第5話 翼の奇妙な行動

 キャストの仕事から戻り、数日が経過した。その日の泊まり明け、マリアは所長に詰め寄っていた。


マリア「翼が最近、おかしいんです」


所長「翼が?」


 マリアが言うには、夜中の定期作業後、点検表を一緒に作成し、仮眠時間の深夜1時から6時の間にCRT、つまり、中央監視装置と呼ばれる照明や空調の遠隔操作や異常信号を受け取るパソコンから「状態不一致」の警報が鳴ったとのことだ。

そして、マリアがその警報音で目が覚め、管理室に戻ると翼がいなかったらしい。


マリア「翼が監視してるハズなんです。なのに、誰もいなくて…」


所長「その後は?」


マリア「仕方ないから、警報を止めました。状態不一致は禁断の森エリアのエアハンからで、現場で何かあったから、翼が作業して出たのかなって。で、しばらく待ってたら案の定、翼が帰ってきて… でも、何してたか教えてくれないんです」


所長「うーん… 何もいわないのは妙だな。空調トラブルでエアハンを見て、スイッチを切った結果、状態不一致が出たなら意味は分かるが」


 空調の状態不一致は、パソコンと現地の操作が一致しないと鳴る。

つまり、スケジュール運転中なのに、現地でスナップスイッチを切るなり、突然制御を切ることで鳴る。


マリア「警報履歴に電源の異常とか、フィルターの目詰まり警報みたいなのは出て無くて。だから、尚更分からないんです」


所長「…勝手に設備をいじくり回すのは問題だな。他の泊まりの日にも同じことがあるか、三村や真猿にも聞いてみよう」


 所長から、翼の様子を伺うよう、他の2人にも通達が行く。

それからまた数日後、今度は三村と翼の泊まり勤務の時だった。

この日は三村が泊まりで、2人で受水槽点検と加圧ポンプ点検を終わらせ、点検表を作成。


三村「っし、終わり!んじゃ後よろしくな」


翼「…はい」


 三村は管理室の隣のシャワー室でシャワーを浴び、新しい作業服に着替えた。

仮眠室は畳で、置いてある布団を敷くと、シーツをかぶせて寝床に入った。


三村(頼むから、警報鳴らないでくれよ〜)


 伸びをして、そのまま眠りに入る。

1時間が経過した頃だった。

ビー、ビー、と音が鳴る。


三村「…ン、何だ?」


 警報音。

三村は体を起こし、寝ぼけ眼で管理室のCRTを確認する。

空調の状態不一致である。


三村(これ、マリアが言ってたやつか?)


 不一致の場所は禁断の森。

他の警報履歴を確認していく。

すると、警報から5分後くらい間を開けて、今度は電話がなる。

騒がしいな、と、三村が受話器を取る。


三村「…はい、管理室」


警備山田「あ、あの、警備山田です。夜分にすいません」


三村(ビビり山田か)


警備山田「あ、あ、あの… 禁断の森の方から、おお〜ん、おお〜ん、みたいなが… お化けの声がするんです」


三村「お化け?」


 翼がいないことに疑問を持ちつつ、三村は仕方なく、ライトと鍵を片手に現場へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る