2019/8/11 (日)
二回戦。憎たらしいほど青い空の下で、俺はメガホン片手に応援していた。
だが残念なことに、状況は良くない。
まず、俺たちの打線は相手投手に完璧に抑えられている。全然飛ばない。ノーヒット。
逆に相手からはファールラインすれすれに打球を飛ばされ、おまけと言わんばかりにセンターの頭を飛び越えるツーベースヒット。
俺たちはゼロ、相手は一点。巻き返せる範囲の攻防戦が、一番選手の心臓に悪い。
カツン。
先輩の詰まったあたりが三塁のアルプス席に飛び込んだ。わぁと小さな悲鳴が上がる。
「ファールボールにご注意ください」
ああ、またファールだ。バッターボックスの先輩は、ファールを連発して粘ってはいるのだが、中々前に飛ばしてくれない。見ている側は自分の事のようにヤキモキしてしまうし……。
「ダメね、変に緊張してるわ。三振を恐れずに振らなきゃ。ベーブ・ルースも言ってたじゃない。ホームランバッターに三振はつきものなのよ……」
……この頭上の怪異(もどき)が五月蝿くて集中できない。
「ちょっと、気が散るんで止めてもらえます?」
俺が(周りの目を気にして)小声なのを良いことに、ノブ子はベーっと舌を出す。
「あんたの高校が情けないのがいけないのよ。相手の投手に良いようにやられちゃってさ!」
ノブ子はあっちへふわふわ、こっちへふわふわ、小言をぶつぶつ言いながら、俺の肩に思い切り寄り掛かってきた。
「大体ね、あんたたちの応援が情けない! もっと腹から声を出しなさい!」
そう言って俺を殴るノブ子。痛い、暴力反対、と反応する間もなく、ノブ子はお得意の分身をする。
「いい? 私が一声出すだけで、あっという間にヒットになるんだから!」
言うや否や、ノブ子は応援団の声に合わせて「かっとばせー!!」と声を上げた。
いや、そんな上手くいくわけ……。
カーン!
……まじか。ライト線に上手く乗ってヒットになった。
「ほらね! やっぱり私の応援って凄いわ!」
文字通り「鼻高々」なノブ子。俺たち応援団もようやくのヒットに興奮を抑えられない。
「さぁ、この調子で行くわよ!」
もう怪異でも化け物でも何でもいい。この波に乗らせてもらう!
「フレーフレー!!」
「かっとばせー!!」
キャッチャーと目を合わせるピッチャー。手首をしならせて放つストレート。
熱波を裂くようなバットスイング。快音と共に走るバッター。
そう、これが夏の音。
「全く、いつまで経っても変わらないわね」
俺が声を張り上げる横で、ノブ子が静かに呟いた。
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