ババア魔術師、現代ダンジョン世界へ転生する
深空 秋都
第1話 魔術師、転生する
私の夫はある日突然いなくなった。
短く刈り上げられた黒髪、筋骨隆々とした強靭な身体。そして身体に似合わずとても落ち着いた優しい瞳。
失踪? 離婚? 違う。夫婦生活は一般のそれより好調であることは誰の目にも明らかだった。
私の夫はダンジョンという危険地帯を探索する仕事をしていた。地上には存在しない貴重な鉱物や植物を採取したり、時にはダンジョン内に潜む怪物――モンスターと対峙する危険な仕事だ。
夫が仕事から帰ってこなかった翌日、私は探索協会の職員と共にある場所へ向かっていた。
「こちらです」
私は夫と再会した。
夫はぐっすりと寝ていた。
「まだ寝ているのね」
黒服の職員は目を伏せた。
「外泊するなら一言連絡くらいしてほしかったわ」
顔が熱い。意識も少しふわふわとしている。
「
黒服の職員は話を続けるが、何も頭に入ってこなかった。
なぜ彼が眠ったままなのか。
私には理解できない。
私はその日の晩、まだ生まれたばかり娘を見て決意を固めた。
******……
儂は偉大なる魔術師だった。
自称ではない。いつの間にか国王が勝手に呼び始めたのだ。あの鼻垂れ小僧め。
これは自慢だが、偉大なる魔術師として相応しい実績もある。
天変地異を鎮め、十万人の人口を誇る都市を一晩で壊滅させかねない怪物を単独で討伐し、瀕死の重症を負った者たちを瞬く間に治癒した。
儂は自分が偉大であることを謙遜しない。
それは日々研鑽を重ねている魔術師たちを貶める行為だからだ。
そんな儂にも終わりは来る。
それは誰にでも訪れる自然の摂理。
「尽きる時は一人か……家庭も、弟子も作らず好き勝手生きた老婆に相応しい末路よ」
地下に作った魔術研究用の工房。そして儂の墓場だ。
「世に放ってはならぬ魔術が多くあったな。燃やしてしまうか」
最後に使う魔術はとっておきだ。
これまでの魔術の集大成。究極にして無。
「己ごと消し去る禁忌指定間違いなしの魔術じゃ。楽しみじゃのう」
工房中に張り巡らされた銀色の術式が発光する。
術式全体に魔力を満たせば後は勝手に発動してくれる。
「これぞ極大消滅術式よ――おお、すごい、すごいぞ!身体が分解されていく」
手足の指先から加速度的に分解されていく。
肉体が光の粒子となっていく様は幻想的でなんと美しいことか。
******……
儂は偉大なる魔術師。
万物を分解する消滅魔術を行使した偉大なる人間。
「わしはいだいなるまじゅちゅし!ってこれ!なでるでない!」
「そうだねぇ。偉大な可愛さだねえ」
儂を抱えているこの女は今世の母。ナツミだ。
にっこりと微笑んで儂の頬に顔を擦り付けてくる親馬鹿じゃ。
「むむむ」
「んー? 可愛いねえ」
(ええい!それしか言えんのか!)
魔術を用いて退けることもできるがそれはしない。
少し煩わしいと思っていても親の愛情を無碍にはできんのだ。
それにナツミは夫を失っておる。他の親族は知らぬがこの家にいるのは儂とナツミだけ。
「み――」
「あるわよー」
「……うむ」
ナツミは用意周到なのか勘が鋭いのか。
ミルクもおむつ交換も言う前に気づく。
『本日の特集はダンジョンで活躍中の――』
テレビに顔を向ける。
どうやらダンジョンの特集らしい。
「見せたかったわね。あの人にも」
ダンジョン特集を見ながらナツミは瞼を閉じて呟く。
儂は悲しげな表情のナツミを抱きしめる。
小さき身でできるのはこれくらいしかない。
「ありがとう、
「……」
ダンジョン、気になるのぉ。
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