第13話 メグちゃん、参戦します

「ところで今日は火曜日だよな」

「そうですわね」

「火曜日は辻岡が俺と勉強する日だよな?」

「そうですわね」


 ここまで言っても、しらを切り続けるか……。


「どうして、お前もここにいるんだよ、伊集院?」

「ワタクシはIMS部の正式な部員ですわよ? いついかなる時に部室を使おうがワタクシの勝手ですわ」


 ぷいっと横を向いて、太陽のように輝くサラサラなブロンドヘアーをふわっと振りかざし、伊集院のやつは盛大に開き直りやがった。


「それで本音はなんなのよ?」

「勉強の邪魔はしませんので、安心してくださいまし。辻岡様が隼人様に変なことをしないか見張っているだけですわ」

「……す、するわけないじゃない!」


 ギャルのくせに、その程度の挑発で動揺しているのか、辻岡の顔は怒りでトマトのように真っ赤になった。

 どんだけ俺に変なことしたくなかったんだよ。

 傷つくんだけど……。

 一応、男です。


「ま、まあ、そうだよな。俺が辻岡に変なことをするのもありえないし。絶対に」

「あ゛っ!???」


 な、なんか、めっちゃ睨まれたんですけど……。

 ギャルモード全開の辻岡こわい。

 なんでだよ、お前もさっき似たようなことを言ってたじゃないか。

 理不尽すぎる。




 コンコン。




 おや? こんな時間に誰だろう?

 佐藤先輩はテニス部の練習があるはずだし……もしかして顧問の天堂先生か?


「俺が様子を見てくる」

「わかったわ」


 席を立ち、部室の入り口へ行き、そこにある引き戸を横にガラッと開く。

 すると現れたのは、めっさキュートな園児服の幼女――って、メグちゃんじゃないか!

 こんなところで何をしているんだ?


「何しにきたんだよ?」

「未知の研究。参加したいので」


 ああ、メグちゃんはそういうものにワクワクするお年頃か。

 懐かしいな。俺も昔は宇宙人とか、妖怪とか、わけがわからない存在と仲良くなりたかったが、今は普通の人間とすら仲良くできない。


「天堂先生に連れてきてもらったのか?」

「自分で来た。前に切符の買い方を覚えたので」


 おそらく先生から部活のことを聞いて、自力で参加する方法を思いついたのだろう。

 物静かで不思議な子だが、やはり頭は良いんだな。


「切符代はどうやって確保したんだ?」


 メグちゃんはお小遣いをもらっていないはずだ。

 まさか、無銭乗車?

 だとしたら保護者代理人として叱らなければならない。

 

「お兄ちゃんの財布に入ってた」

「はい!?」


 慌てて懐を確認してみると、財布の中身はしっかりと三百円ほど減っていた。

 自分の数少ない資産は病的なほど、きっちりと把握しているので間違いない。


「メグちゃん、人のお金を勝手に使うのは流石にダメだろ……」

「お兄ちゃんが来てから、我が家の生活費がどれほど増えたか知りたい?」


 そ、それを言われると反論しづらい。

 赤の他人なのに、先生はお金を使って俺を養ってくれている。

 メグちゃんは先生の家族なので、それは間接的にメグちゃんの財産にも手を出しているということになる。

 俺って、もしかしてただの穀潰し?


「わかった、切符代は許す。でも、メグちゃんはここの生徒じゃないから部員にはなれないだろ?」

「部員じゃなくてもいい」


 まあ、そうだよな。

 正式な部員になれなくても、活動には参加できるし、先生の身内という肩書きもあるので、学校から追い出されるようなことはないだろう。


「そうか……。で、メグちゃんは具体的にこの部活でどういうことをしたいんだ?」

「七不思議とか超常現象について話す。ナスカの地上絵、ミステリー・サークル、バーミューダトライアングル。宇宙人、地底人、海底人。幼稚園の友達はバカなので、難しくてわからないと言うけど、お兄ちゃんみたいな高校生なら理解できる」

