怪談!百物語?じゃんね!!
暗闇の中にふわりとロウソクの灯りがぼんやりと寺子屋を照らす。
私、六花、センセー、仕立て屋のイオリ、リロクで車座になって座っていた。十本のロウソクを立てて、一つ一つ話をする度に火を吹いて消す。
「オイラがちょっと前に聞いた話なんだが、町外れに堀があるだろ?その堀で、ある男が釣りをしてたんだ。ほかの堀よりも沢山釣れて、しかも魚も大きかったってんで、しばらくここで釣ろうと思って意気揚々と意図を垂らしてたんだ。まぁ、町外れってのもあって、やけに静かで草のざわめきに風の音がこびりつくように耳に入ってくんだ。はら、あんだろ?誰もいないってだけで、意味も無く怖くなったりすんだろ?それが水場ってんなら尚更な。気が張りつめて釣りどころじゃねぇやって思って引き上げようと意図を戻した時、「うっ…う…うぅ」って唸り声が聞こえた気がしたんだ。気のせいだろうと自分に言い聞かせた男の耳に女の低い声で、「うっ、う、うぅ」ってまた聞こえたんだ。怖くて動けない男の周りを見えない何かが這うように草がざわめき初めて、何かが近ずいて来るんだ。男は思わず叫んじまって尻もちをつくと、草間の中からひょっこりと猫が出てきたんだよ。「にゃー」って鳴く猫に安心して思わず尻もちを着いたんだよ。「なんだ、猫か」って、猫にこんなにこわがってたんじゃ、笑い話だなって自分を笑っとき、ふと、気がついたんだよ。まだ、聞こえるって。「うっ、う、うぅ」「うっ、う、うぅ」て、低く唸る女の声がまだ聞こえるんだよ。またどうせなんかの動物か、虫でも耳の近くについてんだろうと思って、気にしないようにしたんだ。でも、「うっう、うぅ」この声を何回も聞こえてるうちに、ただ唸っけるだけじゃなねぇ、何かを何回も言っているってことを気付いちまったんだ。「うっ、う、うぅ」「うっううぅ」「うっうけぇ」「うってけぇ」「おいてけぇ」「置いてけぇ」言ってることに気がついちまえば、もうダメよ。男は一直線で家に走って帰ってたんだ。息を切らして家の戸をしめて、安心して腹が減って釣った魚を食べようと持って帰ってきたカゴを見ると、真っ黒な目と目が合ったんだ。血の気のない女の白い顔が籠の中で「置いてけ」」
「「「ぎゃーーー!」」」
「けっけっけ!」
笑いながらロウソクの火を消すリロク。私とリッカと女の子は抱き合って震える。
「俺の知っている『置いてけ掘り』とは随分違うな……」
「そうなのー?」
「だろ?オイラが改造した!」
「すごいねー!」
「そうか。いいと思うぞ。お前の語りとしっかり合っていた」
「ねー!すごー!」
「やーりぃ!兄ちゃんに褒められた!」
センセーに褒められて嬉しそうなリロクにイオリが撫でる。
「頑張って練習してたもんねー」
「い、いうなやい!」
リロクが恥ずかしそうに怒る。
「あははー!かわいいねー君」
「ふふ、では、次は私が……」
イオリは自分のロウソクを近づけた。長い髪を耳にかける。
「お、楽しみじゃんね!」
「ふふ、ありがとうございます。まぁ、そうですね。王道で行きましょうか。
とあるお屋敷にお菊という美しい女中が居ました。彼女はその美しさで真面目な性格でしたので、家主はお菊に思いを寄せていましたが、別の男性に思いを寄せていました。家主はどれほど思いを伝えてもお菊は首を縦に振りませんでした。家主の愛情は次第に苛立ちに代わり、憎しみに変わってしまったのです。ある日、家主は十枚の家宝のお皿をお菊に預けたのです。お菊はお皿を数かって、しっかり自分お部屋に置くとかいものにでていきました。そして、家主は、お菊の部屋から家宝の皿を一枚取って、買い物から帰ってきたお菊を呼び出し、お菊にお皿の数を数えさせたのです。「一枚、二枚、三枚、四枚、五枚、六枚、七枚、八枚、九枚……」数えられません。あたりまえです。一枚たりませんから。お菊は震えながらまたお皿を数えます。何度数えたって、お皿は九枚しかありません。怒った家主に、踏まれ、蹴られ、井戸に捨てられてしまいました。それからしばらくのことです。家主が家で眠っていると、突然苦しくてなって起きると、お菊が胸の上に乗っていた。か細い、弱い声で「一枚、二枚、三枚」と、数えるのです。それが毎晩毎晩起こるのです。家主は日に日にやつれていき、九日後にぽっくり死んでしまいました」
「「「せつなーい」」」
私とリッカが、終わって感想を言う。
「んふふ、この後、偉いお坊さんが現れて、九枚目のあとに十枚と数えてお菊さんは成仏したらしいです」
私は少し安心した。
「そうなんだ。じゃあ、もう苦しくないのはいいことじゃんね?」
「うんうん!復讐は終わってるからきっかけがあればいいもんね!」
そうなんだ。センセーとリッカも知ってるのかな?
