Day 3 屋敷攻防戦
ウィナに教えて貰った機械人形の敵がよく出没する場所にもうすぐ着く。
町から歩いて一時間程の場所で、古くて大きな館が今のねぐららしい。
しかし疑問は消えてない。
何故ウィナが倒しに行かないのか、ねぐらが分かっているならば、ここに爆弾を設置したり待ち伏せたりとやりようはいくらでもあるはずなのに……。
「ナナシム、変だと思わないか?」
「人の体は再生も作り直しも出来ませんから、リスクを背負いたくないのはありませんか?」
「んー! これおいしー!」
ヴィクトリアさんは俺の話よりも、町で買ったピザパンに夢中だ。
……少しだけ、ピザパンに腹を立てたのは言わないでおく。
『奴らは移動を続けるんだけど、最近はこの場所にいたのを確認したわ。情報源? 私が直接見てきたのよ』
ウィナが印した地図は驚く程正確で、館のある程度の情報も載っている。
まぁ、ナナシムの言う通り相手の実力が分からない以上、返り討ちに遭う可能性だってゼロじゃない。
誰だって初めて会う敵と戦うよりも、誰かが倒してくれる方がいいに決まってる。
「油断できねぇな」
「あーおいしかった! えっとね、クロ君は私が守ってみせるから、大丈夫だよ!」
ヴィクトリアさんの笑顔を見逃すまいと彼女の方を見て、すぐに地図へ視線を戻す。
館の入口から内部の造りまで、一部だけだが正確に……。
こんな正確に書けるもんだろうか。
嫌な予感がする。
どこまで知ってるんだ?
「ナナシム、安全確認をしながら進め」
「ほえ? 今の時間帯には居ないんだよね? ……あっ、用心して進むって事? でもそれなら何で正面から……」
ヴィクトリアさんは首を傾げていて魅力的だが、今はナナシムの反応を知りたい。
「まかせて下さい」
ニヤニヤと笑う彼女は地図を見ながら続ける。
ただの人間の斡旋官がここまで探れる訳が無いと、そしてあの館の中には罠のような物が設置されていると、俺の直感と経験が言っている。
「私が先頭、クロ君とヴィクトリアさんは私の指示に従い行動して下さい」
ナナシムが屋敷の扉を開け、中に案内する。
彼女が踏むなと言った場所を避け、壁を触らずに、慎重に慎重に進んだ。
やはり、俺の直感は当たってる。
ヴィクトリアさんは気づいてないみたいだが、よく見るとナナシムが注意した場所は魔法の痕跡が意図的に隠される形で残っている。
そう、罠が仕掛けられているんだ。
「ではここで迎え撃ちましょうか」
「迎え撃つって、て、敵がここにくるからでしゅか!? 中に居るんじゃなくて!?」
「はい、来ます」
ヴィクトリアさんが武器を取り出し、周囲を警戒している。
「あわわ……ヒューマギア起動!」
手に握られた白い剣の柄から輝く刀身が出力されていて、キレイだとも感じてしまう。
「まだ来ませんよ、ヴィクトリアさん」
「あう……すいません」
……可愛い。
「もしかしたら、元々そんな敵なんて居なかったのかもしれませんね」
ナナシムが変な事を言っていたが、質問なんてしている暇はなかった。
迎え撃つ為に俺とナナシムは仕掛けられた罠の位置をずらしたり、新たに設置したりとやるべき事が多くあったから。
「えっと、私は何をしたらいいのかな? 敵は……居ないんだよね?」
「じゃあ笑顔を見せてくだ」
「窓から外を監視していてください、クロ君はこっちで作業ですよ」
ナナシムにボコボコにされ、痛む頬や腹を押さえながらどうにか罠を再設置した。
そんな事をしていたら、日は沈み、ヴィクトリアさんが慌てて俺とナナシムを呼び出した。
「な、何か来てます! 六人ぐらいで、武装してますよ!」
数は六人。
こっちの倍か。
「罠で半分は潰したいが、うまく掛かってくれるかな」
「大丈夫です」
ナナシムが見つけた罠一つないセーフハウスの中から遠隔視の魔法で外周、内部の罠のポイント、そしてこの場所の周囲を映し出す。
「こ、こんな製品あったんだ」
「魔法ですよ、戦争中も使われていたと聞いてますが……知りませんか?」
「魔法……そんな呼び方じゃなかったけど、確かにあったな……人間は使えるけれど、クローンはそれを使えなかったからあんまり知らないけど」
ヴィクトリアさんは魔法について殆ど知らないらしい。
だが俺もクローンは魔法が使えないなんて知らなかった
てっきり知らないのは、魔法が発見されたのは戦争のほぼ終盤、その頃にはもう彼女は敵に捕まっていた可能性があるし、そんな中で魔法についての知識なんて絶対に伝わらないだろうと勝手な勘違いをしていた。
「……ごめんなさい」
「気にしないで、でも今度魔法について教えて欲しいな! もしかしたらクローンにも使える魔法とかあるかもしれないし!」
前向きなヴィクトリアさん。
……この人みたいなクローンが何人もいるんだよな?
全部買ったら……楽園が……いやダメだろ俺!
相手は人だ、買うとか……ナナシムと同じ考え方じゃねぇか!
「えっと、罠はここだ、そういった思い込みと新たに仕掛けた罠。二種類もあれば必ずどちらかには引っかかりますよ」
「出来る事なら両方掛かって欲しいけど、いけっかな」
しばらくして、敵の六人が屋敷に入ってきた。
黒いローブに白黒のフルフェイスマスク、魔法を使ってくるかもしれねぇな。
しかしまぁ、罠の場所を分かっているのか、余裕そうだ。
「仮面で顔は見えないな、あんなアイテムつけて、僕たち怪しい者です! って言ってるようなもんじゃないか」
「よろしいのでは? 自己紹介の手間が省けます」
ヴィクトリアさんがクスっと笑い、俺も笑った。
入口近くの階段。
そこには早速罠がある。
本来の罠は階段の一部はホログラムで、普通に上がろうとすると空いた穴に落ちて串刺し、といった物だが。
「かかります」
そのホログラムの穴の先にいくつかトラバサミをおいておいた。
ホログラムを発生させる機械をナナシムが乗っ取り、俺が何回も穴を飛び越え、着地する足の位置を調整した。
「この悪趣味な屋敷のアイテムの威力、見せて貰うか」
六人はやはりホログラムの前で立ち止まり、ジャンプして穴を回避した。
まずは二人が飛んだ。
そして、嬉しい事に二つしか置いてないトラバサミに二人もかかってくれた。
「やりましたね」
ナナシムの拍手はおいておいて。
トラバサミにかかった二人はそのまま後ろに転がり、ホログラムを貫通して穴に落ちて行った。
顔なんて見えなくても分かる。
あの四人、怯えているぞ。
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