10. ここに住むから
「あの……それって、拒否権とかある感じですかね……?」
春風が吹き抜ける広場の中、殺意向けるリナリアに対しゴマすりをする。
「拒否するなら、その時点で殺せばいいだけだ」
「選択肢ないじゃないですか……というか、そんな簡単に人殺していいんですか」
「ああ。ルシリス様に求婚する不届き者を始末したと言えば、上も不問にするだろう」
「王都やばすぎませんかね……」
ルシリスの権力を改めて感じる。流石、国のお姫様。ならば、私を追い出すことも容易いだろう。
だとすると、余計に違和感が生まれる。
それほどのお姫様が、何故この学園に来たのか。セキュリティも格式も、ここより高い場所はあるはず。どうして、ここを選んだのか。
「そもそもな」
思考を重ねるのも許してくれず、リナリアはこちらに一歩詰めてくる。腕を伸ばせば、届く距離だ。
「貴様に提案を促している時点で、だいぶ譲渡しているんだぞ」
「そ、それはどういう」
「私としては、ルシリス様に不敬を働いたと申告して貴様の首を取ってもいいんだ。むしろ、感謝して欲しいくらいだ」
とんでもないことを軽々しく口にするなこの騎士様。
だが、その口振りを聞くにそれは真実なのだろう。彼女の恩情で、私は生かされている。いや、感謝はする必要ないんだけど。
「少し、お聞きしてもいいですか?」
控えめに腕を上げると、青みがかった髪を小振りに揺らし、了承の意を見せてくれた。
「リナリアさんって、ルシリスさんの側近なんですか?」
今私に対し問い詰めていることや、立振る舞いから察することは出来る。だが、一応聞いておきたかった。もしかしたら、ただの熱心なファンなだけかもしれない。
「貴様如きがルシリス様の名を軽々しく口にするのは癪に障るが、まあいいだろう。側近というよりも、護衛だな」
「護衛、ですか」
「ああ。ルシリス様がどうしてもこの学園に進学したいと言うので、一人の護衛を付けることを条件に進学を許してもらったのだ。――何故、あそこまで執拗だったのだろうか」
物静かに語る彼女を横目に、私はある言葉に気を取られていた。
どうしても、この学園に。それが、胸に引っかかる。
もしかして、ルシリスがこの学園を選んだ理由って――
「私のために、だなんて思ってないよな?」
「げほっ!」
思わず咳込む。なんだこの人、心でも読めるのか?
息を整え、顔を上げる。リナリアの目は、笑っていなかった。
「まさか、思っている訳ないじゃないですか」
「良かった。咲き誇るこの花々を汚さずに済んだよ」
「はは……」
まったく冗談に聞こえないのだけども。
「とにかく、貴様に拒否権はない。一週間後の試験、楽しみにしているぞ」
そう言うと、スタスタと向こう側に去っていく。どうすることもできず、虚空をひたすらに見つめる。
草木を撫でる風が吹き、何となくベンチに座る。目の前に降り注ぐ現状を、再確認する。
「ルシリスさんに求婚されて、そのせいでリナリアさんに狙われて、一週間後に決闘を申し込まれて……」
あれ、私可哀そうすぎない? なんでこんな酷い目にあってるの?
どうしようもなくなり、膝を抱え上に顎を乗せる。どうにか出来ないかと物思いにふけっていると、夕方の時刻を告げるチャイムが鳴った。
「……帰らないとな」
もう習慣となってしまっている、食事と風呂の準備をしなければいけない。置いていた鞄を持ち立ち上がると、学園から出て自宅を目指す。
家に着き支度を済ませると、帰宅を知らせる呼び鈴が鳴る。扉を開くため、ナイフを置き玄関先に向かう。
何故、私がわざわざ開けるのか。アリナさんも鍵は持っているのだが、どうやら私に出迎えてほしいんだと。住ませてもらっている立場の為断るわけにもいかず、仕方なく一年間こなしている。
玄関まで歩くと、ゆっくりと扉を開ける。
「お帰りなさい、アリナさん……」
いつも通りの言葉を吐き、彼女の姿を確認すると。
何故か人影は、二つあった。しかもそれは、私の良く知る人間の。
「ただいま、お姉ちゃん♡」
隣には、憎たらしい笑みを浮かべる妹の姿があった。
「なんでえ!?」
「ユリちゃん、ただいま~。さ、ノアちゃんも上がって」
アリナさんは隣に居る彼女に対しそう促すと、靴を脱ぎ二人で中に入っていく。状況を理解できない私は、二人の背を追うことしかできなかった。
「わ、もしかしてこれ、お姉ちゃんの作った料理ですか?」
既に机に並べられた料理を指さしながら、ノアは目を輝かせる。
「そうよ、ユリちゃんの料理は絶品なんだから」
「分かってますよ。ねえお姉ちゃん、これってもう一人分はないの?」
机に両手を掛けながら、ツインテールの髪を揺らす。汁物に付きそうで、少しハラハラする。
「ないよ。というか、なんでここにいるの」
反射的に出てきた言葉を吐くと、ノアは一瞬目を丸くする。すると、ニヤリと小悪魔らしい笑みを見せた。
「今日から私も、ここに住むから」
「……え?」
それは、突然の表明だった。ノアの顔を見ると、求められていた表情をしてしまったのだろう。
「よろしくね、お姉ちゃん♡」
そう言うノアは、憎たらしい程生意気で。
憎たらしい程、可愛い顔をしていた。
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