第3章-第12社 祓式操作
軽動術テストから2日後。今日から
流石にクラス全員分をこの5限内で見きることは難しいので、クラスを二手に分け、もう一方のグループは真剣・実弾稽古の方に入っている。
厳正なるじゃんけんの結果、剣術組から秋葉、薫、樹、熾蓮の4名、暗器組から詞貴と悠の2名、薙刀から白澪の合計7人が5限目に祓式操作をある程度習得することになった。
「祓式調整ルームには、主に2種類の部屋があってな。1つは祓式調整室、もう1つは実際に
待機室で織部が説明する中、みんな調整ルームに興味津々のようで、じっと部屋の中がどうなっているのか見ている。
織部の話によると、調整室には環境設定パネルが設定されており、そこで非戦闘型の祟魔を呼び出したり、祓式の命中度を図る的を出現させるができるらしい。
あらかた説明を終えたところで、薫が手を挙げた。
「先生、順番はどうするんです?」
「たまにはじゃんけんで決めよか。勝ったもんから順番に入ってく感じで」
織部は少し唸ってから発する。いつも1番初めにやらされている詞貴はホッとしたように息を吐いていた。
というわけで、またしてもじゃんけんが繰り広げられ、詞貴、薫、樹、熾蓮、悠、白澪、秋葉の順番で行うことに決定。運が良いのか悪いのかじゃんけんとなっても、一番に躍り出た詞貴が調整室へと入っていった。
「秋葉って、ほんま昔っからじゃんけん弱いよな」
「ホント、何でなんだろうね……」
隣にいた熾蓮が呟き、秋葉は苦笑交じりに同意する。
秋葉は生まれてこの方一度もじゃんけんに勝ったことが無いというじゃんけん特化型の不運持ち。どうしてなのかは本人も分からないのだが、そういう運命だと秋葉自身は半ば受け入れている。
と、調整室から詞貴が出てきて、薫の番となった。言霊を操って的に命中させ、精度を上げていた詞貴とは違い、薫の祓式は帯電操作。
どうやって調整していくのだろうと眺めていたら、1番等級の低い
直後、飛ばされた斬撃が祟魔に当たり、祟魔は黒い靄となって消滅。一方の斬撃は部屋の壁に衝突し、壁が一部破損した。
しまったと言わんばかりにぎょっとした表情の薫が納刀すると同時に、織部が調整室へのアナウンス用マイクのスイッチを入れる。
「今の状態やと、帯電の威力が強すぎて身体や物にも影響が出る。如何にモノへ負担をかけずに祟魔へダメージを与えられるかが課題やな」
「そ、そうですね。後、壁壊してすいませんでした……」
薫が頭を下げると、織部はすぐに直るから大丈夫だと言った。その直後、織部が制御パネルにあったボタンを押すと、壁が元通りになる。
瞬時に修復された壁を見て驚く一同。と、薫と入れ替わりで樹が調整室へと入る。彼が所定の位置に着いたところでまたしても1体の
樹はその場で素早く印を組む。次の瞬間、祟魔の周りに結界が発生。樹がパンッと拍手をしたと同時に結界の中が祓力に満たされ、消滅していった。
「結界貼ることに関しては比較的慣れとるようやけど、祟魔を祓うなったときに必ずしも相手がその場にとどまるとは限らへん。試験までに動いてる相手にも対応できるようにしとくことや」
「了解です」
織部からそう言われ、頷いた樹が部屋から出れば、熾蓮が入室。先ほどと同じ拙級祟魔が出現し、熾蓮は両手から祟魔を囲うように炎を放射。放たれた炎はあっという間に祟魔を焼き払い、祟魔が消えると同時に消滅した。
「基礎的な炎のコントロールはできとるな。この調子でもっと火力と技術上げてこか」
「分かりました」
織部に返事をした熾蓮が調整室から出る。流石は熾蓮。祓式の扱いに手慣れているようで、特に織部からの指摘もなく終わった。すると、入れ替わりで白澪が中に入る。
位置に着けば、拙級祟魔が出現。熾蓮の時と同じように手のひらから刃状の水を出現させると、祟魔に向かって放つ。見事に直撃するも、水が祟魔に当たったと同時に消えてしまった。織部が制御パネルで祟魔を消滅させた後、中にいる白澪に向かってアナウンスを入れる。
