第101話 大規模防空戦闘
新鋭偵察機の彩雲は「大鳳」型空母とそれに「翔鶴」型空母にそれぞれ六機が搭載されていた。
合わせて四八機ある中でこのうちの三二機が索敵に使われ、これとは別に八機が第一次攻撃隊に参加、こちらは前路警戒や航法支援にあたっていた。
残る八機については交代で第一機動艦隊と太平洋艦隊の中間空域に進出させ、米艦上機隊の動きを知らせる任務に充てていた。
そして、それら彩雲から相次いで敵情がもたらされる。
四群の編隊が一機艦に向けて進撃しているというものだった。
これらのうちで、少ないもので百数十機、多いものだと二百機を超えるという。
つまり、米母艦航空隊は艦隊ごとに編隊が組めるようになるまで、その練度を高めているということだ。
母艦ごとの編隊でさえ、これを満足に組むことが出来ずにいたマーシャル沖海戦の頃を思えば、こちらは長足の進歩だと言えた。
このとき第一航空艦隊から第四航空艦隊までの四つの機動部隊には、それぞれ一六八機の零戦が直掩として用意されていた。
このうちの半数が上空警戒、残る半数が飛行甲板上で即応待機の状態に置かれていた。
生沢長官は直掩任務の戦闘機に対し、ただちに発見された敵編隊を迎撃するよう命令する。
まず、上空にあった三三六機の零戦が機首を東へと向けて前進を開始する。
それら上空警戒組は所属艦隊ごとに分かれ、それぞれに割り当てられた敵編隊に向かっていった。
航空管制を実施していればこその動きだった。
さらに、即応待機組の同じく三三六機の零戦も飛行甲板を蹴ってマリアナの空へと舞い上がっていく。
上昇性能に優れた五三型だから、艦隊上空で編隊を組み上げるのも速かった。
そして、これらもまた上空警戒組の後を追った。
上空警戒組のうちで、一航艦の零戦隊が対峙したのは、第一機動群の五隻の空母から発進した攻撃隊だった。
九六機のF6Fヘルキャット戦闘機と五四機のSB2Cヘルダイバー急降下爆撃機、それに七二機のTBFアベンジャー雷撃機からなる第一機動群の攻撃隊は、他の三隊に比べてその数が多い。
一方、一航艦の上空警戒組の八四機の零戦はセオリーを無視。
急降下爆撃機や雷撃機には目もくれず、F6Fに突っかかっていく。
そして、相手が自分たちの間合いに入った瞬間、両翼に装備したR4Mをぶっ放した。
この時点ではまだ、第一次攻撃隊の零戦がR4Mを使用して艦隊防空にあたっていたF6Fを散々に打ちのめしたという情報は、攻撃隊に随伴しているF6Fの搭乗員には伝わっていなかった。
いかに、情報伝達や戦訓分析に秀でた米軍といえども、しかしついさっき起こったばかりの戦闘のフィードバックについては、これを出来ようはずもなかった。
いずれにせよ、SB2CやTBFを守るために零戦に立ちふさがったことで、F6FのほうはまともにR4Mの驟雨にさらされることになった。
この一撃で三〇機のF6Fが撃墜される。
R4Mは二〇一六発が発射されたから、その命中率は一・五パーセントに満たない。
しかし、逆にF6Fの側からすれば、いきなり三割以上の味方がやられたことになる。
F6Fの搭乗員たちが受けたショックとその動揺は大きい。
そのことでF6Fの編隊は乱れ、結果として得意の連携を断ち切られることになった。
その隙を零戦の搭乗員たちは見逃さない。
F6Fの編隊と交錯すると同時に機体を捻り、F6Fの背後につける。
二一型に比べて旋回性能は若干低下したものの、しかしそこは段違いの速度性能によって十分に補いがつく。
一方、F6Fの搭乗員らは二〇〇〇馬力にも達する愛機の心臓にムチを入れ、急加速で零戦を振り切ろうとする。
これまでの二一型やそれに三二型であれば、そのF6Fの動きに追随できずに振り切られていたはずだった。
しかし、ここにあるのはそのすべてが誉発動機をいただく五三型だ。
エンジン出力こそP&W R-2800にわずかに及ばないものの、しかしF6Fよりも圧倒的に軽い機体のおかげでその加速は鋭い。
F6Fに離されるどころか逆にあっという間に距離を詰め、そして両翼に装備された四丁の二号機銃から必殺の二〇ミリ弾を吐き出していく。
