42. 魔法を追う魔法

「誰が魔物を呼んだのでしょうか……?」

「そこまでは聞き出せていない。洗脳の魔法で記憶が消されているようなんだ」


 私達に魔物を仕向けた人は憲兵たちに何度も水をかけられ、強く問い詰められている。

 けれど、返ってくる答えは「覚えていない」の一言だけ。


 私が治癒魔法と解呪魔法をかけても返答が変わることは無かった。

 洗脳魔法をどんな風に使われたのか想像もつかないけれど、記憶を消せる人に狙われていると思うと恐ろしい。


「……治癒魔法をかけても変わらないみたいです」

「あの男から聞き出すのは諦めて、町の中を徹底的に調べよう」

「どうやって調べるのですか?」


 問いかけると、イアン様は魔法書を広げる。


「確かこの辺りに……あった。この魔法で調べられるはずだ」

「これ、何の魔法ですか」

「魔力の残滓を辿って、魔法を使った人の居場所に導いてくれる。

 ただ、儀式魔法だから準備に時間がかかるのが難点だ」


 儀式魔法という単語は、王宮で魔法を勉強している時に学んだ。

 魔力を良く通す液体で魔法陣を描き、同じ属性の魔力を流すことで発動するのだけど……魔法陣を描く手間がかかる欠点がある。


 私も練習で水銀を使って描いてみたことはあるけれど、一時間近くかかってしまった。

 液体なら何を使っても効果を出せるそうだから、水魔法で魔法陣を描いても同じことが出来るかもしれない。


「魔力の残滓って、時間が経つと薄まるのですよね?」

「ああ。だから、今すぐに準備を始める」

「私も水魔法で描いてみても良いですか?」

「もちろん。時間が惜しいから、失敗したら水銀で描く方を手伝ってほしい」


 言葉を交わしている間に、イアン様は地面をならしていく。

 私は宙に浮くように、魔法陣の形の水魔法を作りだした。


 そこに風の魔力を通すと、魔法陣が光を放つ。


「イアン様、成功しました!」

「……もう起動したのか!?」

「そうみたいです。でも、どうやって使うのですか?」

「魔法陣の中心に立つと、魔力の残滓が見えるようになる。そこに、この風魔法を向かわせるんだ」

「や、やってみます」


 この魔法を使うのは初めてのこと。

 使い方はよく分からないけれど、イアン様に言われた通り魔法陣の中心に立つと、周囲に黄色や水色、緑に赤のもやが浮かんだ。


 ……これが魔力の残滓なのかしら?

 そう思いながら、私は町の周囲に視線を向ける。


 すると、沢山の水色のもやが見えた。

 あれは私が使った水魔法の残滓なのだろう。使ったばかりだから、かなり濃くて先が見通せない。


 でも、その中に少しだけ紫色のもやが混じっていることに気付いた。

 闇魔法は誰も使っていないはずだから、これが魔物を操っていた魔法だと思う。


「どうやって風魔法を向かわせるのですか!?」

「普通の風魔法と同じように、魔力で操るんだ」

「わ、分かりました……」


 魔法のことは言葉で説明されても分からない。

 でも、なんとなくで試してみると緑色のもやが町の方へと伸びていった。


「こんな感じでしょうか……?」

「……緑色のものが伸びていれば出来ているよ。どうかな?」

「そうなってます!」


 そう答えると、緑色のもやが紫色のもやに当たって、ひと際明るい光が町の中に伸びていく。

 その光は旅館のような建物に伸びているから、その旅館の中に居る人が魔物を呼んだのだろう。


 自分が居る町を襲わせるなんて、一体何を考えているのかしら?

 そんな疑問が一瞬だけ浮かんだけれど、この術者も洗脳されているのかもしれないと気付いた。


「あの旅館にいる人が使ったみたいです!」

「……分かった。なぜ町の中から襲わせたのかは謎だが、逃げられる前に旅館を包囲しよう」


 イアン様に伝えると、そんな言葉が返ってくる。

 不思議に思うのは彼も同じみたいだけど、兵士達に指示を出す様子に迷いは無かった。


 こうして、私達はウェストフォールの町に向けて進みだした。

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