「えっと、そのだな……。メグちゃん、悪いが俺も他の部員も多分、難しくてわからないって言うぞ」

「お兄ちゃんも、お兄ちゃんの友達もバカ?」

「俺はともかく、部室の中にいる他の二人はバカ――イテッ!」


 伊集院か辻岡が投げつけてきた消しゴムが俺の頭に被弾する。


 この部活の表向きの情報は全部嘘なので仕方がない。

 宇宙人とか地底人とか一度も話題に出たことがないし、この部室でやっていることといえば、完全にただの勉強会。


「も、もしかして……この部活は嘘?」

「言いにくいんだが、まあ、そんなところだ」


 メグちゃんは特にがっかりした様子は見せず、「そう」とあっさりした感想を告げた。

 どうやら諦めてくれたようだ。


「では、責任者に告げ口してくる」

「ちょっと待った!!!」


 くるりと踵を返したメグちゃんの腕を掴む。


 まずいな。

 実態を先生に暴露されたら、この勉強部屋を没収されてしまうかもしれん。

 どうにかメグちゃんを満足させて、この場を円満に収める方法は……。


「そうだ! 俺の友達に会ってみないか? もしかしたら超常現象の話を聞いてくれるかもしれないぞ? おい、伊集院!」

「どうかしました、隼人様……って、この可愛いお嬢さんは誰ですの!?」


 呼ばれて俺の後ろまでやってきた伊集院が、メグちゃんを見て歓喜の声を上げる。


「先生の身内だ。部活のことを聞いて超常現象の話がしたくて、ここまで来たらしい。ちょっと話に付き合ってやってくれないか?」

「いいですわよ」


 メグちゃんの可愛さに釣られて、まんまとかかったな、伊集院。

 これでメグちゃんと伊集院を同時に厄介払いできるので、予定通りに辻岡の勉強を見てやることができる。

 一石二鳥だ。




 ティンティロリリルン。




 辻岡のスマホから可愛らしい着信音が鳴った。


「あ、茨城ごめん。明美から呼び出しが入ったから今日はもう帰るわ」

「そうか? 今日はお前の番なんだし、もう少し勉強していった方がよくないか? そろそろ期末だぞ?」

「うーん……。確かにまだ聞きたいことがいくつかあったけど、やっぱ明美優先……かな?」

「お前、本当に女王ギャルのことが好きだよな。男が欲しいって言われたら、率先して自分の彼氏を渡すんじゃないか?」

「ちょっ、流石にそんなことはしないわよ。でもまあ、親友だし? やっぱり頼まれたら断れないっていうか……」


 お前はあいつにとっての親友じゃなくて、ただの都合がいいやつなんだよな……。

 いつになったら気づくのやら。

 そのうち、俺がはっきりと教えてやって、目を覚ましてやる必要があるのかもしれん。

 このまま放置しておくと勉強に支障が出かねないからな。


「じゃあ、また明日教室でね」

「おう、また明日な」

「さようなら、辻岡様」


 辻岡は俺とメグちゃんの隣を駆け抜けて、一足先に帰ってしまった。


「勉強ってなんのこと?」


 メグちゃんは子リスのように可愛く首を傾げる。


「えーっと……、超常現象について勉強するってことだ。おい伊集院、せっかくだしメグちゃんに、この部活がしてきた超常現象のリサーチについて話してやれ。」

「いいですわ……って、は、はいー!? そんなの無理で――むぐぐ」


 都合の悪いことを言われてしまう前に、俺は携帯していたコッペパンをすかさず伊集院の口の中に突っ込んだ。

 うむ、やはり硬いコッペパンはいい武器だ。


「俺はあっちの一人用机で、自分の勉きょ……リサーチに励むから、メグちゃんの相手は頼んだぞ。せっかくの新入部員なんだし仲良くしてやってくれ」


 邪魔者たちを排除。

 自分の勉強タイムを確保。

 無事に円満解決だ。

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