Day 51 メカニガラの魔法使い


 

 

 人通りの少ない道を選んで移動するせいでまっすぐ行けそうな道も大回り。

人が居ないと思った場所では人と遭遇したりのアクシデントが続いている。

 

「全然進めませんね」

 

「私が全力で魔法を使えば周囲一帯を吹き飛ばすぐらいはできるんだけど、それ以降魔法が使えなくなるから……ごめんね」

 

ダルクさんは傷口を治したり、燃やしたり雷で貫いたり煙幕を焚いたり……とにかく魔法で何でもできた。

 

「何故ダルクさんがここで捕まってたんですか? ダルクさん程の実力者が捕まるとは思えないのですけど」

 

「頭に不意打ちくらってね~、頭痛が酷くて魔法がうまく使えなかったのよ。あ、私の事はダルクでいいからね! 私も君を……そういえば名前は何だっけ?」

 

「名前は解除されてないんですよ、なので好きに呼んで下さい」

 

不意打ちを食らった。

おそらくだが身分証が白のせいだろう。

格差が酷いと聞いていたが、白色い身分証の人間を狩りの対象ぐらいにしか思っていないのか?

 

「えっとね、じゃあむーちゃん!」

 

「……ちなみになんですが、何処からその名前が出てきたんです?」

 

「え? 私の頭の中だけど?」

 

そういう事聞きたかった訳では無いんだが……。

 

「それよりむーちゃんはさ、機械人形のメイドと旅してる訳だけど機械人形の事好きだったりする?」

 

「好き……かどうかはわかりませんが、ナナシムは俺が子供の頃からずっと側にいてくれて、育ててくれました。機械人形に支配されているこの世の中では変かもしれませんが、嫌いじゃないんです」

 

「変じゃないよ、私だって機械人形は嫌いじゃないからね。でも名前付きだけはぶっ壊す」

 

名前付きって確かヴィクトリアさんが言ってた特別な個体だっけか、何か恨みでもあるのだろうか。

 

 そんな雑談をしていられる場所だと思ったが、一人に見つかり、ソイツが近寄ってきた。

 

「捕えて近道を聞こう」

 

ダルクの提案に乗り、機人を捕えた。

何も話す事は無いと豪語していたが、機械化した部分を少しづつ破壊していくとあっさり口を割った。

彼らは機械部分を破壊され、人間の部分だけが残る事を酷く恐れているようだった。

 

「えいっ。細かい場所は分かったから連続テレポートで距離を詰めて行こっか」

 

「テレポートって……使えるんですか?」

 

「えっへん、美人で博識なお姉さんに不可能はありません! ただ数十回飛んだら今日は丸一日魔法が使えなくなるから……その時は守ってね」

 

「もちろんです、絶対に守ります!」

 


 ダルクの連続テレポートによって、裏道、人通りのない場所を経由して次々と城に近づいて行く。


「城まで飛べないのですか?」

 

「多分飛べるけど城のどこに行くかはわかんないよ? 飛んだ先が壁で、出現した瞬間体が切断されるリスクあるし、まだかなり遠いから狙いが定まらなくて、城の上空とかに飛ぶかもしれない。空中で集中とか絶対無理だからその時点で人生終わり。まぁ今はゆっくり進みましょ」

 

約二十回飛んでかなり近づいた。

ダルクは肩で息をしていて、かなり辛そうだ。

 

「休んで下さい。ここなら半日ぐらいは俺一人で大丈夫ですから」

 

「ありがと……意識飛ぶけど、ヤバかったら起こして……」

 

大きな壁の近く、おそらく建設途中の土地に置かれた資材の山の中、ダルクは眠った。

少しでも寝やすいようにと自分の上着を丸めて枕替わりにし、戦闘でボロボロになった服を脱いでムユリから貰った服に着替える。

 

「軽いし……濡れないし汚れない。凄いな、ムユリ」

 

紫色の軍服は俺にピッタリで、傷がついても勝手に修復されるとんでもない服だった。

普段はナナシムに洗濯して貰っていたが、これならその手間も無くなりそうだ。

 

「しかしナナシムの奴、洗濯機を頑なに使わなかったよなぁ、敵視している……いやむしろ殺気を放ってたっけ」

 

