23. Side 予想外の強さ

 アイリス達がアンデッドの群れと戦っている頃。

 王都を防衛するための城壁に設けられた見張り塔に、ザーベッシュ伯爵夫人のイリヤの姿がった。


 彼女の隣にはロイドの姿もあり、二人とも数年前に発明された望遠鏡を覗いている。

 本来なら居るはずの見張り番の姿は無いが、誰もそのことには気付かない。


「昼に出るアンデッドは軍隊で相手をするよう強さだから、あの娘は死んだも同然ね」

「ああ。あの力が弱まればアンデッドを洗脳して、死なないようにすればいい」


 元々はパーティー中に幻惑の魔法でアイリスが社交界から追放されるように仕向ける計画だったが、得体の知れない何かに阻まれて誰一人として洗脳することが出来なかった。

 正体がアイリスの力であることは二人とも予想していて、彼女の力を弱めれば幻惑の魔法が効くようになると思いつく。


 そこに、アイリスが魔法の練習のために王都の外へ出ている情報が入ったのだ。

 これを好機と考えたイリヤは見張り役を洗脳し、練習に丁度いい魔物の群れが居るという誤情報を流させた。


 アンデッドにイリヤの魔法が効くことは実験済みで、今はアイリスの力が弱まるのを待っている状況だ。


「あらあら、魔法全然効いていないわね」

「タイミングを誤ればアイリスを失うことになる。気を抜くなよ」


 イリヤ達は悦に浸りながら望遠鏡を覗き続けていた。

 その時、一人の男が騎乗で城門を飛び出す。


 彼は見張り役から誤情報を受け、アイリス達に進言していた衛兵だ。

 アイリス達が王宮を発ってから少しして、別の見張り役からアンデッドの群れの情報が入り、そのことを知らせるために馬を走らせる。


 そしてもう一つ。

 アイリスの練習をするのに丁度いい魔物の群れは居ないということも発覚したのだ。


(早く知らせなければ、イアン殿下とアイリス様の命が危ない……!)


 衛兵は馬を潰す覚悟で鞭を振るい、遠くに見える王家の馬車を追う。

 しかし、少しすると更に前方に黒い壁のようなものを認めた。


 ――魔物の群れ。

 経験豊富な彼がこの答えを出すのに、一秒とかからなかった。

 馬車が引き返す動きをしていることにも気付き、これ以上追いかける意味が無いことも悟る。


(いくら魔法に長けている殿下でも、この数が相手では危険だ。一旦引き返し、援軍を呼ぼう

 いや、俺が戦いに参加した方が勝機があるか……?)


 ただ、王家に忠誠を誓っている彼は、窮地に陥っているように見える王太子一行をそのままにするという決断を出来ずにいた。

 既に戦いの口火は切られており、無数の魔法が魔物へと降り注ぐ。


 しかし魔物の群れは一向に減らず、衛兵は自らが殿しんがりとなり王太子達を逃がす決断をした。


(殿下、今助けます!)


 彼が手綱を握り直したその時。

 ひと際まばゆい光魔法が放たれ、魔物の群れがあっという間に倒れていく。


 一体何が起きたのか。

 数々の戦いを見てきた衛兵でさえ、理解出来なかった。


 同刻。


「……イリヤ、今回の責任はどう取るつもりだ?」

「ま、まだやり直せるわ! 次こそは絶対に成功させるから、時間をちょうだい!」


 イリヤ達は、今回も自分達の計画が失敗に終わったことを悟る。

 この時のロイドの声は、身体の芯から凍り付きそうなほど冷え切っていて、イリヤは必死に次の作戦を考えるのだった。

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