「そうですね。今は成仏してるなら嬉しいです」
「まぁ、ハッピーエンドならいいじゃんね!」
「はっぴーえんど?」
「?」
首を傾げるイオリ。
「えっと、めでたしめでたしってこと!」
「なるほど。今のはお菊のお皿という怪談だったんですが、落語に落とし込まれたようです」
「へぇー」
「ほーん…怖い話でも面白くできるのすごいじゃんねー」
イオリは目の前のロウソクの火を吹き消した。
火が消えた目の端に
「?」
「ふふ」
「どうしたの?イオリ?」
「………いえ。なんでもありません。それより、次は六花ちゃん」
「はーい!頑張るよー!怖いのは苦手だけど!」
リッカはコホン、っと小さく咳払いをして背中を伸ばす。
「ある人の話なんだけど、その人は山で遭難しちゃって、お腹がすいて歩いていました。歩いていると、美味しそうなかおりがして釣られて大きなお屋敷の中にはいったの。立派な屋敷に何故かご飯が豪華なご飯がありました。誰もいない家の中に向かって「あのー!」「あのー!」って声をかけてたの。でも声は帰って来なくて、迷いながらもお腹がすいて置いてあるご飯を食べたの。とっても美味しくておなかいっぱいになるまで食べたんだけど…それでも人は、来なくて、その人は申し訳なくて庭の掃除をして、屋敷を出ていったの。すぐに家に帰れたの。後日に川で洗い物をしてたらお椀が流れてきて、そのおわんを拾った日からその人はご飯を食べるのに困らなくなったんだって!」
「「おー!」」
私はパチパチ拍手する。
「怖くなーい!」
「えへへー。まぁ、ふしぎばなしもいいよね!江戸の話って意外と不思議な話が多いんだよ!………今のは江戸の話じゃないけど」
「そうなの?」
「そうなんだ。どこのじゃんね?」
「遠野物語だな」
センセーは横から教えてくれた。
「みじかいね?」
「いや、いくつかの話の一つだ。不思議な話が多いな」
「なるほどー!」
「へぇー」
「じゃあ、次は伊織兄ちゃん!」
リッカはロウソクの火を吹き消して、話を回す。
「たのしみー!」
「そうだな…」
と、センセーは顎を触って楽しそうに悩んでいる素振りをしている。
「昔はどうかは知らないが、江戸にこんな話がある。かぐや姫ほど美しいと言われている娘がいた。その娘は一度猿の神に連れ去られて戻ってきたが、十年後に鬼に連れ去られたらしい。突然いなくなって、猿神の時とは違って、血まみれの着物だけが落ちていたらしい。鬼に食われたってことだ。………その娘が居なくなったのは賑わっていた祭りの中で突然居なくなったらしい。ほんの一瞬、手を離してしまった。だから、祭りの雑踏の中でば迷子になっては行けない。…………わかったか?」
その場にいた四人は全力で首を縦に振った。
「よし。じゃあ、三日後の祭りは迷子にならないように。わかったか?」
「「「「はーい」」」」
「よし」
リロクは溜息をつきながら言う。
「もしかして、その為の話?」
「ああ。俺の作り話だ」
そう言って、センセーはロウソクの火を吹き消し、隣のロウソクから火を貰う。センセーのロウソクだけ付けておくつもりらしい。
「なるほど……じゃあ、次」
「はーい!やっと私だね!」
私の隣に座っている、女の子がロウソクの前に座って話し始める。
「わー!緊張しちゃいう!久しぶりに人と話すんだよねー!深呼吸!」
