Day 45 絆喰者 天草姫雪
洞窟の中は暗いと思っていたが、一定距離に灯りが埋め込まれていて進めない訳では無いぐらいに明るい。
「うわっ!」
「足元には気をつけて下さい」
だが外にいるような感覚で歩いていると、氷を纏った石を踏んでこけてしまうので、ケミカルライトを一本取出し、足元を照らして歩く事にした。
「中途半端に手入れがされてるけど、採掘道具とかもチラホラ落ちてる。ここのメタルはもう掘り尽くされてる可能性があるんじゃないか?」
「いえ、それは無いかと」
ゆっくりと進んで行くと、周囲の灯りとは違う、明らかにもっと進んだ文明力によって作られた壁がそこにあった。
不規則な模様が描かれた赤い壁。
そして。
「何よこれ! 全然動かないし傷もつかないじゃない!」
一人の女性がそこにいた。
白と青のグラデーション。
長い髪は綺麗な色をしていて、女性的な体つき。
ナナシムと比べると、残酷な程ナナシムは負けている。
「……あっ」
女性はこちらに気付いたようで、ニコッと笑った。
「こんにちは、貴方達もメタルを探しに来たの?」
さっきの声とは違う。
少し高めの声になった。
「はい、貴方達もと言う事は」
「そうなんですぅ! アタシも取りに来たのだけれど……こんな壁があるなんて知らなくて困ってたんですぅ」
ヴィクトリアさん程の魅力は感じない。
だが、心が熱くなるというか、言葉に出来ない何かが内から込み上げてくる。
「あ、アタシは天草姫雪っていいます!」
「私はナナシム、こちらは私の主人、クロ君です」
ナナシムと共に頭を下げると、天草と名乗る女性は少し動きを止めた。
何を見ている?
まさか攻撃される?
あり得ない話じゃない、盗賊の類の可能性は全然あるからな。
「本物のメイドさんとご主人様だ! 本当にいるとは思わなかったけど、え、やるの? お帰りなさいませご主人様とかやるの? ねぇ、ねぇ!」
「離れて下さい」
突進に近いスピードで天草が距離を詰めて来た。
思わず刀を抜きそうになったが、ナナシムに柄を抑えられ、彼女が前に出てくれたおかげで敵対的行動を見られずに済んだ。
「ごめんごめん! そっかそっか、もうメイドさんがいるなら媚売っても仕方ないから元に戻すかぁ」
「それで、どうしてメタルを?」
「お金が必要だから、それ以外ある?」
もっともだ。
こんな場所に来る理由なんてそれしかない。
「それよりもこの壁をどうにかしないとね。この先にあるのは聞いたんだけど、コレがどうしても開かないのよ」
「機械人形の許可は得ましたか?」
「アンドロイド……機械人形の許可が必要なんですか?」
「……ええ、私達は入れますが、天草さんはまず許可を取りに戻る所からスタートですね。では行きましょうか、クロ君」
アンドロイドと言われて気を悪くしたのか、天草を無視して壁の前に立つナナシム。
それを見て天草はナナシムの方……じゃなくて、俺の方にやってきて。
「私も連れて行って欲しいな」
そう言って、抱きついてきた。
柔らかな物が腕に当る。
性欲があれば喜んでいたのかもしれないが、今の俺は……何も感じない。
「お願い」
「まぁ……いいんじゃないか?」
「ハァ……」
ナナシムは嫌そうな顔をしていたが、助けてあげてもいいと思ったんだ。
ナナシムが扉に触れると、模様が動き出し、一枚の絵のように組み替えられていく。
意味のない模様だと思っていたが、これは意味の有りそうな絵だ。
「こんな所でも見るなんてね」
「天草さんはこれが何か知っているのですか?」
「クロ君だっけ、戦後生まれなら知らなくても無理は無いかな。アレはピラミッドって……あー、昔ね、人類が住んでた最初の星にあった遺跡があんな三角形だったんだけど、それがピラミッドって呼ばれてたの」
ピラミッド……あの三角のが?
俺達の先祖は変な物を作ったんだな。
「でね、あれはピラミッド型に世の中構造を記している絵だよ。一番上に機械人形、真ん中に法律、そして最後のあの小さくて無数にあるのが」
「人間、ですか?」
「そういう事。終戦時には、少なくともアタシが帰った時にはあの絵がどこにでもあってね。法を超えた存在である機械人形を讃えろとか、とにかく媚を売る奴らばっかりだったよ」
貴女は俺達に媚を売ってましたけどねと言ってやろうかと思ったが、そこから発展する会話には喧嘩しか見えなかったので何も言わない事にする。
彼女は機械人形をアンドロイドと呼んでいたから薄々分かっていたが戦争経験者のようだ。
生き残りはあまりいないと聞いていたが、結構いるもんなのか。
「開きますよ」
一枚の絵のようになった壁が、ピラミッドと呼ばれた三角の線にそって上下に分割され、壁に飲み込まれていく。
「しっかし機械人形に高く売れる物を採掘するのに機械人形の許可が必要って……しかもこの感じだと機械人形が完了してんでしょ? 自分で取りに来いっての」
天草さんの意見はもっともだ。
俺はてっきり、機械人形じゃ取りにくいからとか、そんな理由だと思っていたのに。
「きっと面倒なのでしょうね、では天草姫雪さん、お先にどうぞ」
「いいの? ありがと! ナナちゃんメイド好きー!」
やめなさいナナシム。
そんな嫌そうな顔をしてやるな。
仕方ない、助けてやるか。
「メタルが具体的にどんな物なのか、この先のどこにあるのかを俺達は知りませんから、良かったら案内して下さい」
ナナシムの手を引いて天草さんから離れさせる。
ナナシムはホッとした顔で、彼女はその逆の顔だ。
「開けてもらったからね、それぐらいお茶の子さいさいよ!」
天草は軽い足取りで進んでいく。
こんなに足場が悪くて、慎重に進まないと転倒するだろうこの道を、彼女は足元を見ずに歩いている。
「天草さんは……何者なんだ」
「わかりませんが極めて高度な訓練を受け、経験を山のように積んでいる事はわかります」
「何でそこまでわかるんだ?」
「将来的にはクロ君も分かるようになると思いますが、彼女には隙がありません。例え今後ろから攻撃しても躱され、カウンターまで決めてくるでしょう」
「すごいな、でもお前よりは弱いだろ?」
「この足場とクロ君がいる状態では確実に負けます。全力で、場所がもっとマシなら互角といった所でしょうか」
ナナシムと互角。
天草さんが話していた内容的に、彼女は人間だ。
機械人形の中でも……あまり知らないが、最強クラスに強いナナシムと互角の人間がいたなんて。
「ん? 早く行きましょ」
ナナシムにそこまで言わせて、俺には何も感じないのが逆に怖かった。
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