Day 41 演劇のMM33


 

 俺より一回り小さな男の子、そんな姿をした俺よりと強い機械人形が目の前にいる。

さっきまでぶつけられていた殺気と、黒い、吐き気すら感じた空気は気がつけば無くなり、彼は俺の身分証を見て固まっている。

 

「あの」

 

「あ、ああごめんごめん。そっかそっか、君が……おっきくなったね!」

 

「……?」

 

「昔はこんなのだったよ、こんなの」

 

手で丸を作られても困る。

いや、えっと、何から質問すれば。

 

「だとしたら今はSO7746と暮らしているのかい?」

 

「えす……あ、はい。ナナシムと呼んでいて、ここにも来ています」

 

「ナナシム、7746だからナナシムか、いいねそれ僕も使うよ!」

 

彼はニコニコと笑いだし、ナナシムは何処にいるのか、そして。

 

「レーヴェは何処にいるのか教えて」

 

本題に入った。

俺はこの状況を、俺の事を知っている状況をチャンスだと感じ、交渉に入る。

 

「レーヴェの仲間にヴィクトリアさんがいます、シリーズ:ヴィクトリア・F・306です」

 

「ヴィクトリアの306……義眼のヴィクトリアの生き残りだね」

 

義眼。

そこに疑問を覚えたが今はどうでもいい。


「レーヴェを殺すのは構いませんが、ヴィクトリアさんには手を出さないでもらいたいのです」

 

「当たり前だろ? 敵対してないんだから、殺すも何も、手は出さないよ」

 

「いえその、もしかしたら彼女が貴方様……えっと」

 

「僕はMM33、エムエムでもミミでもいいよ」

 

言い方に困っていたら、彼はペコリと頭を下げ、よろしくと言って名乗ってくれた。

 

「エムエムさんに攻撃をするかもしれません、一応私とナナシムで止めるつもりですが、もし、万が一当たってしまった場合に」


「君はさ、勘違いしてる。確かに人間が僕達を作ったけど、もう僕達は人間を通り越し、新たな種として生命を支配しているんだ。支配者に向かってそのお願いは無いだろ?」

 

殺気は無いが、サッパリとした表情で、お前は下だと宣言された。

当然の事だ、だがここで引き下がる訳にはいかない。

ヴィクトリアさんの安全を確実にする。

 

「今、ナナシムがレーヴェと戦っています。倒した後で街の外れに死体を持って集まる手筈になっていて……エムエムさんに一つ、芝居を打ってもらいたいのです」

 

「……芝居? この僕に、ピエロをやれって言うの?」


震えている。

かなり怒らせたか?

これはまずい、かなりまずい。

 

「すいませ」「アーッハッハッハ! 君達親子は本当に面白い、僕にそんな事言うのは君達ぐらいだよ」

 

『何か言った?』

みたいな顔しないで、そんなに笑われたら謝ったの馬鹿らしいじゃないか。

 

「アレならレーヴェには負けないだろうし、芝居に乗ったげる! それで、僕の役は何かな?」

 

俺はエムエムさんに全ての計画を話し、無茶だと思える質問をする。


「今、ヴィクトリアさんがレーヴェの元に向かいました。走れば二十分の距離で、もう五分は経ってますが、彼女より先にレーヴェの居場所にたどり着く事は可能ですか?」

 

「できるよ、でもそれじゃナナシムがレーヴェを倒して持ってくるって話と違わない?」

 

「必ず引き渡します、どうか……信じて下さい」 


エムエムはうーんと言いながらくるくる回り。

 

「恩もあるし、信じるよ。君のプランを聞かせて」

 

俺が即興で考えた作戦はこうだ。

ナナシムの所にエムエムと一緒に向かい、レーヴェの死体をエムエムに渡す。

俺とナナシムは隠れて、エムエムとヴィクトリアさんを対面させ、犯人をエムエムに仕立て上げる。

 

「僕が悪役ね、わかった、完璧に演じてあげる! それじゃあ掴まって」

 

「えっと、どこにですか?」

 

「ほら背負って走るよ、いい?」

 

俺とエムエムさんは、まずレーヴェを殺したナナシムがいる筈の場所を見た。

そこにナナシムの姿は無く、未だに戦闘中だという事がわかり、あの部屋へ向かった。

 

「入口はこれか、どうやって開けるの?」

 

「頭が……ふらふらして……」

 

人間が耐えられるぎりぎりのスピードとか言ってたけど絶対嘘、頭ちぎれるかと思った。

 

「ごめんごめん、やっぱりあの速度はしんどいよね。自分で開けるよ」

 

液晶に腕を突っ込み数秒後、ロックが解除されて中に入れるようになった。

 

「……ッ!」

 

血の臭い。

並大抵の人間なら、この先に入るのはダメだと、辞めておけと脳内で警告が発せられ、手足は固まるか後ろに下がるだろう。

俺も数秒は固まったが、人殺しの訓練をナナシムから受けていたおかげで足を進ませる事ができた。

 

「ずいぶんと変な開き方をしたと思ったら33、貴方でしたか」

 

ナナシムの隣には机がある。

本来なら食事を乗せるべき場所には手足が曲がらない方向に曲がり、体にはいくつもくり抜かれた跡があるレーヴェの姿があった。

 

眼球の変わりに何処かの肉が詰められ、腹部と肩に眼球が埋め込まれている。

肋骨は突き出していて、左右の肋骨が掌を貫く形で拘束されている。


足は力で捻られたのだろう、二本の足が螺旋を描いて一本になってしまっている。

 

「クロ君、こちらへ」

 

血だらけだったナナシムのメイド服から汚れが落ち、新品のような服装に戻る。

科学力でどうにでもなるとは言っていたが、便利だな。

 

「これから運びますが、33が来たと言う事はプラン変更ですか?」

 

「ああ、俺達は外で隠れる。そしてエムエムさんがここに残ってヴィクトリアさんにレーヴェの死体を見せつけるんだ」

 

我ながら酷い作戦、いや、ヴィクトリアさんに対する酷い仕打ちだ。

でも、こうでもしないと彼女を守れない。

 

「ゆっくり話をしたいんだけど、もう来てるね。ナナシムはそこの彼を連れて隠れてて、彼女が攻撃してきても殺さない、ま、多少反撃するかもだけど重症にはしない。君との約束だからね」

 

ナナシムに連れられ、外に隠れた。

彼女が"ここならバレません"と言うのだから、きっと大丈夫だ。


「ハァ……ハァ……嘘、何で開いて……レーヴェしゃん! レーヴェしゃん!」

 

入口にやってきたヴィクトリアさんは、中を見て歩みを止めた。

おそらく、あの臭いに足止めされているのだろう。

 

「や、遅かったね」

 

会話が始まった。

 


 



 


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