「治癒方面での運用は上手いこといっとるやけど、戦闘面での水操作にはまだ慣れてへんみたいやし、そこら辺を今後どうしていくかちゃんと考えてといてな」
「はい、ありがとうございました」
織部へお礼を言い終えた白澪が出てくると、悠が扉を開けて入った。直後、調整室に3体の拙級祟魔が発生。
悠は一番左端の祟魔に向かって、ツルを放って拘束。床に手をつき真ん中の祟魔に向けて茨で突き上げ、右端の祟魔に向かってカッターのように鋭くなった葉っぱを放って命中させる。
だが、どれも撃退するまでには至らずに終わった。
「拘束もできれば、貫いたり、カッターで切り裂いたり結構汎用性は高い。どの場面でどう使うんかしっかり見極めんと、いずれ事故が起こる。コントロール面もそうやけど、状況に応じてすぐ手法を選べるようにしとくように」
「はーい!」
織部の助言を受けた悠が出てきたところで、秋葉は調整室の扉を開けて中へと入る。拙級祟魔1体を召喚してもらうよう織部に頼み、『紅桜』へ憑依。秋葉の姿が白のカッターシャツに紺袴、紺羽織と言った制服から、紅い着物に紺袴、草履へと変貌する。
一度深呼吸を挟んでから焦点を祟魔に合わせ、右手を前へと向ける。無数の桜の花弁をイメージすると同時に、脳裏で描いた通りの花弁が出現。祟魔に向かって、一気に花弁を放つ。
だが、少しして花弁が止んでも、目の前の祟魔はピンピンしていた。
(まぁ、そう簡単にはいかないか……)
溜息を吐いていると、織部からアナウンスが入る。
『祓式分かったんが最近やし、しゃーない面もあるんやろうけど、見た感じ憑依にはかなりの祓力量がいる。元々祓力量が多い言うても、何もしてへん状態で1時間しか持たへんのはまずい。祓力量がさらに増えれば、憑依の時間も伸ばせるやろうし、時間ある時は常に憑依しとくこと。加えて、憑依のインターバルは短い方がええし、桜の花弁と紅葉操作もできなあかんから、練習しとくように』
「は、はい……」
祓力量は祓力を使用するごとに保有量が増幅する。『憑依』した状態を保つことで、増えるのならばやらない手はないだろう。織部の言葉に首を縦へと振った秋葉は調整室を出て、みんなと合流する。
「あれ? 熾蓮と薫は?」
2人の姿が見えないので尋ねると、詞貴が反応する。
「それなら、次の授業の件で話があるって織部先生に呼ばれてたよ」
「なるほどね」
何の話だろ……。織部先生のことだからまた厄介ごと押し付けてそうだな……。
そう考えていると、白澪がふと口を開いた。
「祓式操作って改めてやってみると難しいわね……」
「自分では比較的できてるかもって思ってても、プロの目から見たら全然なんだもんね」
白澪の呟きに悠が応える。
確かに案外扱えてそうだな~、凄いなと思っていても、みんな何かしらの改善点を織部から挙げられていたので、まだまだなのだと実感させられる。
秋葉自身も思い当たる節が多すぎて、ため息交じりに口を開く。
「はー、やること多すぎてマジでパンクしそう……」
「秋葉の場合は特にだよな。ご苦労さん」
隣を歩いていた樹へ労られ、困ったように笑う秋葉。
憑依の祓式は扱いこなすことさえできれば、間違いなく秋葉にとって力になるのだが、扱うためにも祓力量は常時増やさなければならないし、『紅桜』のスキルだって習得しなければならない。
ただでさえ、普段の座学授業や武術稽古だけでも手一杯だというのに、更に祓式操作まで加わってくるとなると、頭の中がいっぱいにもなるというものだ。
こなさなければいけないノルマが増え、項垂れているとチャイムが鳴った。
「次の授業の準備もあるし、移動しようか」
「そうだね」
詞貴の言葉に頷いた秋葉はみんなと一緒に祓式調整ルームを後にするのだった。
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