『洗濯は手洗いに限りますね、あんなボールに入れて洗濯なんてしたら終わりですよ終わり終わり』

 

思い出すだけでも笑ってしまう。

 

「まってろよ、ナナシム」

 

城までの道のりはまだ遠い。

 

 

 六時間ぐらいしてダルクが目覚めた。

彼女が眠っている間、特に危ない事は無く、敵にも見つからなかったのは幸いだっただろう。

 

「服……枕にしてくれたんだ、優しー!」

 

「テレポート使えるのはダルクさんだけですから、休んで貰いたかったんです」

 

「ところで……その服、確認だけど盗んだ物だったりする?」

 

殺気。

初めてダルクに会った時、あの瞬間にそっくりな殺気だ。

 

『本の中身を見た?』

 

盗んでなんかいない。

だが、少しでも誤解を与えれば俺は……おそらく人の形ではいられないだろう。

 

「実は……」

 

彼女には包み隠さず全てを話した。

革命都市でムユリに出会った事、ナナシムとムユリが知り合いだったらしい事、そして。

 

「それでその……ムユリが欲しいって言えば情報が全て手に入ると思って、ムユリが欲しいって宣言したら花嫁修業だとか言って、俺に渡すようにナナシムに言って服を持たせたんです」

 

「ムユリちゃんが? こんな冴えない……あっ」

 

別に気にしてないからいいけど、心の中で言って欲しかった。

冴えないか……冴えない……ね。

 

「ごめんごめん! でもムユリちゃんはむーちゃんのプロポーズを受けたんでしょ? でも信じられない……あの子があの人達以外に懐くなんて……」

 

「ダルクは何でこの服を見ただけでムユリの作った物だと?」

 

「作った!? あの子作れるようになったの!?」

 

そんなギラギラした目で見ないでほしい。

殺気は無くなったが、別の圧が見えないけどかかっている気がする。

 

「ゴホン、その服はルールー家の服なのよ。機械人形でも難しい、今の人類では絶対合成不可能な素材が使われてるのがその証拠ね」

 

ダルクが炎を出して服を炙るが、熱くないし、燃えもしない。

 

「それはルールー家の当主が着る物なんだよね。だから私みたいに見る人が見ればむーちゃんはルールー家の代表みたいに見えるって訳」

 

「ルールー家ってそもそも何なんですか?」

 

ダルクは目を見開き、おそらく、いや絶対に驚いている。

 

「知らないでムユリちゃんを口説いたの? 知らなかったから口説かれた? でもあの子……」

 

「あの……」

 

「……悪いけどそのへんは自分で聞いて、仮にも自分の妻になる人の事でしょ? なら私からじゃなくて」

「結婚するつもりないですって!」

 

……空気が変わった。

ダルクが雷と炎を体にまとわせ、目は人殺しのそれだ。

 

「ムユリちゃんとは遊びな訳?」

 

「あ、遊びとかじゃなくて」

 

「私はあの子に好かれてなかったけど、あの子は私の妹みたいなもの。それを弄ぼうなんて」

 

「誤解です! 誤解なんです!」

 

「じゃあ、ムユリちゃんはむーちゃんにとって将来の何?」

 

「妻……です」

 

魔法の圧力が消え、ダルクの目に光が戻った。

さっきまでの圧力で足がまだ震えているし、体も強張ってうまく動かない。

 

「あの子は少し不器用だけど、幸せにしてあげてね」

 

ニコニコと笑うダルク。

返す笑顔もうまく作れない俺。

 

「あの子泣かせたら、許さないから」

 

笑いながら脅すのは辞めて欲しいし、彼女を怒らせないようにしようと固く心に誓った瞬間だった。

 


 

 目的地の城まであと少しの所までやってきた。

途中何度か見つかったり、俺が睡眠不足で倒れたりするアクシデントがあったりしたが、無事にここまで来れた結果が全てだ。

 

「あと少しだね」

 

「俺もテレポートが使えればよかったのですが」

 

「いいよいいよ気にしないで、それより次飛んだら城に入る、すぐに戦闘になるかもしれないから休んでおきましょ」

 

