【パート4】聞こえたから。

かなめ 浩介こうすけはゆっくりと近づくと、制服警官に小さく声をかけた。


「悪い、ちょっとだけ借りるわ。」


「え?あ、はい──誰?」


警官達が戸惑う間に、要は早音女さおとめ 颯汰はやたの肩を軽く叩く。


「──ちょっとこっち来な。」


ポケットに手を突っ込んだまま、気だるそうな足取りで颯汰を促す。


颯汰は一瞬警戒するが、すぐに小さく頷いた。


2人は署の一角、使われなくなった掲示板の前に置かれた、古いベンチへ向かった。相変わらずヘッドホンを着けたままの颯汰にベンチに腰掛けるように促すと、カチャリと壁に立てかけてあったパイプ椅子を開いて、要が腰を下ろす。


「よし、もっかい言ってみな。さっきの話。」


颯汰は緊張しながらも、一生懸命言葉を選びながら話し始めた。


「あの……リサイクルショップ……『リストリート新宿2号店』で……今度はブランド品だけにしようって……今日の夜に……。」


ところどころ単語が飛びながらも、必死で伝えようとする。


(──なんだ、それ。普通に捜査情報じゃねぇか。なんであいつらは追い返そうとしたんだ?)


要は身じろぎひとつせず、それをじっと聞いていた。

視線だけが鋭く、動かない。


「──で、なんでそれを知ってる?」


颯汰は、言葉に詰まった。


迷った末、ぽつりと漏らす。


「……聞こえたから。」


「聞こえた?」


「……うん。外から、ビルの中の声が。」


要の目が、わずかに細まった。


「ふーん、聞こえたって、何階よ? 窓でも開いてたのか?」


「いや、閉まってたと思う……6階だった……です。」


(6階──?)


常識で考えれば、ありえない。


普通なら、嘘だと一笑に付す話だ。

受付の当直員とうちょくいんが相手にしなかったのも、無理はない。


けれど──


要は、颯汰の瞳をじっと見た。


要の目を真っ直ぐに見つめ返す、必死な眼差しを。


「……へえ。」


要は、ニヤリと笑った。


「──おもしろいねぇ。」

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