45.対決! 魔術研究課③
「なんだお前ら、辛気臭い顔しやがって」
バルドは会議室に入ってくるなり、豪快に笑った。
「バルド課長……!」
「話は聞いてるぜ、クロダ」
バルドはクロダを一瞥してニヤリと笑い、ロドルフの前へと歩み寄る。
「おう、ロドルフ」
「…………」
呼びかけに対し、ロドルフは不機嫌にそっぽを向いたままだ。だが、そんなロドルフの様子を気にすることなく、バルドは続けた。
「その魔道具製作、製品加工課もいっちょ噛ませてもらうぜ」
「……!」
予想外の展開に、クロダは息を呑む。
「魔道具っつっても、魔術研究課は道具の加工に関しては素人だろ。その点、うちに任せてもらえれば、安全と品質を両立できる」
(たしかに……魔術研究課の説得ばかりに気を取られて、そんなこと考えもしなかった……)
クロダを含めた業務整備課の面々は反省しきりで、目を伏せた。
「残念だったなあ、ロドルフ? さっさと受けてりゃ全部独り占めできたのによ。うちが入れば利益は折半だ。悔しいか?」
「……別に。そもそもやらぬと言っとる。わしらが協力を拒めば、魔道具なんぞ作れんじゃろう」
あくまでも頑固なロドルフに、バルドはため息をつくと、クロダに一枚の紙を押しつけるように渡した。
「製品加工課が入った場合の取引試算だ。テッドが一晩でまとめてくれた」
急いで目を通す。魔道具の品質が上がれば単価も上げられるし、安全性が増せば計画の破綻リスクも減る。製品加工課の人件費を差し引いても、十分お釣りがくる。
「あ、ありがとうございま……」
「礼を言うにはまだ早えぞ」
バルドは恐縮しきりのクロダを手で制した。
実際、ロドルフはいまだ頑なで、首を縦に振る様子はない。むしろ、バルドの登場によって意固地さを増したようにも見える。
「でも……これ以上どうしたら……」
「クロダ」
弱音を吐いたクロダに、バルドはなぜか楽しげな表情で後方の扉に視線を送る。
不思議に思って振り返ると、そこにはもう一人の男の姿があった。
「クロダ。まだ勝負は、これからですよ」
◇
「セシル課長……!」
セシルは無表情のまま会議室に入ってくる。背を向けたままのロドルフを見やり、フッと鼻で笑った。
「ロドルフ。あなたはまだ、あんな昔のことを引きずっているんですね」
「…………」
ロドルフは応じない。セシルはゆっくりと懐から紙を取り出し、ロドルフへ突きつける。
「魔法部の部門長からの伝言です」
「!」
ロドルフは血相を変え、ものすごい勢いで振り返った。
「私が直接掛け合い、承認をいただきました。『魔術研究課は、業務整備課に全面的に協力すること』……これを見ても、その態度を貫きますか?」
「ど、どうやって部門長を!」
慌てて食ってかかるロドルフだったが、セシルは動じない。
「別に、業務整備課の提案書を丁寧に説明しただけですよ。部門長は柔軟な考えをお持ちですから。……あなたと違って」
「ぐ、ぬ……」
痛烈な皮肉が、ロドルフに突き刺さる。先ほどまでの威勢はすっかり影を潜め、歯ぎしりするばかりだ。
「セシル課長、どうやってそんな……」
呆然とするクロダに、セシルはわずかに口角を上げて見せた。
「先輩課長として、ひとつ教えましょう……『根回しとはこうやるものです』」
その一言に、クロダは天を仰いだ。
もちろん、今回の提案をするにあたって、クロダも当然のごとく根回しはした。しかし相手は生産部の部門長や知り合いの課長だけだ。
相手の立場を問わず、最も効果的な相手に根回しする――その発想は、自分にはなかった。
(さすがはセシル課長……これなら!)
クロダは期待を込めてロドルフを見た。
ロドルフは、黙ったまま静かに肩を震わせている。
そして、観念したように肩を落としたかと思うと……
「それでも、嫌なんじゃ~~~~~!」
全然、折れなかった。
(魔法部の部門長まで巻き込んだのに……これでもまだ、粘るのか……)
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