手持ちの食料は残りわずかで、二人で一つのパンを分け合い、水も均等に分けた。


 本来ならこの街でナナシムが全てを調達するはずだった。

だが彼女が居ない今、俺とダルクに、白色の身分証の人間に売る物は無いらしくどこに行っても追い返されるか襲われるかのどちらかだった。

 

「そう言えば、何でメカニガラに居たんです? 油断して牢にいたのは聞きましたけど、そもそも何でですか?」

 

「あー、何でだろうね!」

 

ダルクはそう言って笑うだけで、何故ここに来たのかと言う質問には一切答えてくれなかった。

 

「少し寝る?」

 

「膝貸してもらえるんですか?」

 

「早速浮気?」

 

ヴィクトリアさんみたいな事言うなぁ。

 

「せっかくだしさ、眠くなるまでむーちゃんの話聞かせてよ」

 

俺の話か。

旅に出るまでは森の中の小屋でナナシムと二人で暮らしていたし、旅の途中でナナシムと喧嘩して一人で盗賊と戦って死にかけた事もあった。

だが特に面白い話ではない。

 

「そうだ」

 

「お、お姉さんわくわく」

 

いやダメだ。

ヴィクトリアさんの話なんてしよう物なら、わた浮気がどうとか言われて話が面倒な方向に持っていかれる。


「こ、ここに来る前に戦争経験者に会ったんですけど、結構居るんですね」

 

「そんなに居ないはずだけど……どんな人だったの?」

 

「白と青の長い髪で、天草姫雪と名乗っていまし」

「関わらないほうがいいよ」

 

ダルクは残ったパンを水で流し込むと、真面目な顔をした。

 

「どういう事です?」

 

「姫ちゃんは機械人形を恨んでるの、これは話していいかな」

 

ダルクは"どうせもう関わらないから子守唄替わりに聞いてね"

と言って天草さんについて話し始めた。

 

「姫ちゃんは戦争時代、クローンじゃないのに戦闘に参加してたの。クローンだと都合が悪い作戦とか色々あって、姫ちゃんの先輩と二人でコンビを組んで動いてたらしいの」

 

俺も残りの水とパンを食べ、ダルクに言われた通りに横になる。

服のおかげなのか、硬い床のはずが硬さをあまり感じず、睡魔で頭がぼーっとしてきた。

 

「そんな中で二人は捕まった、そして実験に使われてしまったの。"箱実験"って呼ばれる物なんだけどね。二人は家具が全て揃って水も出る、でも食料が一切ない部屋に閉じ込められて」

 

「やることもないから二人は空腹を紛らわす為にお互いの体も求めあって、手持ちの非常食や睡眠薬を使って生きていたんだけど」

 

「食料が無くなってから、姫ちゃんは自分が妊娠している事に気付いたの」

 

「先輩はお腹の赤ちゃんの為だっていって、自分の腕を……」

 

「それでも足りな……、結局姫ちゃんは先輩……べたの」

 

「更に……に……子供を取られ……」

 

もっと話を聞いていたいのに、仮眠を数時間取っただけのせいで頭が回らず、まぶたが重い。

 

「可哀想だけど復讐するなら勝手にやって、巻き込まないでほしいよ」

 


 

 

 機械で作られた神の城。

ガラガラカチカチと音を立てて回る歯車と吹き出す黒煙が特徴的なそれが目の前にある。

ここまで来るのに二日弱、テレポートを使わなければ一週間はかかっていただろう。

 

「さてと、行こっか」

 

ダルクが中にテレポートするのだと思い、彼女の肩に捕まるが、違うと言われてしまった。

 

「中の構造が分からないから飛べないよ」

 

「じゃあ……」

 

「ほらほら、お迎え来てるし正面からでいいんじゃないの?」

 

城の入口、巨大な歯車が重なる門の前には俺を襲った三人の姿があった。

そしてその後ろには、ナナシムの姿もある。

  

「ナナ」「私の息子を返せッ!」

 

三人が俺の側に駆け寄り、伏せるように言う。

 

「神の付き人よ、俺達の事は信じられないかもしれない、だが今だけは信じて欲しい」

 

