑顔で、柔らかい口調で。

でもその言葉が、胸に突き刺さった。


(見てたくせに――“否定”するのかよ。)


坂本の笑顔が、引きつった。


「……そうだね、ありがとう。」


そう言いながら、心の奥で何かが少し崩れる音がした。

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