これまでの零戦とは違う。
F6Fの搭乗員がその異様に気付いたときには、すでに手遅れだった。
胴体と言わず翼と言わず、二〇ミリ弾が炸裂すると同時に大穴を穿っていく。
単発艦上戦闘機の中では最高の防御力を誇るF6Fも、しかしこの打撃には耐えられない。
最初は九六対八四という、わずかながらも数的優勢を確保していたF6Fは、しかしR4Mの一撃で多数派から少数派に転落し、そのうえ零戦の性能を見誤ったことでさらにその格差を広げてしまう。
こうなってしまうと、SB2CやTBFを守るどころの話ではない。
F6Fは自らの生存をかけて零戦の死の鎌首から逃れようとする。
だが、三二型や二一型に対して有していた速度性能の優越も、しかし五三型には通用しない。
F6Fの搭乗員にできる事は、自分と対峙している零戦の搭乗員が下手くそであってくれと祈ることくらいだった。
一航艦と二航艦、それに三航艦と四航艦の上空警戒組がF6Fに対して残敵掃討モードに移行した頃、即応待機組の零戦が戦場にその姿を現す。
こちらは、護衛のF6Fを引き剥がされ、丸裸にされたSB2CとそれにTBFにその矛先を向けた。
このうち、一航艦の即応待機組が目標としたのは、偶然にも上空警戒組と同じ第一機動群から発進した編隊だった。
「加賀」隊と「瑞鳳」隊の三六機がSB2Cを、「大鳳」隊とそれに「白鳳」隊の四八機はTBFをそれぞれ迎え撃った。
これら零戦は容赦が無かった。
F6Fのときと同じようにSB2CやTBFに対し、一切の躊躇もなくR4Mを叩き込んでいく。
機動性に優れたF6Fでさえ回避が困難なR4Mを、しかも重量物の爆弾や魚雷を抱いたSB2CやTBFがこれを躱せる道理が無い。
そのR4Mによって一気に半数以上の機体を刈り取られたSB2CとTBFに零戦が襲いかかる。
一方のSB2CとTBFは防御機銃を振りかざしつつ爆弾や魚雷を投棄して反転、一機艦への攻撃よりも自身の生存を優先させる。
だがしかし、零戦の搭乗員はそんな彼らを見逃すつもりはない。
F6Fをも上回る加速性能を活かし、SB2CやTBFに急迫すると同時に二〇ミリ弾をぶちまけていく。
一方、SB2CやTBFの搭乗員らは、護衛のF6Fに宛てて悲壮ともいえる救援要請を送り続ける。
しかし、その要請に応えられるF6Fはもはや存在しなかった。
七二九機にも及ぶ米攻撃隊が一機艦の姿を見ることさえ出来ずに敗退した理由はいくつかあった。
迎撃側にR4Mという対空兵器、それに五三型という初見殺しのカードが二枚も揃っていたこと。
さらに、F6Fの搭乗員がその五三型を三二型だと思い込んでいたことも大きな要因の一つだろう。
それと、航空管制の存在も大きい。
特に今回は英国製の電探やドイツ製の無線機が使えたこと、さらに彩雲の働きもあって従来以上に遠方からの迎撃が可能だった。
また、マーシャル沖海戦以降、航空管制の洗練度を高めることに努めてきた関係者の努力と献身も無視できない。
このことで遊兵を出すこともなく、効率的な戦力配分ができた。
そのようなこともあり、今や帝国海軍の航空管制はかつての英国やドイツに比肩するか、あるいはそれ以上のものになりつつあると見て間違いなかった。
ただ、それは英国やドイツの装備に頼ったものであることも事実だったので、それに関しては今後の課題だと言えた。
このように、迎撃成功の理由はいくつも挙げられる。
それでも、最大の要因は何と言っても一機艦側が多数の零戦を擁していたことだろう。
「大鳳」型空母と「翔鶴」型空母、それに「赤城」と「加賀」にはそれぞれ四八機、他の八隻の空母にはそれぞれ二四機の零戦が艦隊防空任務のために用意されていた。
その総数は実に六七二機にも及ぶ。
一方、米攻撃隊には三二四機のF6Fが含まれていた。
しかし、五三型に対して性能で劣り、さらにその数も半分以下ではさすがにSB2CやTBFを守り切ることはできない。
米攻撃隊の最大の敗因は単に戦力の不足、F6Fの数が少なかったからだとも言えた。
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