「神と約束したの。貴方を守るって」

 

「だからそこでじっとしてな!」

 

何を言っているんだと困惑していると、目の前でナナシムがダルクに襲いかかっている。


ナナシムは武器を持っていない。

使わざるを得ない場合は俺の持っている刀を使うだけで、自分の物は無かったはずだ。

なのに、何だあの刀は、見た事が無い。

 

刀身に凹みと金色の鮮やかな装飾があり、白い鞘にも同じ装飾がされてある。

 

「誤解だっての!」

 

ナナシムが魔法でできた壁を切り裂き、ダルクの腕に刀を振った。

 

「痛いってば!」

 

ガシャンと音を立て、青色の何かが崩れていく。

魔法で作られた鎧……だろうか、刀が直撃した場所から青色が分解していき、全身からそれが分離して消えて行った。

 

「嘘……」

 

「私の息子、私の可愛い息子は……私が、私が守らないといけないのに!」

 

ナナシムは正気じゃない。

とにかく止めないと、ダルクが殺されてしまう。

 

「ナナシム! 止めろ!」

 

「付き人よ、なりません!」

 

「邪魔すんな!」

 

俺を抑える腕を切り落とし、ダルクの元に走る。

 

「殺す、絶対に殺す」

 

「……ッ、誤解だって言ってるのになぁ」

 

「やめろ!」

 

ナナシムの前に立ち、ダルクを守る。


「……そこをどいて下さい」

 

「どかない。この人、ダルクは俺をここまで連れてきてくれた恩人だ。お前が殺す相手じゃない」

 

「……ダルク?」

 

ナナシムが目をパチパチすると、刀をしまって近寄ってきた。

そしてそのまま抱きしめられ、彼女はまるで人間のように泣いた。

 

「よかった……いきなり居なくなったから……よかった」

 

「いきなり居なくなったって、お前の後ろにいた所をそこの三人に襲われて牢に入れられてたんだよ。そこでダルクに会って、二人でここまで来たんだ」

 

「その三人とはどれですか?」

 

「そこにいる……あれ」

 

誰もいない。

それどころか機械の城も廃墟のようになっているし、街は……かろうじてあるが、さっきまでのような栄えぶりはどこにもない。

 

「その魔法解除の機械人形、まさか私の幻術まで破る訳?」

 

ダルクは確かにそこにいる。

ニコニコと笑っているがまったくもって明るい感じを放っていない。

それどころか敵意が放たれている。

 

「でも直接触れないと私の魔法は解除出来なかったみたい。むーちゃんをすぐに迎えに来なかったのはその子を探すレーダーを無効化出来ていたって証拠だろうし」

 

「ダルク……さん?」

 

「むーちゃんには手は出さないよ、ムユリちゃんの夫になる人ならなおさらね」

 

ダルクは金色の杖をどこからか取出し、地面に強く、高い音を立てるように突き刺した。

 

「ファスタロッテ様の命令を受けたの、SO7764の回収もしくは破壊。それと、むーちゃんの回収をね」

 

ファスタロッテ。

この星の、人類の王の名だ。

そんな人が何故俺を?

そもそも何故ナナシムを破壊しようとする?

 

「私はダルク、四魔人の一人のダルク・マート。ウィナ・クラーフスの仇にして賞金首のメイドさん」

 

「ちょっと命をわけて欲しいの」

 


 

 「ここまで幻覚をリアルにするなんて随分と魔法が上手なようですね、私の魔法解除が手こずるとは思いませんでしたよ」

 

ナナシムは俺の刀を構え、ダルクは杖を握っている。

ダルクはさっきナナシムの事をウィナの仇だと言った、多分だが、ウィンドフルの街の緑色の彼女の事だろう。

殺していないが、どうなったのかまでは知らないからもしかしたら死んだのかもしれない。

 

「むーちゃんはお姉さんとおいで。ムユリちゃんにも会わせるし、命の保証は私が絶対にするからさ」

 

「私の息子を一人で行かせる訳がないでしょう」

 

ナナシムが刀の先端を手のひらサイズに折って、それをダルクに投げつけるが、風の壁が上から下、下から上に吹き荒れており、刀は粉々に砕けてしまう。

 