女の子は大きく息を吸って、吐く。
「これ、私の体験した話なんだけどね?私、この近くに住んでるけど…この寺子屋の裏側に小さな小道が近道で遅くなったりすると、よく通るんです。ある日、遅くなってしまって、いつも通り小道を通ったんですよ。そしたら、真っ黒な着物を着た男が現れて怖くて逃げたんです。暗い夜道の中、提灯も落として必死に走ったんです。でも、あの男、夜目が効くのか私に向かってまっすぐ走ってきてそのまま斬ったんです。私の事。痛くて辛くて苦しくて、暗くて怖くて泣いて。でも、あの男は私を切るのを辞めなかった」
明るい女の子の声からだんだん若い女性の声になって、最後は苦しそうな、何かに押し潰されてしゃがれたような声になった。
「あの男を許さない。憎い。なんで私が。痛い。憎い。憎い。殺してやる。殺してやる。呪ってやる」
ぽたぽたと水が彼女から滴り落ち、鼻を生臭い鉄の匂いが鼻をつく。それと一緒に何やら冷たい風が寺子屋の中に立ちこめた。
「……そう思って、息絶えたんです。だから私は、あと男があの道を通るのを願って待ち続けたんです。待って、待って、待ち続けたんです。…………ふふ!結局、来ませんでしたけど!」
しゃがれた女性の声が嘘のように、女の子の声に戻った。
「ふふ、でも、その黒い着物の男性、もう、お奉行様に捕まったらしいですよ。
女の子は目の前のロウソクを抑えて、大きく息を吸って勢いよくフッと吹く。
「「「「「…」」」」」
少し沈黙が続いて、目の前のロウソクに火がともされる。
センセーが角にある行灯に火を入れ、部屋全体が明るくなった。
「ぷあ!」と、息を吸ったのはリッカだった。
「怖かった〜!最後にいきなり生々しいよ!」
イオリが嬉しそうに頬を緩ませて
「ふへへっ、私は今の話好きです。生々しいので…」
リロクが少し冷や汗をかいて前のめりにしていた体を少し逸らして後ろに手をつく。
「でもよ〜語り以外を使うのは、ズルだぜ?」
センセーが頷く。
「そうだな。だが、この怪談大会自体俺とバカ女は今日知ったことだ。少しぐらい許してやれ」
「ん?」
私は思わず首を傾げてしまった。
「それもそっか〜。にしても、よくこんな短時間でそんな話持ってきたよな〜誰かから聞いたのか?声かえられるなんてすげぇな〜」
「ん??」
私はもっと首を傾げる。
「ねぇ、私、今……話してないよ?」
「「「「えっ」」」」
「いや、私も今の話初めて知ったし…」
イオリが袖で口を隠して私に聞く。
「先程の、冷気と水音と血のような臭いはまほう?では無いのですか?」
「いやいや、私、魔法お菓子出すしか出来ないから!」
「おいバカ女、今のはお前番だったろ?」
「そ、そうなの?次って言って話し始めたから、私の前にいるのかなって……」
イオリが「ふふっ」と不気味に笑う。
「百物語では、百個目の怪談でなにか怖いことが起こるって話です。私達は五個でしたけど……ぐふふふっ!彼女は体験した話と言いました。じゃあ…最初からここにいたのだと思いますよ?他ならぬ、六人目が。ずーっと」
イオリの一言で私は思い出した。
一人、会話が全く噛み合っていない声があった事。
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