第10話 翼の悩み

 巷では、ASD(自閉スペクトラム症)や、場面緘黙症などと呼ばれている。

広田翼は、そういった特性を抱えているのかも知れない。

学校のクラスでは、少し浮いた存在であった。

元々、人前に出ることが苦手で、周囲の目が気になるタイプ。

それ故、友達も少なかったが、先生や親から、それを指摘されたこともなく、その特性のまま、社会人になった。

今働いているナイス設備(株)でも、2人で働く時、よく黙り込んでしまう。

今の職場では、声を掛けてくれる人も多く、孤立することはない。

だから、まだ続けることはできている。

しかし、本人もそれは気にはしていた。

その日も、所長と翼の2人で日勤をこなし、夜勤(昼から出勤し、次の日の朝まで。真猿は飯を管理室で食べるが、人によっては家などで食べてくる)で現れた真猿に、「一緒にご飯食べますか?」と声を掛けられなかった。


真猿「ん?どした」


翼「…」


 翼は、真猿がロッカーで備蓄していたカップラーメンを物色している背後で、数秒、硬直していた。

真猿が振り返ると、翼は思わず、顔を背けた。


翼「はぁ…」


 また、自分から何も話せなかった。

結局、外のコンビニにやって来て、適当なパンとおにぎりを購入し、いつもの公園で一人、メシにありつく。

雨が降った為か、ベンチが少し濡れている。


翼「…何だよ」


 湿ったベンチに座る気になれず、仕方なく、スタジオツアーの管理室に戻る。

今日は自分の机で食べるしかなさそうだ。

早足で戻る。

休憩時間は、あと45分。

戻って飯を食べて、残る時間はギリギリ10分くらいだろう。

目をつぶって仮眠を取りたかった翼は、小走りした。

 休憩が終わり、午後の作業。

といっても、基本的には待機。

点検は夜に行う。

今日は真猿と点検作業の予定。

やや分かりにくい勤務体系だが、遅日勤(昼から次の昼まで、夕方仮眠し、夜点検)→休み→夜勤(昼から翌日明け)→休み→遅日勤…というのが基本的なサイクルで、所長だけ例外的に、日勤を続け、休み、というサイクルである。

遅日勤は昼間の待機時間がとにかく長いため、何もトラブルが無ければ、資格勉強が推奨されている。

夜になり、スタジオツアーが閉園すると、翼、真猿らが点検の準備を始める。

倉庫で受変電設備点検の準備をしていると、真猿が声をかけてきた。


真猿「お前さ、何か悩みとか、あんの?」


翼「悩みですか?…僕は悩みしかないですよ」


真猿「だよなぁ、俺もさ、そうなんだよ。ぶっちゃけさ、今の仕事、何でやってんだろ、とかさ。根本的な悩みっつーか」


翼「…転職、するんですか?」

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