「薄々はわかってた、でももう確信した」

 

ダルクが杖を振ると雷はナナシムに落ち、炎は燃え盛る。

しかしその全てが数秒でかき消された。

だが、完全な無傷じゃない。

ナナシムが傷を負っている。

初めて彼女が魔法で傷ついているのを見た。

 

「魔法が完全に効かない訳じゃない、貴女は魔法をすぐに無効化できるだけ。無効化に時間のかかる物ならダメージが通る!」

 

ナナシムが傷つく姿を見て、不安な気持ちが溢れてきた。

ナナシムが居なくなったら。

ナナシムが負けたら。

ナナシムが……死んだら。

 

「それが分かったから何ですか」

 

「そっちは接近戦のプロかもしれない、でも私は近づかずに攻撃して距離も取れる! 後はどっちが先に倒れるかって話!」

 

ナナシムが俺に当たりそうになった火球から守ってくれる。

その代わりに彼女の服が黒くコゲ、目に見えて傷が増えている。

 

「この子に手は出さないのではなかったのですか」

 

「出そうとしてもどうせ守るでしょ? だったら逆に狙えばそっちは躱せない、その刀で魔法は斬れないから防御なんて出来ない」

 

守らないと。

彼女を守らないと。

 

「大丈夫大丈夫、壊した後はきっちりこっちで面倒見るし、結婚もさせるから」

 

「……私、あんまり怒るのって得意じゃなくて。怒る前に呆れとかが来ちゃうタイプなの。でもね、私から息子を取ろうとするお前には怒りしか湧いてこないわ」

 

ダルクがどれだけ動けるのか分からない。

少なくともテレポートが使えるのだからかなりの範囲に逃げる事ができる。


「人の記憶を持っているだけの機械人形が母親みたいな……ッ!」

 

だったら、辺り一面全てを吹き飛ばせばいい。

 

『クロ君、ナナシムさんを守らなきゃ!』


脳内であの魅力的な笑顔が俺に語りかける。

そうですよね、守られてばかりじゃダメですよね。

あの銃を使うべきだ、今使わないでいつ使うんだ。

ヴィクトリアさん、力を貸して下さい。

 

「むーちゃん……それは……」

 

「ここまで連れてきてくれた事は感謝してる、でもナナシムを、俺の家族に手を出す奴には容赦しない」

 

ヒューマトロンのスコープを覗く。

ターゲット固定完了、残弾二。

そしてスイッチで貫通から拡散へモードを変更。

スコープの表示が青から黄色に変わり、無数の線が現れた。

この線の通りに広がってくれるのであれば、絶対に逃げ場は無い。

 

「ナナシム下がれ!」

 

 トリガーを引くと、凄まじい閃光が襲ってきた。

光が分散しながら進んで行く。

視界の端から端、全てが光で包まれる。

 

「危ないッ!」

 

ナナシムに押し倒された後、爆風と空を割るような凄まじい音がやってきた。

ナナシムのおかげで音や風は直撃しなかったが、光のせいで目が痛くて開けられない。

 


「ヒューマトロン……ッ、どこでそれを……」

 

目が見えないが、ダルクの声はする。

当たらなかったのか、それとも効いていないのか。

確認できない。

 

「助けてくれてありがと、でも後は私に任せなさい」

 

ナナシムがそう言った。

頭が回らない。

思考ができない。

頭の中の色が失われ、記憶の世界がモノクロに変わる。

 

「ヒューマトロンを防御で受けた気分はどう?  機械人形ですらそんな事しないけど……杖を失って分かりましたか?」

 

「……さぁ、どうかな」

 

「そう、それじゃ本気で相手したげる。杖を焼かれて足は片足潰れてる、そんな貴女をいたぶってあげる」

 

ナナシムが頭を撫でた。

優しい、いつもの手だ。

 

「いってきます」

 

「絶対帰ってこい」

 

「あらあら甘えん坊に逆戻りでちゅか? ちょっと勝ってくるだけですから」

 

「約束だぞ」

 

「約束です、帰ったらしっかりあやしてあげますからね」

 




 


 


 


 


 



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