竜を狩る者たち ~堕ちた元貴族は裏社会で成り上がる~
あべしろ
第1章 結界の外に広がる表裏
プロローグ
第0話 プロローグ
目の前に憮然と立ちはだかるのは巨大な赤き竜。
深紅の鱗を全身に纏い、人間など一飲みできそうな巨大な顎はニヤリと吊り上がり、鋭利な牙が口から覗く。全てを焼き尽くす煉獄の竜。
今まさに、下民共が住む下町を破壊しようと試みる暴力の権現。
全てを踏みつぶし、焼き尽くし、突き進む人間の天敵だ。
全身が熱い。奴の息吹を正面からもろに受け止めたせいであろう。身体の2/3は焼かれ、熱によって皮膚が焼けただれている。
イケメンだと持て囃された自慢の男前も、騎士として鍛え上げられた自慢の肉体も、奴の息吹の前で全て無に帰した。これではもう、街中の女性をナンパすることすらできはしない。
周囲に倒れ込むは、目の前の竜に挑んだ冒険者たち。
みな焼かれ、潰され、食われ、全員が地面に這いつくばっている。
自分がいてこの様だ。
貴族として生まれ落ち、天才だと持て囃され、騎士になり、騎士になった後もエリートだと持て囃された。
そんな将来安泰なすべてを捨ててここまで来た。貴族としての立場も、騎士としての未来も、全てを捨ててまでここまで来たのだ。
なのにそれは全て無駄だった。
自分が助けたかった人はもう、奴によって殺されてしまった。
「リン…………!」
自分の視界の先で倒れ伏している彼女の姿を見る。左胸に大きな空洞を空け、力なく地面に倒れ伏している。彼女の名前を呼んでも、大好きな声を聞く事もできないのだ。
「クソ…………ッ!クソが……………ッ!」
もう既に息絶えている特別な女性の死体を見ながら、悪態をついて何とか立ち上がる。
ボロボロの身体。もう動ける筈の無い身体。それを動かすのは、身体の内からふつふつと沸き上がってくる激情であった。
もう守りたい人はいない。だけど彼は立ち上がった。
目の前の憎き竜を殺すため、憎悪と憤怒が今の彼の突き動かす。
地面に落ちていた白く輝く剣を自分は拾い上げた。
聖剣アスカロン。聖剣に選ばれし彼女が持っていた、竜を殺すための伝説の剣だ。
「はぁ…………はぁ…………」
荒くなった息を整える。
白い剣を構え、目の前の巨大な竜を見やる。
そして――――。
「がああああああああああ!!!!!」
絶叫を上げながら、青年は一気に駆け出した。
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