第20話 オレは、助けたい


背中を丸めた彼女の目の焦点はどこにもあっていなかった。口は半開きになり、よだれが垂れている。オレは首の付け根辺りに手刀を入れる。奏術は使っていないが、思ったよりも強く入ってしまったらしい。頭からつんのめってしまった。

額を摩りながら、目鼻立ちの整った顔をオレに向けた。

「昨日の人・・・・・・。追ってきたの」

「偶然会っただけだよ。東京で人探しなんてできる訳がない」

「じゃあ、なんでここにいるの」

「屋敷の近くを歩いていただけなのだけどね。君こそ制服着たまま、こんな昼間にここにいて大丈夫なの」

彼女は俯く

「別に。問題ないよ。じゃあね」

立ち去ろうとした彼女は足を止めた。既にオレ達は囲まれていたのだから。

彼女はオレに何か言いたげな視線を寄越した。丸腰で進む彼女の手を掴んでいた。

今にも泣きだしそうな彼女を抱きかかえると、ここに来た時と同じように、壁を蹴り上げて、屋上に上がり込む。追手の声が聞こえる。中に人がいるであろうビルの屋上だが、奏術を使い、屋上まで、飛んでくる可能性も捨て去れない。そして、両手がふさがっているのだ。破砕や刀も使えない。

「お、下ろして。私は大丈夫だから」

「そうは見えなかった。君が助けて欲しそうな目をしていたから、助けた」

「いや、もう大丈夫。大丈夫だから。地獄蝶と一緒にいたイケメン君でしょう。それで助けてもらっても私、宝石なんて持っていないの。だから。ごめんなさい。ありがとう。おろして」

声が近づく。彼女をひすいさんの元へ連れて行けば、助かるだろうが、何かしらの石を要求されるだろう。なかったら瑰玉を抜き取られて終わり。無条件の人助けはまずしない人間だ。

「確かにオレは地獄蝶と関わりがある。でも、オレは助けを求められたら、無償で、それにこたえたいんだ。オレの奏術はそういう使い方をするべきだから。だから、しっかり捕まって。飛ぶよ」

彼女を落とさないよう、強く抱きかかえると、彼女も、オレの首元にしがみついてきた。

一度、旧上野駅跡まで、飛ぼう。そのあと、東京警備局でも目指せばいい。屋上の出入り口がけ破られたのを、わき目に、フェンスを越えて、4階建ての小規模な対面のビルに飛び移った。

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