第6話
決意を固めた翌日も仕事だった。
夏の日差しも落ち着いてきたその日、三村はトラックをコンビニに停めて、休憩していた。
ソースがたっぷり染み込んだ焼きそばパンを袋から半分出し、がぶり、とかじる。
車内のハンドルに「週末子供とお出かけ」という雑誌が置かれ、右手でページをめくっていく。
三村(へぇ、職業体験施設か)
それはキッゾ・シティと呼ばれる3才から15才くらいまでを対象にした子供向け職業体験のテーマパークであった。
トラックドライバーを辞めようと考えていた三村は、自分も興味あるな、と考えた。
実際、今やっているトラックドライバー以外は他の仕事を良く知らない。
家に帰り、早速カナとタイムに聞いてみた。
カナ「キッゾシティかぁ。面白そうだけど、タイム行きたい?」
タイム「ねぇねぇ、消防士はあるの?」
三村は雑誌をめくって、あるぞ、と答えると、嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねる。
タイム「それ、僕行きたい!火を消しまーす、ジャー」
既にやる気満々の息子に、三村も乗り気になる。
そうと決まると、次の週末、三村家族は電車でキッゾシティのある豊洲までやって来た。
駅を降り、スマホのマップをを頼りに巨大なショッピングモールへの中へと入る。
三村「この3階にあるっぽいな」
エスカレーターで3階へとやって来ると、複数の家族がどこかへと向かっており、どうやらこの先にキッゾシティがあるようだ。
スマホから電子チケットを準備し、空港のゲートのようになっている受付に、それを見せる。
受付は、簡単な説明をして、タイムに職業カードなるものを渡す。
受付「こちらが予約カードになるので、無くさないよう、お願いします」
三村「っし、行くか!」
何をどう予約するのか、システムは謎だが、中が気になりそそくさと入場。
カナ「わあ、すごーい」
タイム「消防士、どこかな」
場内は薄暗く、夜を再現しているようだが、ワクワクする音楽、キラキラした看板など、外の世界とは切り離された子供だけの世界が広がっていた。
ごちゃごちゃしてて分かりにくいが、どうにか消防士のパビリオンまでたどり着くと、消防士の格好のお兄さんに声をかける。
三村「あの、消防士、やりたいんですが…」
お兄さん「すいません、今、消防士は改修工事をしておりまして、代わりに消火器の点検をしております」
三村「消火器の点検?」
カナ「あちゃー、タイミング悪いなぁ」
三村は、めちゃくちゃ地味な仕事になっちまったな、と思ったが、一応、タイムに聞いてみる。
タイム「やってみたい!」
しかし、リアクションは思いの外、軽快だった。
予約を入れて時間になったら子供らだけで施設内で説明が開始された。
施設の外で三村が愚痴る。
三村「消防士が良かったな〜、消火器の点検じゃあなぁ…」
カナ「とりあえず、終わったら第二希望の警察官、行ってみよ」
三村とカナがそんな話をしている中、消火器の点検方法の説明が終わったらしい。
制服に着替えた3人の子供たちがお兄さんに連れられ、キッゾシティ内の消火器の点検を始めた。
点検が終わり、タイムにどうだったか聞いてみる。
三村「消火器の点検、どうだった?」
つまらない、と言われても仕方ないな、と思ったが、答えは予想を裏切った。
タイム「楽しかったよ!こんな仕事あるんだね。お兄さんも、大事な仕事だって言ってたよ」
カナ「へぇ〜、良かったじゃん!」
この後、警察官、アイスクリーム屋を周り、休憩中に何が楽しかったかを聞いてみる。
すると、意外にも最初にやった消火器の点検が一番良かったと言う。
カナ「子供って、わっかんないなぁ」
笑いながらハンバーガーを頬張る。
タイム「日々の安全を守るのは大事だよ!カッコいい!」
目をキラキラさせて、こうやんだよ、と説明するタイム。
三村は、そうか、と腑に落ちた。
トラックが学校に突っ込んだ事件。
あれから、普段の安全ってのがどんなに大事なもんか、子供は子供なりに考えていたのかも知れない。
三村は、次のパビリオンをどうするか考える2人を尻目に席を外し、さっきの消防士パビリオンまでやってきた。
キョロキョロ周りを見渡し、お兄さんを見つけると声をかけた。
三村「あ、あのぉ…」
お兄さん「はい、どうされました?」
三村「消火器の点検っつーのは、そういう職業があるんですか?」
お兄さん「はい、消火器というか、建物全体の点検ですね。今回は消火器ですけど」
三村「職種でいうと、何ていう…」
お兄さん「えーと、設備管理とか、ビル管理って言ったりしますね」
三村は会釈して、今の言葉を頭の中で反芻した。
三村(ビル管理か… 俺でも、今から目指せるのか?)
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