ギフト・リクイエム

+プッチ

ギフトってなんですか??

拒絶した男

 気がつくと、白い空間にいた。


 何もない。床も壁も天井も、果てすらもわからない。だが、ひとつだけわかることがあった。


「……俺、死んだのか?」


 佐藤真一、35歳。物流倉庫勤務。 特に趣味も夢もなく、ただ流されるように日々を送っていた。死因は睡眠不足による居眠り運転。


 気づけば、妙に明るい空間に立っており、目の前に見慣れない人物がいた。


「よう。佐藤真一くん」


 男とも女ともつかない、老若すべてが混ざったような不思議な顔立ち。


「……誰だよ、あんた」


「まあ、神みたいなもんだと思ってくれればいいよ。で、ひとつだけ選んでいい。『ギフト』ってやつを」


「ギフト……?」


「君はこれから別の世界に転移するんだ。そこで使える特殊能力。どんなのでもいいよ。面白いのがいいな。あ、ただし、細かい条件とか仕様の指定はできないからね」


「は……?」


「転移先は適当な村とか町の近くにしておくよ。言葉も問題ない。着いたら自然に通じるようになってるから」


 言葉が、頭の中にふわりと降ってくるようだった。


 世界。転移。能力。戦い。危険。死。


 まだ状況も理解できていないのに、脳裏に断片的なイメージだけが浮かぶ。

 考えようとする前に、言葉が出ていた。


「……全部の攻撃を反射するやつ。『完全反射』とか……」


 言ってから、自分で驚いた。

 そんなことを望んでいたのか、いま自分が何を決めたのか、本当にわかっていたのか。


「いいね、きたそれ。じゃ、いってらっしゃい」


 その言葉を最後に、何の説明もなく床が抜けた。



 気がついたとき、真一は地面に仰向けに倒れていた。


 顔に何かがまとわりついている。

 土のにおいとザラついた感触。口の中にまで入り込んでいた。


「……げほっ、ぺっ……」


 思わず吐き出そうとする。咳き込んで、口を開いたときだった。


 その瞬間、脳内に何かが流れ込む。


【完全反射】

《外的な攻撃・干渉をすべて反射する》

《反射対象は本人の認識によって自動的に決まり、対象の判定は不可逆》



 力の説明と同時に、真一の体が淡く光を放った。


「……え?」


 ピシッ、と空気が裂けたような音。

 真一の体を薄膜のような光が包み込む。


 息が、入ってこない。


 喉は開いている。鼻も口もふさがれていない。


 けれど、吸えない。空気が、拒まれている。


 目を見開き、喉を鳴らしながら、真一は理解する。


 《完全反射》が、空気を「侵入物」として認識したのだ。


 最初は、口に入った土を吐き出そうとしただけだった。

 だが、直後に発動した“反射”は、それをきっかけに「外から入るもの」すべてを遮断しはじめた。


 酸素が入ってこない。

 空気が皮膚と粘膜で撥ね返される。


 必死に呼吸しようとするほど、苦しみは強くなる。

 反射は本能と直結しており、意識では止められない。


 佐藤真一。異世界転移から約三分後。

 その“完全すぎる力”が、最初に拒絶したのは――空気だった。



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