とある(福祉)事業所 M 新刊 3
あらいぐまさん
第1話 弱さとは何か。
学は、会社の仲間から車を買い、その車が欠陥品だったにもかかわらず、相手に恍けられ、大きな損害を被った記憶がある。
――バカだった。誰かが傍で、ひと言でも注意してくれたらよかったのに。
それが、学の弱さだった。
助けを求められず、傷口は広がり、泥沼になった。
結局、親がすべて後始末をした。
――恥ずかしい。
弱さとは何か。
弱いと認知されていることには、良い面と悪い面がある。
良い面は、収入の少なさゆえに行動パターンが固定され、余計なことを考えず、ただ時間を潰すだけで一日が終わることだ。
では、悪い面は何か。
刺激がなく、生活に潤いがないことだ。殺伐とした日々は、心を荒れさせる。
学は執筆を選んで時間を潰しているが、本当は、気軽に仲間と楽しく遊びたい。
そんな夢を見ながら、今日も財布を開き、孤独さんとお友達――。
それでも、「事業所M」での毎日は、武道の試合のようなものだ。
礼に始まり、礼に終わる。
この試合を、彼は五年間、毎日繰り返してきた。
読書を通じて学んだことがある。
どれほどスキルを高めても、それを扱う心が正しくなければ、大きな技ほど結果が大きく変わる。
マイナスに転ぶか、プラスに転ぶかで、人生はまるで違ってしまう。
だからこそ、技を覚えたら、それ以上に“心”を十年ごとにアップグレードしておかねばならない。
さもなければ、心身は腐ってしまう。
変化の激しいこの世の第一線に留まりたいなら、学ぶことに終わりはない。
この考えを精神障害のある利用者にも伝えたいと思い、「越後の魂」という言葉が腑に落ちたので、今はそれを使っている。
仕事を教えながら、彼らのことを思うと、「越後の魂」もまた伝えていかねばならないと感じる。
ただ、人の理解はそれぞれ違う。常に観察していなければ、機微はつかめない。
弱者は、共に成長しながら、多くの人と団結していかなければならないのだ。
学が地域の中で小さな存在であるように、他の人もまた小さな存在かもしれない。
だからこそ、小さな者同士が連帯し、受け入れの地盤となり、大きな防具となる支援員のいるこの場所が、最適だと考えた。
――ここしかない。
そう思った瞬間、胸の奥で何かが軋んだ。
本当にやれるのか、と囁く声と、もう逃げたくない、と叫ぶ声がぶつかり合った。
学は、「とある事業所M」に骨をうずめる覚悟で、大きな旗を突き立てた。
――それは、「とある事業所M」の支援員には、大きな迷惑かもしれない。
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